title11.gifねぎ様 投稿作品 「ぬくもり」 第一章 6−11




カチャッ



淳平は片手に毛布を持ち、部屋に戻った



「あ、真中くん、おかえりなさい!」

綾は、布団の上に正座して、本を読んでいた

「ご、ごめんな・・・東城」

「どうしたの?」

「い、いや・・・ほら・・・布団が・・・」

「あ・・・」


淳平が言ってる意味が今になってやっと理解したのか、綾は顔を真っ赤にして読んでいる本を閉じた


「お、俺、ほら!毛布貰ってきたから!あ、あっちのコタツの方で寝るからさ!」

奥にある掘りごたつに向かって歩き出す

「と、東城!明日も早いからもう寝ようぜ!な!!」

「あ、真中くん!!」

淳平はコタツの中に足を入れようとした





コツン!





「あ、あれ??なんだ??」

淳平はもう一度コタツの中に足を入れてみた





コツン!





「なんだ・・・?」


淳平はコタツの中を覗き込んだ


「なんかね・・・」

綾が話しかける

「掘りごたつは冬限定なので、夏場は子供が潜ってしまわないように使用禁止になってるんだって」

「みたいだな・・・」

淳平の眼に映ったものは、コタツの中におかれた大きな石が3つ

「注意書きに書いてあったよ」





「・・・・・・・」


「・・・・・・・」






夏とはいえ、山の夜は気温が下がり、長袖を着ていないと肌寒い

この部屋も空調は効いているとはいえ、風呂上りの体温を奪っていくには十分な涼しさではあった





「じゃ、東城!お休み!!!」



淳平は部屋の明かりを強引に消すと、布団から離れた所で、カベに向かって毛布にくるまって横になった





「・・・・・」



「・・・・・」






静まり返った部屋の中に、自らの心臓の音が聞こえてくる




(お、俺ってば何やってるんだよ!もっと東城と色んな話とかしたいのに・・・



   何、照れてるんだ・・・




     まだ寝なくてもいいじゃないか・・・






          時間はまだあるんだから・・・)
      
 






目を瞑り、全てをさえぎるかのようにもぐりこむ淳平










「真中くん・・・」




後ろから、か細い声が聞こえてくる










「真中くん・・・」







淳平は、綾の方を振り返った



綾は先ほどのまま、布団の上に正座していた



窓から入る月の光を背に、影となるその表情は、淳平からはハッキリとは見えない。

だが、真っ直ぐに淳平の方を向いているその姿は、とても綺麗に映っていた





「あたしは・・・



いいよ・・・」






「はぃ!?」






一瞬、綾が何を言ったのかわからなかった







「ま、真中くんさえよければ・・・



あたしは・・・




かまわないよ・・・」








下を向き、声を出す綾の姿。ドライヤーで乾かしただけの髪が、顔を覆い、口元がやっと見えるくらいだ



「と、東城・・・お、俺はここで寝るから平気だって・・・」




「・・・・カゼ・・・・」




「・・・カゼ!?」




「真中くん・・・カゼ・・・引いちゃうよ・・・」




「だ、大丈夫だよ!俺、こう見えても丈夫なんだぜ!あははは〜〜」




腕をまげ、なぜかカゼとは関係ない力こぶしを見せる




「ダメ・・・夜は冷えるよ・・・



   それに・・・




          真中くんがカゼ引いたら、映画・・・





                 作れなくなっちゃう・・・・」





「で、でも・・・」





綾の言ってる事は十分わかってる。この場所で寝ることは、正直、あまり好ましいことではない。
今、この段階でも、肌に少し寒さを感じているくらいだ。カゼを引かないという保障は正直ないに等しい。それに、淳平が倒れれば、今回の映画合宿自体が進行できずに止まってしまうことも明らかだ



「ね、真中くん・・・




      お願いだから・・・





          あたしは・・・






                平気だから・・・・」






自分の中で、葛藤はある。綾とひとつの布団の中で過ごすことに、自分を抑えられることができるのであろうか?
綾は、自分の事を信じて、言ってくれている。自分の事を心配して言ってくれている。
その優しさを無にするわけにもいかない。



だが、淳平の脳裏には、あの日の出来事が甦る


もし、去年の合宿の時のように、抱きしめてしまったら・・・




止まることができるのであろうか












キュッ


綾は両手に力を入れた








「ご、ごめんね・・・困らせちゃったね・・・」





綾はそういうと、ゆっくりと布団の中へともぐり、淳平に背を向け掛け布団に顔を隠した








「あ・・・・」
(ち、違うんだ・・・東城・・・   お、俺は・・・)




綾が布団に入る姿。その姿はとても寂しそうに、そして、どこか、胸が押し付けられるような感覚を与えた








一人で寝るには大きすぎる布団

少し体を動かせば、冷たさが肌に触れ、そしてその冷たさが、今、一人なんだという孤独感を綾に与えていた




    『寒い・・・・』




綾の気持ちは、今、その言葉で埋め尽くされようとしていた。本当に寒いわけではない。
布団の中ではあるし、風呂からあがって、まだそんなに時間が経っていないのだ。
逆に少し汗を掻くくらいの暑さがあるといってもいいだろう。



ただ・・・



すぐ傍にいる淳平が 自らを拒むが如く距離を取ろうとするその行動に、精一杯の勇気で出した言葉を全て、否定されたような気がしていたのだ。


両手を胸の前でたたみ、


眼を瞑らずに、ただぼんやりと窓の外を見続ける


カサカサという木々の音が聞こえ、その静かなささやきが、綾の眼をいつの間にか潤ませていた












ふわっ








「え・・・!?」






綾は布団が一瞬軽くったので、ふと背中の方を振り返った





「ま、真中くん・・・?!」



目の前には淳平がいた。一番すみの方に体を置いてはいたが、確かに淳平が目の前にいた。



「あ・・・やっぱ・・・その・・・



    東城の言うとおりにするよ・・・




             はしっこだけ・・・いいかな?」






少し照れた表情の淳平に、綾は言葉をかけた




「うん・・・よかった!



      真中くん、カゼ引いたらやだもん」





優しく微笑むその表情。同じ布団の中で見る、その表情は、淳平の鼓動を高まらせていた。



「じゃ、じゃあ寝るね!お、お休み!!!」



「あ・・・うん・・・お休みなさい・・・」



淳平は自らを抑えるが如く、綾に背を向けた











窓の外から、虫たちの声が聞こえてくる



背中からは、す〜〜っす〜〜っと息遣いが聞こえてくる



身体を暖めている布団が、お互いの呼吸で上下を繰り返し、二人の間に生まれる隙間に、冷たい空気が流れ込む



(ね、眠れん・・・ と、東城、どういうつもりなんだろ・・・


    でも、きっと、何も考えてないんだろうな・・


  俺のこと、信じてくれてるんだよな




             でも・・・




   
                    大丈夫か?俺・・・)












理性を保つとはいっても、淳平も健全な高校男子。
同じ布団で温もりを分かち合っている少女がいるのだ。


少しでも、錠がはずれれば、止まることはできないであろう。






静かな部屋。お互いの息遣いが聞こえてくる。

テーブルの上に置いた、腕時計の秒針の音が、止まった空間に響き渡る












「あの日も・・・・」



「え・・!?」






綾が突然、口を開いた










「去年のあの日も・・・





             こんな風に二人だけで夜を過ごしたね・・・」





淳平の脳裏に、先ほど、一瞬浮かんだ去年の出来事がフラッシュバックする








「去年は・・・


正直言うと、すごくね・・・・




                            怖かったんだ・・・」






「そ、そうだったんだ・・・」








背中での会話。綾の言葉にゆっくりと答えることしかできない淳平。








「うん・・・でもね・・・




                淳平くんと背中を合わせたとき・・・」








お互い、裸で背を重ねあった光景が、淳平を襲う










「あの時は、すごく・・・






                       安心したんだ・・・」







「そ、そうか・・・?」









「うん・・・




           真中くんの背中・・・






                       すごく暖かかったよ・・・」









「・・・・・・(ど、どうしたんだ・・・・東城・・・)」







「でもね・・・




       今日は・・・





               あの時とは何か違うかな・・・・」





ゆっくりと体の向きを入れ替える





綾の眼には、耳まで毛布を被ってる淳平の背が映る







木々のささやきも、虫たちの歌声も、そして先ほどまで耳に残っていた時計の音も、もう二人には届いていない







「何か・・・





                何か、今日はすごく安心する・・・





                             あの時よりも・・・






                                           ずっと・・・」





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耳の後ろから、細く聞こえてくる綾の声





淳平は、そっとその声のしてくる方へと体を向けた






「・・・・・・!?」





淳平の眼には、先ほどまで背中越しに感じていた、愛おしい少女の潤んだ瞳が飛び込んできた






言葉が止まる




無言のまま、見詰めあう二人






          ドクン               ドクン




   

心臓の鼓動が高まるのを感じる






淳平が手を伸ばせば、全ての感覚を狂わせるような、白くて柔らかい肌がそこにある







「・・・・・・・・」





「・・・・・・・・・」







潤んだ瞳を見つめ続け、こみ上げる自分を抑えるが如く、視線をやや下に移す





「・・・・!?」




逆効果だった。視線は、綾の胸元を捉えた


きちんと着ていたはずの浴衣は、体を入れ替えたことで、少しはだけ、綾も気づかない内に胸元をさらし、白い肌と、ふくよかな膨らみを見せていた







              ドクン               ドクン





抑える





抑えなければいけない





淳平は眼を瞑り、頭の中で、一生懸命自分自身のこみ上げてくるものを抑制しようとしていた







「あはっ・・・あたしったら、何言ってるんだろうね!ご、ごめんね!真中くん!!」





「・・・・・・・・・!?」






柔らかい、そしてどこか切ない表情で笑う綾

ゆっくりと淳平に背を向け、再び窓の方へと顔を向けようとする







        ドクン                  

 

                    ドクン





                                        ドクン!






だが、その綾の動きをとどまらせるものがあった



11






「!?!?    


ま、 真中くん・・・・!?」






突然の出来事に体をこわばらせる


今、自分の身に何が起こっているのか、すぐには理解できなかった





再び、寒さを感じた一瞬


その瞬間に、綾の背中に感じる暖かい体温。自らの体を覆いつくしてくれるような大きな体。


自分の前へとまわされた腕に、一瞬の戸惑いを見せながらも



綾はゆっくりとその腕に自分の手の平を重ねた






背中に感じる淳平の鼓動





綾の足の上に、重なるように乗る淳平の足





綾の柔らかい手の平が、強く淳平の浴衣を握り締める






「と、東城・・



お、俺さ・・・」






淳平の腕の力がだんだんと強くなっていく


抱きしめた綾の体はとても柔らかく、長く湿った髪からはシャンプーの香りと、綾の匂いとも言うべきものが淳平の嗅覚を刺激する



   (す・・・すごい・・・・)



柔らかさに全てを見失い、体を綾の方に押し付けるように近づく



腕に当たる、綾のふくらみは、胸に感じる体とは別格の刺激を淳平に与え続ける



       
            ギュッ





小さな綾の体が、やや強引に淳平の体へと包み込まれていく


だが、その強さは決して、苦痛ではなく、むしろ綾にとっては心地の良いものとなっていた






ゆっくりと背にある声に振り向く綾






「  真中くん・・・・  」






風呂上りの上気した体が、やや冷えかけたころ、お互いの温もりが、自然と二人の距離を縮めさせていく






強く抱かれた淳平の腕の中で、ゆっくりと体の向きを変え






狭い空間の中、お互いに向かい合う







だが、先ほどまでとは違い、綾はまともに淳平の顔を見ることが出来ず、ただ、胸元を見詰め続けている



綾自身も、わかっているのであろう。これから始まる、淳平との『時』の行く末を



  (・・・あたし・・・



           どうしよう・・・




                     もっと・・・





                     
                          


            


もっと真中くんに近づきたい・・・) 







頬にあたる綾の髪。腕の中で身を任せる小さな身体。




        
      (だめだ・・・





                俺・・・






                   
                               止まらない・・・)  






淳平は、綾のアタマに手をのせ、軽くなでるように、髪をすいた



綾の体の中から、一瞬、力がふわっと抜ける




「ま、真中くん・・・」


少し顔を上げ、潤んだ瞳が見上げるその先には

今まで、ずっと思い続けていた人が映っている






「東城・・・」





ゆっくりと淳平が近づいてくる






修学旅行のとき違う


安心したからとかそういうことではない


ただ、今目の前にいる綾に対し


ただ、今目の前にいる淳平に対し





心の底から想う行動であった







吐息が感じる距離にまで近づく











部屋の中は、もう二人だけの音しか耳に入らない









綾は、少し顔をあげ、徐々に滲んでいく淳平の顔を見詰め返す








そして淳平の腕の中で









淳平の袖を固く握り締める











二人はどちらからともなく、ゆっくりと眼を閉じ











そして、暗闇の中














映らない影がゆっくりと、そして軽く重なった・・・・



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