even if you...9 - つね  様

  『動き出した歯車』





「おい、お前ら、俺の彼女に何してんだよ。」


淳平は低い声でそう言い放った。


「あぁ?なんだと、偉そうにしてんじゃねえよ。」


二人のうちの一人が淳平に近づいて来た。


そして、


バキッ


その音を聞いてつかさは目をつぶった。






しかし、


ドサッ

つかさの横には不良が倒れてきた。


(……え……?)


目を開けると、淳平が男を殴っていた。


「この野郎!やりやがったな!」


もう一人の男が淳平に殴り掛かった。

バキッ


淳平の体が大きく吹っ飛んだ。


倒されても淳平は不良達に立ち向かっていく。


しかし、相手は二人である。



予想したとおり淳平がどんどんと追い込まれていく。


バキッ…ドスッ…


淳平はもうサンドバッグ状態である。


しかし、それでも立ち上がり不良に立ち向かう。


「こいつ、しつこいな。」


「これで終わりだ。」


男のボディーブローがまともに淳平の腹に入った。


ドサッ…


淳平は床に崩れ落ちた。






「いやああああ!淳平くん!」





そのとき、


「はいはい警備員さーん、こっちですよー。」


「やばい、逃げるぞ。」


「…ああ。」


二人の男は走って逃げていった。












「淳平くん?」


つかさは倒れたままの淳平に近づいた。


「…つかさ…守れてよかった…」


淳平の顔から安堵の表情がこぼれる。


しかし、その顔は腫れ上がり、ボロボロである。


「淳平くん…本当にありがとう…淳平くんが来てくれなかったら…あたし今頃…」


つかさの目から涙が溢れる。


そのとき淳平の目からも涙が流れた。


「…つかさ……声…」


「えっ。」


つかさはそういわれた瞬間、自分の声が出ていることに気付いた。


「良かった…本当に良かった。つかさ…おめでとう。」


淳平はつかさを優しく抱き締めた。


お互いの目が合い二人は目をつぶった。





そして…

















「まったく、お二人さんお熱いねぇ。」



(…え…)




恐る恐る淳平が振り返ると


教室のドアにもたれ掛かって外村が立っていた。


「外村…!何でここに!?」


外村は淳平の言葉に呆れて言う。


「はぁ?…何でってお前…。俺が来てなかったらお前もつかさちゃんも助かってなかったぞ。」








(…あ…、そういえばあの時…)


『はいはい警備員さーん、こっちですよー。』








「あ、あの声、外村だったのか。確かあれを聞いて不良達が逃げていって…」


「カッカッカ、あんな嘘に引っ掛かるとはアホな奴らじゃ。」


外村は扇子で扇ぎながら得意げに言った。


「はは、外村…ありがとな……」


ドッ


そう言った瞬間淳平はつかさの肩にもたれ掛かった。


「ちょっ…淳平くん!?」


「安心しろよつかさちゃん。よく聞いてみな。」


スー、スー


「寝てるだけ…?」


「よっぽど体力使ったんだろうぜ。つかさちゃん守るのに必死だったんだよ。















それから数時間後、


(…あれ…、ここ俺の部屋…?)


カタカタ、


台所から物音がする。


(母さん帰ってんのかな?)


淳平は部屋から出て台所に向かった。












「母さん?」


「あ、淳平くん、気がついた?」


「つっ、つ、つかさ!」


「何、あたしがいたらそんなに嫌だった?」


悪戯っぽい笑顔を浮かべながらつかさが聞いてくる。


「いや、そういう訳じゃ……ちょっとビックリしてさ。」


「それより大丈夫?まだ夕食出来てないから寝ててもいいよ。」


「夕食って…?」


「夕食は夕食でしょ。淳平くんのお母さんに頼まれちゃって。なんか用事があって夜遅くまで出掛けるんだってさ。」



「え、そうなの。」


「うん。だからまだ休んでていいよ。」


「つかさ…」


つかさはさっきまでとは違う淳平の声に振り向いた。


「その…心配かけてごめんな…」


淳平は力のない声で言った。


「謝ることないよ、淳平くん。それにお礼を言い足りないのはこっちの方なんだから。」


「でも…結局迷惑かけてるし…」



バチッ



淳平が言い終わらないうちにつかさが淳平の頬を両手で叩いた。


そして手はそのまま淳平に顔を近づける。


「コラ、淳平くん!弱気になりすぎだぞ!結局はあたしを守ってくれたじゃん。」


つかさの顔があまりに近くて心臓の鼓動が早くなる。


「それに…」


つかさは淳平からいったん目を反らした。







「すっごくかっこよかったよ!淳平くん」


そして再び淳平の目を見てはっきりと言った。


「…えっと…」


(面と向かってそう言われると…どう言えばいいのか…)







「それで!」








チュッ








「これがあたしを守ってくれた、そのお礼!」


「じゃあ、ご飯出来たら呼ぶからそれまで部屋にいて。」


つかさは照れを隠すように淳平を部屋に追い返した。


淳平はベッドに寝転んでボーッとしている。


(つかさからキスするなんて…このままいくと…つかさの料理食べて、その後は…)









『淳平くん…次はあたしを好きなようにして。』


『いいのかい?つかさ、じゃあ遠慮なく…』







「淳平くーん、できたよ〜。」


妄想の中に生のつかさの声が入ってくる。


「わ、わかった。今行くよ。」


妄想に浸っていた淳平は慌てて台所へ向かった。















(…すげぇ…)


テーブルの上の料理を見て言葉を失う。


つかさの料理は有り合わせの材料で作ったとは思えないほど立派なものだった。


「なに突っ立ってんの?早く座りなよ。」


「いや、あまりにおいしそうだから…」


「ホント?ちょっと自信あるんだ。今回のは、」


「ホントおいしそうだな…いただきます。」




パクッ


一口食べてみる。


「…うまい…すっげぇうまいよ、つかさ!」


淳平の顔が笑顔に変わる。


「そう言ってもらえると嬉しいな、淳平くんへの愛情いっぱい込めて作ったから。」


「あ、ありがと…」


(そんなこと言われると付き合ってても照れてくるよな…)


つかさはそんな淳平を笑顔でずっと見つめている。


「ごちそうさま。おいしかったよ、つかさ。」


「ホント?良かったぁ。」


淳平の表情を見てホッとするつかさ。



「淳平くん、もうお腹いっぱいかな?」


「いや、まだ食べれるけど、何?」






つかさはキッチンの影から何かを取り出している。


「…えっと…これ作ったんだけど…」


つかさは少し緊張したように話す。


つかさの手にはおいしそうなケーキが持たれていた。



「食べて…くれるかな?」




「もちろん。」


その笑顔を見てつかさの顔にも笑顔が戻る。


「じゃあ食べてみて。久しぶりに作ったから上手く出来てるか分からないけど、」


「それじゃあ、いただきます。」


ケーキを口にした瞬間、淳平の頭に一つの考えが浮かんだ。


「どう?淳平くん。」


「え、…あぁ、おいしいよ。」


淳平の反応はどこか上の空のような感じがする。


「ホントに?」


心配になってつかさが聞いた。


「いや、ホントにおいしいよ。ビックリするくらい、ただ…」


(うますぎて、パティシエになるの諦めるのがもったいないような気がして…)


(でも…今のつかさには言えない…よな。余計なプレッシャーかけても良くないし。)


「ただ…?」


「いや、本当に、本当によく出来てると思うよ。」


「ありがと。」


つかさは立ち上がって話し始めた。







「あのね、淳平くん、あたしもう一度パティシエ目指してみようかと思うんだ。」






(…え…?)






「やっぱり傷つくことを怖がってたら、いつまでたっても前には進めないんだよね。」


「だって、淳平くんは危険を顧みずに不良に立ち向かっていったじゃん。」


「あたしもその姿から勇気をもらったっていうか、感動しちゃって。」


「あたしも頑張らなきゃなって思ったんだ。」


それを聞いた淳平の心の中には嬉しさの反面、不安もあった。


「パティシエにってことは、やっぱりパリに行くんだよな…」


「うーん、それはまだ分からないかな。だけど安心して。何があってもずっと淳平くんのこと想ってるから。」


つかさは淳平の心を見透かしたように言った。




「つかさ…ありがとう、愛してるよ…」



「淳平くん、あたしも…」




二人の唇が触れ合う。




そして、そのままソファーへと倒れ込んだ。




淳平がつかさの服のボタンに手をかけようとしたそのとき、



ガタガタッ


『何してんの、お父さん!見つかっちゃうじゃない!』


物陰から声が聞こえる。



淳平は声のするほうに目を向けた。



「何やってんの…?…二人とも…。」



そう言う淳平の顔はもう真っ赤だ。


その隣にはさらに顔を赤くしたつかさが座っている。




「いや、その…二人があんな雰囲気だったら声かけにくいじゃない。」


冷や汗交じりに母が言う。


「じゃ、じゃあ、あたしもう帰るね。」


赤い顔を隠すように下を向いたままのつかさ。


「あら、つかさちゃん。別にいいのよ。今夜は泊まっていったら?」


(誰が原因だと思ってるんだよ、この人…それにあんなとこ見られてつかさが泊まるはずが…)


「あ…、じゃあご迷惑でなかったらお願いします。」


(えぇぇっ!)


「ご迷惑なんて、こっちが嬉しいくらいよ。」


母はなんだか嬉しそうだ

















そして、淳平の両親が眠った頃、淳平とつかさは淳平の部屋へと入った。


つかさが先に口を開く。


「じゃあさっきの続きだね。」



「…えっ、続きって。」



つかさの口からその言葉が出るとは思っていなかった。



つかさの目は潤み、ひとりの女性としての魅力が溢れている。



「…キスして…」



淳平はつかさに吸い込まれるように近づいた。


そして、


「…んんっ…」






もう二人を止めるものは何も無い。







止まっていた夢たちがの歯車が回り出した。





もう二度と止まらないように、




強く、強く



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