『SERENDIPITY』〜第一部 Everybody Needs Love〜プロローグ - つね 様
この世界の中で、
誰もが『愛されたい』そう思っている。
誰もが他人からの『愛』を必要としている
『SERENDIPITY』 〜第一部 Everybody Needs Love〜
まだ少し肌寒い四月の夜の街、
たくさんの人とネオンサインで明るく賑わう泉坂駅前の通り。
その明るさの中、一人の男が歩いている。
その男、少し様子がおかしい。
目深に被った帽子から見える瞳はあやしく輝いている。
その目つきは普通ではない。明らかに通りを行く他の人のそれとは違っている。
通りを行き交う人は少し気味悪そうに、そして不審に思いながら男を見る。
しかし男は気にする様子もなくそのまま足を進める。
そして男は曲がり角を曲がったところでコンビニに立ち寄った。
コンビニから出て来た男は一冊の雑誌を手にしていた。
男は不気味な笑みを浮かべながらまた歩き出す。
町の外れに差し掛かるにつれて少しずつ薄暗くなっていく、その暗闇の中に吸い込まれるように…
それとほぼ同時刻、泉坂駅のホームに一台の列車が到着した。
人ごみの中、俺はその列車に乗っていた
車両から外に出る、その一歩に足が震えた。
懐かしさ、これからの生活に対する期待感、もちろん多少の不安もあった。
そんな様々な気持ちが入り交じって…それが足が震えた理由だろうか。
俺はその震える足で地面をしっかりと踏みしめた。
駅から出て、目一杯背伸びをする。
懐かしい町並みを見て素直な気持ちが言葉になって表れた。
「…俺…帰って来たんだな…」
俺は駅の改札を出て道路の向こう側にあるコンビニへ入った。
特に目的もなくコンビニに立ち寄った俺は何冊かの雑誌を手に取り適当にページをめくってみる。
そんな作業を何となく繰り返しているうちにある雑誌の記事が目に留まった。
『泉坂のアイドル、美人パティシエ西野つかさ!』
そして数ページに渡る写真の数々。
驚いた…
まさか雑誌に載るようなことがあるなんて…
確かにルックスはテレビに出ているタレント以上と言っても過言ではない。
だけど自分と同い年、そして以前恋人だった女性が雑誌に出ている。
俺は雑誌の写真を見て思った。
(西野…また綺麗になったな…)
複雑な気持ちになりながら俺はその雑誌を棚へ戻し家を目指し、また歩き出した。
(泉坂に帰って来たってことは東城や西野、さつきにも会うってことだよな…)
そんなことを考えながら夜空を見上げた。
先程まで駅前にいた男は雑誌を手にした後、駅前から少し離れたアパートの一室に入っていった。
男は雑誌を机の上に置き、部屋の電気を付けた。
その瞬間、異様な光景が表れた。
壁にはびっしりと写真や雑誌の切り抜きが貼付けられている。
男は部屋を見回して気味悪く微笑む。
「つかさちゃん、今日も可愛いよ…」
そして男は先程買った雑誌のページに目を移した。
「分かってるよね、つかさちゃん。君は俺のものになるんだ。」
「つかさちゃん…俺の、俺だけのつかさちゃんなんだ。」
狂ったような笑顔で放たれた言葉。
その姿はどう見ても普通ではなかった。
この世界の中で、
誰もが『愛』を必要としている。
しかし、その気持ちから生まれた歪んだ欲望は誰かを傷つけ、取り返しのつかないことを起こす可能性を持っている。
今、壊れた心、そして歪んだ欲望が暴走を始めようとしていた。
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