even if you...5 - つね 様
『深まる絆』
「ハァ…ハァ…」
淳平は息を切らしながら病院へと向かった。
夏とはいえ、もう辺りは暗くなっており、病院からの明かりが目立って見える。
淳平は急いでその中へと入っていった。
「さっき運ばれてきた…、西野つかさの病室どこですか!!!…」
病院と分かっていても、心配でつい大声になってしまう。
「西野つかささんですね。152号室になります。」
病室を聞いた瞬間、淳平はダッシュで病室へ向かった。
病室のドアを恐る恐る空けた淳平の目には、
いつものつかさがいた。
「西野!」
「淳平くん!…ごめんねこんなところまで来てくれて。」
つかさはベッドに寝転び、上半身だけを起こした格好だった。
「西野、大丈夫なのか?」
「うん。ストレスが原因で倒れたみたい。大丈夫なんだけどしばらくは安静にしておくようにって。だからちょっとの間入院することになるかな…。」
「そっか。でも元気そうでよかったよ。ホントに。」
「うん。心配かけてごめんね。」
「別にいいって。でもさ、ストレスが原因なんだろ。あんまりいろいろ一人で抱え込まないほうがいいぜ。何でも話してくれよ。文句でも、愚痴でも、何でも聞くからさ。」
「うん、ありがと。……でもストレスの原因は他にあるのかもねー。」
つかさはそう言って悪戯っぽく笑った。
「西野?」
「ほら、その呼び方。淳平くんあたしのことずっとそう呼んでるよね。」
淳平はつかさの言いたいことがよく分からなかった。
「だからぁ……」
つかさには珍しく顔を赤くして、もじもじとしている。その姿がまたたまらなく可愛い。
(え…急に様子が変わったな。なんかこっちまでドキドキしてきた。)
「あたしのこと……、名前で呼んで…」
「えっ、名前でって…?」
「もうっ!とぼけるなよな。淳平くんはあたしの彼氏だろ。そんなの自然なことじゃん。」
つかさの言う通り、恋人同士の関係になった二人が名前で呼び合うのは、極自然なことである。
それでも、いざ名前で呼ぶとなると恥ずかしさが込み上げてくる。
(名前でって…。確かにそう考えれば自然なことだけど…。いざとなると照れるよな…あぁ、緊張してきた。)
「ねぇ。はーやーく」
急かすようにつかさが期待いっぱいの笑顔で言う。
(こんな顔で見られたら、誰だって言うこと聞くよ…)
淳平は顔を真っ赤にして口を開いた。
「えっと……、つかさ……大好きだよ。」
淳平の心臓は激しく動いている。
(やばい、メチャクチャドキドキしてるし。しかも言うこと無かったらって『大好き』なんて…あぁ、今になってまた恥ずかしくなってきた…)
淳平はさらに顔を赤くして下を向いた。
「淳平くん。」
つかさに呼ばれたので淳平は顔を上げた。
すると
つかさの唇が淳平の唇にやさしくふれた。
「大好きだよ。淳平くん。」
つかさは淳平に満面の笑みを向けた。
淳平はその場に固まって動けない。
そして…、
ガチャッ
「面会時間もう終わりですよー。」
淳平は看護婦さんのその声でやっと立ち上がった。
「じゃ、じゃあ西…じゃなくて、つかさ、明日も来るから。」
「ははは、呼び方戻りそうだよ。…今日は心配かけてごめんね。」
「いいよ。そんなの気にしなくても、じゃあ、無理しないようにな。」
「ありがと。じゃあね。」
つかさがとりあえず無事だったことを確認して、淳平は安心した。
そして、今日つかさへの想いがまた強くなった。
つかさも淳平への想いがより強くなった。
二人の絆はまた深まっていく。
別れを告げた後、二人は恋人であること、お互いの想い、そして、一緒にいられる幸せをかみしめていた。
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