even if you...6 - つね   様

『涙』





9月1日



淳平は久しぶりに制服を着て学校へと歩いていた。


今日は高校の始業式である。





学校へ着き、始業式を終えると、淳平はさつきを呼んでつかさと付き合うことになったことを話した。




「さつき、俺、西野と付き合うことになったんだ。」




さつきはそれを聞いて、笑顔になった。



「そうなの。よかったじゃん真中。」



「さつき…、ごめんな。」



「何言ってんのよ。真中が決めたんだからそれでいいの。あたしはまた新しい恋探すから。」


「さつきならきっといい人見つかるよ、俺が言える立場じゃないけど…」


「ありがと。真中、西野さんと幸せにね。」


「うん。ありがと、さつき。」



(さつき本当にいいやつだよな。感謝しなくちゃな)







続いて、淳平は綾の元へ向かった。



そして、さつきのときと同じようにつかさと付き合っていることを話した



「そうなんだ。おめでとう、真中くん。」



「ありがと、東城…ごめんな。」



「謝ることないよ、真中くん、西野さんを大切にしてあげてね。」



「うん。ありがとな」





「あと、また小説読んでね。」



その言葉を聞いて、淳平の頭にはいつかの綾の言葉が浮かんだ



(「あたしの小説の読者は真中くんだけだから」)




「うん、もちろんいつでも読むよ。」



それを聞いた東城は優しく微笑んだ。




(こうやって普通に話してくれる東城にも感謝だよな。)





淳平は改めて二人の心の広さを感じ、二人に感謝した。




しかし、つかさが入院していることは二人のどちらにも言わなかった。


心の中で苦しんでいるつかさにこれ以上負担をかけるわけにはいかないのだ。





そして午後になると、淳平たち映研は文化祭の準備に取り掛かった。



文化祭まで一ヶ月を切り看板等の準備も本格化してきた。学校全体が活気に満ちている。





淳平は必要な準備を終えると、つかさのいる病院へと向かうため帰る準備を始めた。




すると、外村が話し掛けてきた。



「あれ、真中もう帰んの?」



「あぁ、ちょっと用事があってな。今日する分の準備は終わらせといたから。」



「用事?なんか気になるな〜。つかさちゃんにでも会いに行くのか?」


外村はニヤニヤしながら言った。



外村はもちろんつかさと淳平が付き合っていることを知っている。






「…一応…そうだけど…」



「いいねぇ、あんなにかわいい娘が彼女で。今度つかさちゃんの写真撮らせてくれよな。」




(こいつ絶対HPに使うつもりだ…)






「いいけど…、変なことに使うなよ。」



「わかってるよ。人の彼女を変なことには使ったりしねーよ。」




「じゃあ俺もう行くから、外村、後よろしくな。」



「任せとけ。じゃあな。」



(真中のやつ、すっかり彼氏らしくなってやがるな。)


外村はいつもより大きく見える淳平の背中を見ながら微笑んだ。








淳平は病院へ入り、いつも通りつかさがいる部屋へと向かった。




しかし扉の前で立ち止まる。










156号室の扉には、










『面会謝絶』の札がかけられていた。






(…なんで…)









疑問と不安を胸の中に抱えながら帰っていると、偶然つかさの母に会った。




淳平は聞かずにはいられなかった。



「おばさん、つかさに何かあったんですか?さっき行ったんですけど面会謝絶になってて…」




つかさの母はゆっくりと話し始めた。



「昨日、バイト先の日暮さんから電話があってね、お見舞いに来るって言ったのよ。」


「それを聞くと、つかさは『会いたくない』って言って…」


「それで最後には『明日は面会断って』って言って、病院の人に頼んで面会謝絶にしてもらったのよ。」




「そうだったんですか。……まだバイトは無理みたいですね。」




「たぶん、あの娘も苦しんでるんだと思うわ。淳平くん、あの娘を支
えてあげてね。」





「はい。任せてください。」



このとき、淳平は自分がつかさを支えなければと強く思った。











次の日、




淳平は学校を終えるとすぐに病院へと向かった。ドキドキしながら病室に行く。




淳平は病室の扉に何もないことを確認した。




(良かった。今日も面会断ってたらどうしようかと思ったよ。)



ドアをノックして中へと入っていく。



「つかさ?  いる?」




つかさはベッドの横の椅子に座って何か書いている。




淳平の声に答えはしなかったが、淳平に向かって微笑んだ。






「つかさ、いつ退院なの?   退院したら一緒にどこか行こうか?」





淳平は明るく話しかけた。






(「そうだね。でも珍しいね、淳平くんから誘うなんて。」)





淳平の頭の中には笑いながらそう言うつかさが浮かんでいた。








しかし、つかさからの答えはない。











「……つかさ?」





淳平はつかさの方を見た。








つかさは目にいっぱいの涙を浮かべ、唇だけが『淳平くん』と動いている。












しかし、つかさの声は聞こえない。







淳平の頭には最悪の事態がよぎる。













「…つかさ…声でないの…?」








つかさはさらに多くの涙を流して頷いた。








そのとき









つかさが持っていた紙が淳平の足元に落ちてきた。






紙に書かれた字を読む。








『淳平くん、迷惑ばっかりかけてごめんね。』





それを見た瞬間、淳平の目からも涙が溢れてきた。







淳平はつかさの小さな体を抱きしめることしかできなかった。





今の気持ちは、どれも言葉にならなかった。



ただ、ただつかさを抱きしめ続けた。










病院を出る前、つかさのの担当医から説明を聞いた。



「西野さんは、今、自分のバイトに関係している人と話したくないという気持ちを持っている。」



「そして、昨日バイト先の人がお見舞いに来ると聞いて、その気持ちがあまりに強くなりすぎてしまった。」




「その結果、西野さんの中のそのような気持ちが西野さんの言葉を押さえてしまったんだ。普通こんなことは無いんだけれども……」





「でも、俺と喋りたくないなんて思ってないはずです!」



淳平は必死に訴えた。



この状況を嘘だと思いたかった。




「言葉自体が失われているんだ。話す相手に関係なく…。」



先生は辛そうにそう言った。





淳平は絶望を感じた。






もうあの声が聞けない、そう思うと涙が止まらなかった。







空は快晴、夜の天井にはたくさんの星が瞬いている。






告白をしたあの日、








綺麗に見えた星空が今日は涙で滲んでよく見えない。



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