〜Everybody Needs Love〜1 - つね   様




『二つの夢』






二年前…


俺は西野と付き合っていた。


お互いに想い合い、二人の交際は順調そのものだった。


また、俺は西野の夢を、西野は俺の夢をよく理解していた。


だから西野がパティシエを本気で目指すためにパリに留学することも引き留めなかった。


でも、西野はそれ以上に優しかった。俺を想ってくれていた…












冬に入り、二人で迎えた初めてのクリスマス、


俺と西野は昼過ぎからいろいろなところを歩き回り、買い物を終えたときにはもう日が沈んでいた。


俺達二人は街の中心にある大きなクリスマスツリーの下のベンチに腰掛けた。


西野の分の荷物も持ち、疲れ切った俺はベンチに座ると下を向いて大きく息をついた。


そんな俺の横に西野は座り口を開く。


「結構歩いたから疲れたね。それに淳平くんには荷物まで持ってもらって、ごめんね。」


申し訳なさそうな西野の声を聞き、俺は顔を上げた。


「そんなこと…、俺のほうからから持つって言ったんだし、それに…」


これから言おうとしている言葉に俺は少し照れて西野から目をそらした。


「『それに…』…何?」


すると西野はそう言って俺の顔を覗き込んできた。


その仕草にさらに照れた俺は赤くなる。


それでも西野の目を見て言った。






「それに…今日は西野に楽しんでほしかったから、今日はずっと西野の……笑顔が見たかったから…」








「ありがと」


そう一言、笑顔になって西野は答えた。       俺の一番見たい笑顔で、









「ねえ、ほら見て、淳平くん。」


少し経ってそう言った西野の視線の先を見てみると、さっきまでは点いていなかったツリーの明かりが灯っていた。


「あ、ホントだ。明かりが点くとこんなに綺麗なんだな…」


俺はその綺麗さに見とれてしまった。





そんな中、西野が口を開く







「ねぇ、淳平くん。あたし留学しないことにしたんだ。こっちに残って働きながらパティシエ目指すことに決めたから。」











「…え…?」






すごく重大な事のはずなのに、西野がそれをサラっと言うもんだから、俺は呆気に取られた。








「西野は…それでいいの…?」


やっと出て来た言葉がそれだった。


「うん。だってそれがあたしの二つの夢への一番の近道だもん。」


「二つの夢…?」


「そう!パティシエになる夢と好きな人と一緒に幸せになる夢。」







(俺と一緒に…)







俺が思ってた以上に西野は俺のことを想ってくれていた。






そのことが嬉しくて、俺は『その気持ちに答えなきゃ』そう強く思った。



























順調な付き合いは続き、年が変わった二月の終わり、


俺は学校から帰り、机の上に一枚の手紙を見つけた。












封筒に書かれた文字、『真中淳平様』












特に内容は気にならなかったけど、とりあえず俺は手紙を手に取って部屋に向かった。


封筒を開けて中身を読んでみる。


それは俺の予想もしない内容だった…





















手紙はある有名映画監督からのものだった。


俺が文化祭の時に作った映画がその監督に高く評価されたらしく、監督の海外での撮影について来てみないか、という誘いの言葉が書かれていた。






…俺の中で迷いが生じた…























それから俺は悩みつづけた。



映画を作る夢を叶えるためには思っても無い近道になる。



だけどすぐにここに帰って来れる保証も無い。



もちろんその間は西野とは離れ離れになる…










クリスマスの時の西野の笑顔が頭に浮かんだ。






そして思う。









あの頃の西野は…今の俺と同じ…?






西野は…こんな気持ちでずっと悩んでたんだ…





こんな気持ちの中…西野は自分を抑えて、そして俺のそばにいてくれるのに……俺は何を迷ってるんだ…?







でも…それでも…チャンスは逃したくない…。




























…結局、俺は海外へ行く道を選んだ。



確かに西野とはしばらく会えなくなる。 だけど、西野との関係はそんなことでは崩れない。そう思える根拠の無い自信が俺にはあった。






























そして桜も散り始めた四月の初め、俺は海外での映画撮影へと旅立った。




その前日、俺は西野に約束した。


「少しの間離れることになるけど、俺は西野を好きなままでいるから、…だから待っててくれないか…」





「…その…図々しいお願いかもしれないけど…」




そう言った俺の目に飛び込んで来たのは西野の笑顔だった。





「待ってるね。」






離れても大丈夫。俺と西野ならやっていける。自信が確信に変わった時だった。




























その後俺は約二年間、撮影と映画の勉強のため海外のあちこちを飛び回った。


そして今こうして泉坂に戻って来ている。


いずれは映画関係の仕事に就こうと思っているが、今は海外での撮影の疲れを癒す意味でも一年間ほど休養を取るつもりだ。





昨日帰った懐かしい自宅の中、


俺はカーテンを開けて背伸びをした。




「今日からまた、ここでの生活が始まるんだ。」




よく晴れた空だった。



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