even if you...7 - つね  様

『プレゼント』













淳平は涙が止まらないまま歩き続けた。



あてもなく夜道を歩いていると前に人影が見えた。






外村だった。



外村は淳平の涙を見て何かあったとすぐに分かった。



「真中…?何で泣いてんだ?」



淳平は涙を拭って答えた。



「…いや…何でも無いよ…」



そう言うものの、淳平の目から流れ出るものは止まらない。



「何でも無いって、そんな訳ねえだろ。何があったんだよ。話してみろよ。」



外村は少し強い口調で言った。








「つかさ…喋れなくなったんだ。」









「…へ…?」




外村には淳平が何を言っているのか理解できない。



「どういうことだよ、つかさちゃんが喋れないって。」




淳平はゆっくりと話し始めた。



「つかさ、実はストレスが原因で倒れて入院してたんだけど、そのとき、バイト先の人がお見舞いに来るって聞いて、そのとき、言葉を話せなくなったんだ。」




「つかさはバイトのことでかなり苦しんでたみたいで、バイトには2週間くらい行けてなくて。バイト先の人と関わることさえ怖いみたいなんだ。」




「……そうなんだ…」



外村は信じることのできない現実を知らされ、そう言うしかなかった。


二人はしばらく無言のまま歩き続けた。













そして、


淳平の家の前まで来たところで外村が口を開いた。



「真中、つかさちゃんの側にいてやれよ。」



「わかってるよ。」


まだ暗いままの淳平の表情を見て外村は続けた。



「あと、つかさちゃんの前では笑顔でいてやれよ。お前の悲しむ顔なんか見たら、つかさちゃんも辛いと思うぜ。ただでさえ苦しんでるんだから。」



淳平はこの言葉を聞き、少し考えてみた。




(そうだ。一番辛いのはつかさじゃないか。俺も確かに辛い…けど俺がつかさを支えなきゃ。)




「あぁ、わかったよ。外村、ありがとな。」



「じゃあな。元気出せよ。」



そう言って外村は帰っていった。







家に入ると、唯がいた。



どうやら泊まりに来たようだ。



「じゅんぺー遅かったね。」



「あら、淳平、つかさちゃんのところ行ってたの?やけに遅かったわねぇ。」


淳平の母も起きていた。


淳平は泣いていたことを悟られないように下を向いていた。



「じゅんぺー?」


何も喋らない淳平を不思議に思った唯が淳平の顔を覗き込んできた。






「…あ…。」



淳平の顔の涙の跡を見て唯の声が途切れた。



「何か…あったの…?」



そう聞くのが精一杯だった。





いずれ分かることだからと思った淳平は両親と唯につかさのことを話した。


























話を聞いた後、唯は泣いていた。母の目にも涙が溜まっている。





淳平は話し終わるとすぐに部屋に入った。





ベッドに寝転がりつかさのことを考える。



数々のつかさとの思い出が頭の中に浮かんだ。



そしてつかさの声が聞こえてくる。



(「淳平くん。」)



(もう二度とあの声が聞けないのかな…)



一度は止まった涙がまた溢れ出してきた。









「笑顔でなんて、そんなの無理だよ…」



淳平は一晩中泣き続けた。




唯はその泣き声を扉越しに聞いていた。



それを聞くと淳平の部屋にはとても入れなかった。




























そしてそれから1週間が経ち、つかさの誕生日までちょうど1週間となった。




つかさは声は出ないが、口の動きで大体何を言いたいかが周りの人に伝わるので、そのようにして人とはコミュニケーションをとっていた。



淳平はつかさが喋れなくなってからも毎日病院へ通っている。



淳平は辛い気持ちもあるが、それ以上に辛いつかさの立場を考えて、明るくつかさを励ましつづけている。









この日の夕方、今日も淳平は病院に向かっていた。




淳平は病院への道を少し急ぎ足で歩いた。



つかさへのプレゼントを持って…



(つかさ、どんな顔するだろう。きっと喜ぶだろうな。)




淳平はいつも以上に勢い良く病室のドアを開けた。




すると、いつものようにつかさが淳平に笑い掛ける。



その笑顔を見る度にここまで歩いてきた疲れが癒される。



つかさはもうかなり精神的に安定していて明日の退院が決まっている。






「つかさ、明日退院だろ。だからじゃないけど、俺からプレゼントがあるんだ。」



<何?淳平くん。>



期待のこもった笑顔でつかさが聞く。




「あのさ、これなんだけど…」



淳平は一枚の紙をつかさに見せた。



それは泉坂高校の文化祭のポスターだった。



淳平はそのポスターを指差して言った。



「つかさ、これ一緒に行かない?」



つかさは少し遠慮がちに口を動かす。





<でも…あたしと一緒に歩いてたら、淳平くん変に思われる…>



予想外の反応に淳平は驚いた。



「なんで?」









<あたし…喋れないから…>



そう言ってつかさは俯く。



「そんなの関係ないよ。俺は喋れなくたってつかさのこと好きだし、つかさは俺の自慢の彼女なんだから。」




それを聞いた瞬間、つかさは淳平に抱きついた。



(…そんなに強く抱きしめられると、いろんなところにいろんな感触が…)



淳平は突然のことに照れながらも続けた。




「あと、文化祭の日、9月16日なんだ。つかさの誕生日だろ。ちょうど良いと思って、」



つかさは淳平と目を合わせてこう言った。



<淳平くん、ありがとう。嬉しいよ。>







しかし、目を合わせた淳平の顔はにやけている。




バシィッ




それを見てつかさは淳平の体を叩いて、そっぽを向いた。




しかし、表情を見れば本気で怒っているのではないことが分かる。




(もうっ、今エッチなこと考えてただろ。)




そんな声が聞こえてきそうだった。






しかし、淳平から顔をそむけると、淳平にはつかさが何を言っているのか正確には分からない。









……声を出すことができないのだから……





「えっと…ごめん…」




謝りながら、淳平は突然寂しい気持ちになった。





(そっか…つかさ喋れないから、俺、つかさと目が合ってないときは何言ってるか完全には理解できないんだ…)




その表情を見て、つかさはすぐに淳平の気持ちを読み取った。



だが、それをそのまま口には出さず、分からない振りをして淳平の顔を覗きこんで尋ねた。




<淳平くんどうしたの?>




淳平は慌てて笑顔を作って答えた。





「あぁ、何でも無いよ。それよりさあ……」






(やっぱりあたしが淳平くんに負担かけちゃってるんだな…)







明るく振舞おうとしている淳平の姿がつかさにとっては余計に辛かった。



それから面会時間が終わるまで話をして、淳平は家に帰った。
















二人の気持ちはもちろん付き合い始めたときから変わらないままだ。





しかしまだ二人の関係は完全に元に戻ってはいない。







それでも、文化祭に一緒に行く約束をした。







二人の関係はまた1歩進んだ。











(9月16日、つかさの誕生日が最高の日になりますように。)





そう願って淳平は目を閉じた。



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