未完成―第一章―1 つね様
―第一章 遠い現実の夢―
―1―
会社からの長い帰り道、ようやく家に着いた僕は部屋の鍵を開けると真っ先に暗がりのベッドに寝転んだ。
…今日も一日疲れた…
ネクタイを一気に緩め、ぼやけた天井を見つめながらそう思う。
ここの天井を見ながら、同じ台詞を心の中で何度呟いただろう。
無機質なビル、うるさい上司、作り笑顔の毎日。
まさか自分がこんな風に普通のサラリーマンをしているなんて、あの頃の僕は想像できただろうか。
同僚は皆、理不尽な扱いにもめげずに張り切って仕事に取り組んでいる。
なんて言うんだろうか、こう、輝いている。
それに引き換え自分は…
別に仕事をサボっているわけじゃない。ちゃんと毎日休まずに出勤しているし、与えられた仕事もきちんとこなしている。上司のご機嫌取りも忘れないし、同僚のサポートだってやっている。
でも、周りとの温度差を感じる。僕の仕事には心が無い。
いつも笑顔の仮面をかぶって仕事をしている。心の中はひどく陰鬱だ。
入社一年目、同僚達から感じるバイタリティが眩しくて、時に彼らをひどく遠くに感じる。
劣等感と嫉妬心を感じながらも、彼らと自分は違うと割り切ってやってきた。
もしかしたら、それは、自分が変わるチャンスから逃げ出しているだけなのかもしれない。
いや、逃げているだけだ。眩しくて、触れるのが怖くて、逃げ続けている。いつも都合のいい言い訳を理由にして。
そんなこと分かってる。分かってるけどできない。
それは過去に未練があるからだ。忘れるのが怖いから、忘れたくないから、いつまでも前に進めずにいる。
答えの疑問の答えをいつも過去に求めている。
こうやっていつも振り返る、あの頃の自分も、そういえば、ひどく眩しい。
一人の夜はいつもこうだ。
決まって昔を思い出す。あの頃は良かったと、情けない感情を抱きながら。
今日も僕は、過去から抜け出せない。そんな自分を馬鹿らしいと思いながら目を閉じる。
そういえば明日は休みだと上司が言っていた。風呂は明日の朝にでも入ればいい。とにかく寝よう。明日は昼まで寝ても構わない。
まどろみの中、仕事が無いと考えると身体の力がすっと抜けた。そして、ぼんやりとした意識の中、見飽きた思い出を映し出す。
…あの頃は良かった…
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