even if you...8 - つね  様

  『声』












校庭がいつもと違う様々な制服で賑わっている。


いよいよ今年もこの日がやってきた。


泉坂高校文化祭、『嵐泉祭』の日である。


淳平は一年生のその時と同じように、映研の看板の前に外村と一緒に立っていた。


「今年の映画は優勝できる可能性かなり高いだろうな。ああ、観客の反応に直に触れてみてえなぁ。」


淳平の顔にはワクワクした気持ちが表れている。



「ばーか、今日お前にはもっと大切な仕事があるだろ。こっちは俺らに任せろって、」


「分かってるよ、それくらい。」


「分かってるならそっちに集中しとけよ……、あ、あれつかさちゃんじゃないか?」




外村に言われた方を見ると少し不安な顔をしてつかさが歩いていた。


「あ、本当だ。」



(つかさ緊張してるみたいだな。無理もないよな、こんなに人がたくさんいるところに来るのも久しぶりだもんな、)


「つかさー!」


淳平は少しでもつかさの緊張をほぐそうとして大きく手を振った。


淳平の声に気付き、こっちを見たつかさの顔から笑顔がこぼれる。


そして淳平の方に向かって走り出した。






しかし、急ぎ過ぎたのか、つかさは淳平の目の前でつまずいて、バランスを崩してしまった。


「危ないっ!」



淳平の声が聞こえた瞬間、つかさはからだが浮き上がるのを感じた。









ゆっくりと目を開けると目の前には淳平の顔があった。


周りを見渡してみる。


つかさは淳平に抱き抱えられていた。



「つかさ、大丈夫?」



つかさは頬を赤く染めて淳平から目をそらして頷いた。











少し経ってつかさが口を開く。


<淳平くん、恥ずかしいよ…>





つかさの言葉に淳平も急に恥ずかしくなってつかさを降ろした。





二人は顔を赤くしてお互いの顔を見れずに、下を向いてしまった。






「あーあ、何見せつけてんだよ。」



外村が呆れたように言った。


「別に…見せつけてる訳じゃ…」


淳平が言い終わらないうちに外村が口を開いた。


「いいから早く行ってこいよ。早くしないといろんなとこ回れないぜ。こっちは任せとけよ。」


「あ、うん。」



歩き掛けた淳平は立ち止まり、もう一度外村の方に向いた。



「ありがとな、外村。」


「いいってことよ。じゃあ楽しんでこいよ。」


外村は笑顔で淳平を送り出した。





「じゃあつかさ、いこうか。」


そう言うと、つかさは淳平の腕に抱き着き、淳平に向かって笑った。


(今日は俺に甘えるってことかな…)


淳平は腕に大切な温もりを感じながら歩きだした。

























淳平とつかさが歩くと周りの人々がざわめく。


それも仕方がない。


淳平の横にいるのはアイドル以上の美少女である。


ざわめきの理由を知ってか、知らずか、当の本人は全く気にしない様子でどんどんと淳平を引っ張っていく。




(喋れなくなってもこういうところは全然変わってないよな。こういうところなんだろうな、俺がつかさを好きな理由の一つは。)



























そうしていろいろな店を回っているうちに歩き出してからかなりの時間が経ち、時計は11時前を指している。


足もかなり疲れてきた。


「結構歩いたね。そろそろ休もうか?」


淳平がそう言うとつかさは頷き、中庭のベンチに座った。


と言っても、疲れているのは明らかに淳平であり、つかさは平気な顔をしている。


それでも淳平は疲れを必死に隠そうとしている。やはり男としては彼女に情けない姿を見せる訳にはいかない。



「つかさ、何か食べるもの買ってこようか。何がいい?」


つかさは少し無理をしてるような淳平を見て、笑いながらソフトクリームの店を指差した。


「わかった、ちょっと待ってて。」


淳平は走ってソフトクリームを買いに行った。





つかさは走っていく淳平の大きな背中を見て微笑んだ。


(淳平くんと一緒だとこんなに楽しいんだよね。やっぱりあたしにと淳平くん
はかけがえのない存在なんだな。)








そんなことを考えていると後ろから男が声を掛けてきた。





「ねえ、君一人なの?」


つかさが振り向くと、二人の背の高い男が立っていた。


「うわ、この娘めちゃくちゃかわいいじゃん。」


「な、だから言ったろ。俺の目に間違いは無いんだって。」


「ところで君さ、一人なんだろ。俺達とどっか行こうぜ。」


つかさはその言葉を無視して立ち上がろうとした。





しかし、その瞬間男に腕を掴まれ、止められてしまった。


淳平のいるソフトクリーム屋の前からはちょうどここは壁の影になって見えなくなっている。



つかさは腕を振り切ろうとするが、力では敵わない。


「何も言わないってことはOKってことだな。」


つかさは強引に引っ張られた。


(いや、淳平くん早く気付いて!淳平くん!)







叫ぼうと思っていても声が出ない。








つかさはそのまま連れていかれてしまった。





























(ソフトクリーム屋混んでたな。つかさ待たせちゃったな。怒ってるかも……)



「つかさ、ごめん!すごく混んでてさ……」



そう言いながら走ってきたが、つかさの姿は見えない。


「…つかさ?」


周りを見渡してみてもどこにも姿が見えない。



(…まさか…)








「あの…もしかして、ここに座ってた人の彼氏とかですか?」


近くにいた女子生徒が話し掛けてきた。


「そうだけど、何かあったんですか!?」


不安と焦りで淳平の声はかなり大きくなっている。


「さっき背の高い男の人達に連れていかれてたの見たの。周りに他の人はいなかったからあたし動けなくて…」


女子生徒は申し訳無さそうに話した。


「その後どこ行ったか分かる!?」


「あっちのほうに…」


女子生徒は校舎の方を指差した。


「わかった、ありがとう。」


淳平はそれを聞くとすぐに校舎に向かって走って行った。




























校舎の入口まで来るとそこには立入禁止の札が掛けられていた。


(そういえば…先生が言ってたな。一部使わないところがあるって。)


淳平は立入禁止のチェーンを飛び越えて校舎の中に入っていった。


























「なぁ、お前大丈夫なのか。声出されたら誰か気付くかもよ。」


「大丈夫だって。お前もさっき見たろ、立入禁止のチェーン。ここだけ使ってねえから誰も来ねえよ。」


「なるほど。なら大丈夫だな。」


つかさは空いていた教室の中に連れてこられていた。


逃げようとしても鍵が掛けられ、扉の前には男達が立っている。




「さーて、じゃあ相手してもらおうかな。」


一人の男がニヤニヤしながら近づいてきた。


(イヤ、あたし何されるの!?  助けて淳平くん!)



つかさは怯えて震えている。


「何?俺達の相手すんのが震えるほど楽しみな訳?」


男の手がつかさの肩を掴んだ。


(気持ち悪い…      お願い、淳平くん!早く来て!)


















「淳平くん!助けて!」



















淳平は廊下を走っていた。



「…平くん!助けて!」


(この声!…… でもつかさは今……でも、間違いない!)


淳平は声のした方へ急いだ。






















(ここだな…)



淳平はドアを開けようとドアに手を掛けた。だが鍵が掛かっていて開かない。


中からは男の声がする。




(こうなったら…)




淳平は目一杯の力でドアに体当たりした。





ドアは勢い良く倒れ、中には口を塞がれたつかさと二人の男がいた。










淳平は別人のような険しい表情で強く男を睨みつけた。


















「おい、お前ら、俺の彼女に何してんだよ。」



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