〜Everybody Needs Love〜2 - つね  様



〜Everybody Needs Love〜2 『苦い再会』







俺は目が覚めると台所に向かった。


そこには誰かいて、気を利かせて朝食でも作ってくれるようなことを少し期待していた。






…でも、台所には誰もいなかった。


「ったく、昨日の歓迎はどこへやら…」


一人で愚痴を言いながらまだ残っている昨夜の散らかりを片付けた。


「母さんたち、まだ寝てんのかな。そりゃああんだけ騒げば無理も無いか。」


そう言いながら居間の戸を開ける。








居間の布団はもう片付けられていた。


「朝からどこ行ったんだ?父さんは仕事だろうけど…、母さんは出かけるのは昼からって言ってたよな…」


俺はそう言った後、居間の時計を見てみた。








(………え………?)









まさかと思い、台所の時計も見てみる。




「…嘘…、今、昼の一時だ…」


完全な時差ボケだ。まだ朝だと思ってたのに…
























俺はとりあえず冷蔵庫にあるものを適当に食べ、外に出た。


暑くも無く、寒くも無い。そんな中降り注ぐ日の光りが心地良い。


俺は久しぶりの泉坂を懐かしんで、一歩一歩を噛み締めながら歩いた。




そして曲がり角を曲がろうとしたとき、





ドンッ





俺は飛び出して来た女の子にぶつかった。






「イテテテ……大丈夫…?」


そう言いながら目を開けた。


下を向いてて顔はよく見えなかったけど、ぶつかった女の子は走っていたらしく息を切らして、汗をかいている。


「え…と、その…すみません…」


聞き覚えのあるような声だった。






(この声…、でも雰囲気はちょっと違うような気も…)






「あの…もしかして……こずえちゃん…?」


確証はなかったが思い切って尋ねてみた。



「…真中さん!?」


俺の声を聞いて顔を上げた、その娘は間違いなく向井こずえ、その人だった。













そんなやり取りをしていると、いつの間にかこずえちゃんの後ろに見たことの無い男が立っていた。


こずえちゃんを追い掛けてきたらしく息が上がっている。


俺と同い年くらいのその男は背が高くルックスも良く、感じの悪い印象もしなかった。


その男を見て、こずえちゃんは俺の後ろに隠れた。


「何で逃げるんだよ、それじゃあ納得いかねーよ。」


男が口を開いた。


その言葉を聞いたこずえちゃんは困ったように下を向いた。


そして、わけの分からない俺に聞こえたこずえちゃんの衝撃的な言葉。

















「ごめん……あたし…この人と付き合ってるんだ…」






(えっ、何言ってるんだ!?こずえちゃん)


「…そう…なのか…?」


男の言葉に対してこずえちゃんは頷いた。



「…付き合ってる人いるなら…最初から言ってくれれば良かったのに…」


そう言って一旦下を向いた男だったが、すぐに顔を上げた。


「…よし!わかった。彼氏がいるんなら俺も納得したよ。今日は付き合ってくれてありがとな。」


辛いはずなのに無理に明るく振る舞おうとするその姿が痛々しく、そして印象的だった。

























その後、俺はこずえちゃんと話しながら歩いた。


二年振りに会った彼女はまとめていた髪をほどいていたせいか以前より落ち着いた雰囲気を感じさせた。


「こずえちゃん、もう男の人大丈夫なの?」


「あ、はい。ずいぶん…。真中さんのおかげです。真中さんが男の人は恐くないって教えてくれたから、」


「俺のおかげなんて、そこまで言われるとなあ、俺は普通に話し掛けたりしてただけだけど…」


「いえ、それだけでも充分でした。ホントに感謝してます。」


そう言いながら顔を少し赤らめるこずえちゃんを見て少し照れた。


「いいよ、ホントにそこまで言ってくれなくても。」


「ところでさっきの人、良かったの?突然逃げてきたみたいだし…」


素直な気持ちが言葉に出てしまったけど言った後で気付く。



「あっ、ごめん。おせっかいだよね。」


俺は焦って言った。


「いや、いいですよ。あたしにも悪い部分はあったし…いきなり逃げたりしたらダメですよね。」


「じゃあ後できちんとした形で謝っといたほうがいいんじゃない?いい人そうだったし…、しかも俺が彼氏なんて言って…」


(やべっ、俺また余計なこと言ってる)


俺が言おうとする前に彼女が先に口を開いた。


「あ、でもあたし真中さんのことずっと好きだし…」









(えっ…!?)












「ひゃあ!!また変なこと言っちゃった!今のは気にしないでくださいっ…!」




(こずえちゃん…まだ俺のこと好き…?)


そんな疑問を抱きながら動揺する彼女を見る。


少し幼さが残る整った顔立ち。そして綺麗に澄んだ素直な瞳。





(こずえちゃん…少し会わないうちにまたかわいくなってるよな…)





(こんな娘と付き合えるなら…)




そう思いかけたとき、








(『待ってるね』)


日本を出るときの約束とそれに答える西野の笑顔が思い浮かんだ。




(何考えてんだ、俺には西野がいるだろ。)












「…真中さん?」


声に気付き横を見るとこずえちゃんが心配そうに俺を見ていた。



「真中さん、大丈夫ですか?」


「ああ、ごめん。何でもないよ。もしかして俺、話聞いてなかった?」


「え…と、真中さんはこれから用事とかあるんですか?」


「…無いけど、どうしたの?」


「その…このまま歩くのも何だし…寄っていきませんか…?」


こずえちゃんはそこにあった喫茶店を指差して言った。


(…それくらいならいいかな…)


「そうだね、そうしよっか。」


こうして、俺とこずえちゃんは店の中に入っていった。





























「うわあ、暗くなってきたな。結構話してたもんなぁ。」


いつの間にか薄暗くなっている空を見て俺は言った。


喫茶店から出た俺は家に帰る道の途中にいた。


途中まで帰り道が同じなので、今もこずえちゃんと一緒に歩いている。







薄暗い帰り道は…あの頃を思い出させた。


(西野と一緒に歩いてたっけ。俺がバイト先に迎えにいって、)


懐かしくて少し笑顔になる。





そのとき、眩しい光が目に入った。


前から来る一台の車、


良く見ると、車の存在に気付いてないのか、こずえちゃんが車道に出ていた。










「あぶない!」










俺はこずえちゃんを引き寄せた。





ドサッ




俺が強く引っ張りすぎたせいか、俺とこずえちゃんは勢い余って倒れ込んでしまった。






俺が覆いかぶさるような形になり、こずえちゃんの目には、引かれそうになった恐怖からか少し涙が浮かんでいた。






(この体勢…ちょっとやばくないか…?…)







『大丈夫?』

そう言おうとしたとき、






ザッ、


少し離れた場所で誰かが立ち止まった。


音のしたほうを見てみる


















(…西野…?)
















俺の視線の先には間違い無く、













一番会いたかった人の姿があった…













だけどこんな…こんな形で会うなんて…
























西野は下を向いてゆっくり口を開いた…















「…あたしは、ずっと待ってたのに…」


















「淳平くんはこの二年の間に…」





西野の肩が震えてた




















「…平気で…女の子を襲っちゃうような…」








目からは涙が溢れ出している























「そんな人になっちゃったわけだ…」









何か言わなきゃダメなのに…

























「…変わっちゃったね…」








動くことすら出来ない

























「約束なんて…しなきゃ良かったね…」












涙で途切れ途切れになった西野の言葉…












俺はもう何も考えることが出来なかった













西野が走っていった、その道の上に、まるで宝石のように綺麗に輝く粒が落ちていった…



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