Thank you for your love 3 - つね  様



今、また僕らが出会ったら、あの日のような関係にまた戻れるのかな





もし…






もしもあの日に帰れるならば…






心から伝えたい、『ありがとう』
















-Thank you for your love 3-











「…ん…」


着陸の衝撃で目が覚めた。


俺は眠たい目をこすりながら窓の外を見る。


そこには今まで写真でしか見たことの無い景色が広がっていた。





空港を出てしばらく歩いてみた。




少し歩くと街へ出ることができた。


俺はその町並みに圧倒された。


(西野…こんなにきれいな場所に住んでるんだな。こんなきれいな街…今まで見たことねえよ…)


心の中でそう思ったとき、


ふとあることに気付く。


(そういえば…西野って、パリのどこに住んでるのかな…?)


俺は肝心なことを知らなかった。


西野の居場所を…










しばらくの間、街灯の柱にもたれ掛かって考えてみた。


そのとき、一台の車が俺の横を通り過ぎていった。


(…え…?今のって…)


俺はその車を必死で追いかけた。


間違いない。


あの顔、あの独特の雰囲気、


車に乗ってたのは…


あの人なら必ず…


そう思って全力で走り続けた。


このチャンスを逃したくなかった。


いや、逃したら、もう西野には会えないような気がした。













必死に走るが、車と人間、


段々と距離が離れてく。


(やばい…もう無理かも…)


そう思った瞬間、車が一つの店の前で停まった。


ハァ、ハァ


俺はもう前も見れず、膝に手をつき肩で息をした。




「ん…?まさか坊主…か?」


俺の前から声がした。




「…日暮さん…こんにちは。」


声の主は日暮さんだった。









「坊主、お前、何でこんなところに…」



「え…と、西野に…西野に会いに来たんです。」


俺は西野が日暮さんと同じ店で働いてるだろうと思った。


今、目の前にあるその店の中にいると思うと少しドキドキしてきた。


「そうなのか。でも今日は店も休みだから、西野さんは来てないな。」


「えっ、そうなんですか?」


「ああ、俺はちょっと店に運ぶものがあって来ただけ。」


俺はそれを聞いてがっくりと肩を落とした。


そんな俺を見て日暮さんが口を開いた。


「俺はもう用ないし、西野さんの家の近くまで乗ってくか?」


「えっ!?」


俺は顔を上げて日暮さんの顔を見た。


「坊主、お前その様子じゃ他にあてもないんだろう。」


「…はい、すみません…お願いします。」


俺は深々と頭を下げた。


「いいって、いいって、帰り道だし。」


「ちょっと待ってろ、材料置いてくるから。」


そう言って日暮さんは店の中に走っていった。










(やっぱり日暮さん、本当にいい人だよな。こんな人が西野の隣にいるなら、西野だって…)









「おい、坊主、なんて顔してんだ。早く乗れよ。」


気付くと日暮さんはもう車に乗ろうとしている。


「は、はい、」


そして俺は日暮さんの車に乗り込み、西野の家へと向かった。
























車の窓を流れる景色はとても新鮮で、自然に溶け込む整った町並みが本当に綺麗だった。


そんな景色を見ながら、俺は西野と日暮さんのことを考えていた。


そんな中、


不意に日暮さんが口を開いた。


「俺と西野さんのことが気になる?」


そう言いながら笑顔を浮かべる日暮さん。


「…え…」


確かに気になるけど、「聞きたい」と簡単には言えなかった。






少し不安だったから…









「俺と西野さんはなんでもないよ。」


俺の心を見透かしたように日暮さんは答えた。


「こっちに来てからもね、何回か結婚の話を持ち掛けてみたことはあるんだよ。」


「でも、その度に西野さんはこう言うんだ、『気持ちはありがたいです。けど、あたしには好きな人がいるんです。その人は今遠くにいるけど、あたしが日本に帰ったとき、まだ待っていてくれたら…。だからその時までその話は待っていてくれませんか。』ってね。」







声が出なかった。






そうだとは知らなかった、思わなかった。






東城がずっと俺の側にいてくれて、俺の答えを待っていた。






近くにいる分その優しさは切ないほどに強く感じた。






でも、それだけじゃなかった。






西野もまた、俺を待っていた…






こんなに遠い地で…























「ほらよ、坊主。着いたぞ。あそこに見える家だ。」


「日暮さん、本当にありがとうございました。」


俺はもう一度日暮さんにお礼を言って、頭を下げた


そして俺は西野の家に向かって足を進めた。


気持ちの高ぶりは抑えられず、一歩一歩をやけに意識してしまう。


心臓の鼓動はだんだんと早くなり、心臓は今にも飛び出しそうになる。




そのとき、



ドンッ


俺の肩が誰か知らない人の肩に当たった。


その衝撃で俺は財布から小銭を落としてしまった。


(なんでこんなときに…)


緊張感が一気にほどけ、気持ちも落ち込んだ。


でも、近くにいた人が小銭を拾うのを手伝ってくれていた。





「あ、すみません。」


そう言ってみたが、言った後で俺は気付いた。ここはパリ、日本語が通じる訳が無い


通じるはずの無い言葉、でも少し経ってから俺の耳に声が届く。








「…その声…淳平くん?」





それは一番聞きたかった声。





懐かしくて、愛しくて…想いが溢れた。



「に…しの…」


俺は顔を上げて目の前にいる人の顔を見た。


綺麗な顔立ち、肩まで伸びた髪、そしてあの頃と同じ真っすぐな瞳。


その目は今、間違いなく俺を見ている。


「てやっ!」


その声と同時に西野は俺に抱き着いた。


「うわっ、西野!?」


突然のことで驚いた俺は思わず声を上げた。


そんな俺をよそに、俺の体を抱き締め続ける西野。


「なんで?淳平くん。あたし…忘れてって言ったのに…」


「そんな…俺が西野のこと忘れる訳無いだろ…」


そう言いながら俺も西野を抱き締め返した。












「淳平くん、どうしてここに来たの?」



抱き合ったまま西野が聞いてきた。


「…え…西野に会いに来たんだ。」


少し照れ臭かったけど、はっきりと言った。


西野は何も言わなかったけど、さっきよりも少し強くなった西野の腕の力が充分な答えだった。



















それから俺は西野に連れられて、西野の家に入った。


家には西野の母親がいた。


俺を見た瞬間驚いたが、歓迎してくれた。


すっきりとしていて、無理なく綺麗に飾られた空間。


それが西野の家の第一印象だった。


初めて来た場所なのに何故か落ち着けた。


俺と西野、そして西野の母の三人は椅子に腰掛けて紅茶を飲みながら話した。


その間に俺は西野の母親にパリに来た理由などを説明した。


西野のお母さんは高校のとき俺と西野が付き合っていたことも知っていたので俺の話をすぐに理解してくれた。













そして俺の話が終わると西野のお母さんが口を開いた。


「なら、真中くんパリにいる間家に泊まっていいわよ。」


「えっ!…いいんですか?そこまでしてもらって…」


思わず声が大きくなる。


「いいのよ、遠慮しないで。」


西野の母さんがそう言った直後、


ギュルルルルル


「あ、」


思えば空港を出てから何も食べていない。


「ちょっと待っててね、ご飯もう少しだから。」


西野の母さんは笑いながらそう言った。


俺は恥ずかしさの余り俯いた。







西野の父親は帰ってこなかったので三人での食事だったが、笑顔は絶えなかった。









なにより、西野が母親と作った料理が本当においしくて、それが俺を自然に笑顔にさせた。





















そして夜も更け、俺は西野に連れられて部屋にいった。


「淳平くんの部屋はここだから、」


部屋のドアを開けて驚いた。


かわいらしい雰囲気にいい匂い


「え…ここって…もしかして、西野の部屋じゃ…」


「ごめんね。さっき確かめてみたら部屋空いてなくて。」


「…ということは…西野もここで寝るって…ことだよな…?」


そのことを考えると、思わず顔がにやけてしまう。


「そうだよ。…って淳平くん、今エッチなこと考えてただろ!」


「あ、いや、その」


「もうっ、だらしないんだから。」


(…なんか、この感じ。懐かしいかも…)















西野の部屋では、西野はベッドで、俺は床に敷いた布団で寝た。



それでも隣に西野が寝ていると考えると眠れなかった。

















それから、俺は西野の家で生活した。


西野の両親ともすぐに仲良くなり、まるで本当の家族のように過ごした。


そして西野と俺の関係は付き合っていたあの頃の続きを再び歩み始めた。


離れてもお互いに想い続けていた二人の絆は、時を重ねるごとに強く、深くなっていった。














二人で一緒にいる時間はいつも楽しくて、幸せで、




僕の目には希望しか映っていなかった…


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