〜Everybody Needs Love〜5 - つね  様



『続きのストーリー』







西野との再会から1週間と2日、


西野との誤解はまだ解けていない。


でも心を決めた俺はいくらあるか分からない可能性にかける。


(携帯の電話番号が変わってなければ…)


二年も経てば携帯の機種変更はほぼ間違いなくしているだろう。


だけど番号さえ変わっていなければ…俺を信じてくれていたなら…


ずっと持っていた西野の番号を見ながらダイヤルを押す。


プルルルル


受話器から聞こえてくる呼び出し音。


(繋がった…番号…変わってなかったんだ…)


呼び出し音が重なっていくにつれて緊張が高まっていく。


ピッ


それが途切れたとき、緊張は最高潮に達した。


「…西野!?」


「ただ今、電話に出ることが出来ません。ピーッと鳴りましたら…」


体の力が一気に抜けた。


(…留守番電話…仕事かな?)


俺は留守電にメッセージを入れて受話器を置いた。














その後、俺はなんとなくあの場所に向かった。


そこへ行けば何かが変わるような、何かが始まりそうな、そんな感じがした。


西野の働くケーキ屋を通り過ぎて、古びた建物の中へ。









「お、淳平。久しぶりじゃな。」


「あ、館長。映画今やってますか?」


「おお、ちょうど今から上映するところじゃ。」


そこはテアトル泉坂。俺がバイトをしていた映画館。俺が影響を受けた一番の映画館。


そして……俺と西野の繋がりを生んだこの映画館。


俺は館内に入り席についた。相変わらずがらんとした客席が妙に懐かしい。





少し経つと明かりが消え映画が始まった。






その映画は−ある女が数人の女達と一人の男をめぐって争う内容、俺が初めてここで見た映画だった。


女達全員がひたむきで…だけど最後は全員バラバラになって−


映画を見終わったとき、あの時と同じように涙が溢れた。








「どうじゃ?久しぶりに見た感想は、」


いつのまにか俺の横に館長がいた。


「やっぱり…いい映画だと思います…」


あの時よりも多く流れる涙は止まらなかった。


「ん、どうした淳平?」


「…ちょっと…この映画の男の人が…今の自分と重なって…」


涙で詰まる声。






「淳平、知っとるか?」


「…えっ…何を…ですか?」


俺は顔を上げ館長を見た。


「この話には続きがあるんじゃよ。」


「続き…ですか?」


「この後一度離れ離れになった二人が再会して、もう一度結ばれるんじゃよ。制作の都合上カットされたようじゃがな。」


俺の涙は止まっていた。


この映画に続きがあると知り、驚きの感情があったせいもあるが、自分を重ねた悲運のストーリーが実は幸せな結末を迎える話であることを知り、希望が湧いてきたから。















「館長、今日はありがとうございました。また来ます。」


俺は映画館の入口で館長にお礼を言い頭を下げた。


「おお、いつでも来い。今度は手伝いもしてくれればありがたいんじゃがな。」


そう言いながら腰を叩き、だるそうな演技をする館長。


「はは…、考えときますよ。」


(いつも俺をこき使おうとする。こういうとこは変わってないよな。)


「それじゃあ失礼します。」


そう言って俺は歩き出した。










パティスリー鶴屋の前を通るとき、窓から中を覗いた。


そこには忙しそうに働く西野の姿。


(ホントこの店繁盛してるよな。…それにしても西野いい笑顔してるな…)


しばしの間その笑顔に見とれる。




そしてそのついでに時計を見る。時計の針は5時を指していた。


(5時…か…。西野の仕事終わるまでもうちょっと時間あるな。)


そう思い、再び歩こうとしたが、ある人の存在に俺は立ち止まった。





(…あ、さつき…?)




俺の視線の先にはさつきがいた。


向こうは気付かなかったけど、俺は確かに男の人と腕を組んで歩くさつきの姿を見た。





(東城の話…ホントだったんだな…)





そう思いながら俺は近くの公園に入り、ベンチに座り込んだ。




(やっぱり今の俺、あの映画の男の人と一緒だな。みんな俺から遠ざかってる。)




そう考えると気持ちが落ち込んでくる。それでも…







(…でも、俺は信じるんだ。続きのストーリーを。)



そう思い顔を上げる。もしも俺があの映画の男の人と同じだとしても、それならきっと最後には…




「だから…今日は西野に言わなきゃ。」


「何を?」


「会って誤解を解かなきゃ。そして……え…?」


(…今確かに西野の声が…したような…)




「で、『そして…』?」



そんなことを考えている俺の目の前に西野の顔が現れた。



「うわっ!」


俺は驚きの余り声を上げた。


「何よ。そんなに驚くことないでしょ。」


「西野!いつからここに!?」


「いつからってさっきからいたのに、淳平くん全然気付かないんだもん。」


「で、さっきの続きは?あたしに言いたいんでしょ。」




そう言われ、言おうとしていたことを思い出すが、本人を前にすると緊張してしまう。





「…あの…こずえちゃんとの…あれ誤解だから。こずえちゃんがひかれそうになって、それで…」


「分かってるよ。」


「…え?何で…?」


予想外の答えに驚く俺。


「だって淳平くん留守電に入れてくれてたじゃん。それともあれは嘘なのかな?」


(あ、そういえば…忘れてた…)


動揺する俺を見て面白がるように俺の顔を覗き込む西野。



(やっぱり西野…かわいすぎる…それに2年経って、前にもまして綺麗になったというか…かわいくなったというか…)




西野は少し経って前を見て口を開いた。






「…でも、嘘なわけないよね…だってじゃなきゃ夜中に汗びっしょりになってあたしを探してくれたりしないよね…」








(…えっ!?…留守番電話のことは俺が忘れてただけだけど…そのことは知らないはず…)




「西野…何でそのことまで…?だってあの時西野は…」




「あの後日暮さんから聞いたんだ。淳平くんのこと。」




(日暮さんが…。やっぱり助けられっぱなしだな、俺。)



会う度に、名前を聞く度に、日暮さんに対する劣等感を感じる。



「でも俺、結局何も出来なかった…一人でじたばたしただけで…」




そんな自分が、何も出来なかった自分が情けなかった。







「あたしは嬉しかったよ。」







(…えっ?)





「淳平くんがそんなに必死になって探してくれて、あたしのことそんなに考えててくれたんだな、って。」



少し照れ臭そうに話す西野の姿を見て俺の中で期待が高まっていく。







「それに、やっぱりあたしまだ淳平くんのこと…」


















「好きだな、って。」
















…良かった、すれ違っても君を信じて、そして、ひたむきに君を想い続けて。




何とも言えない喜びと嬉しさを噛み締めながら俺は答える。





「俺も外国にいるときもずっと西野のことばっかり考えてた。そしてこれからもそれは変わらない。俺はずっと西野のことを想い続けるから。」




「それにさ、俺が泉坂に戻ってきた一番の理由は西野と一緒にいたいからで、『西野を幸せにする』  そのために俺はここに帰ってきたんだから。」






「ありがとう、淳平くん。」


「それじゃあ…今からまた交際スタートだね!」


俺の言葉を聞いて笑顔でそう言う西野。









『一度離れ離れになった二人が再会して、もう一度結ばれる』



続きのストーリーが今始まった。



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