2004夏・赤丸ジャンプ読みきり「しーもんきー」二次創作

S M SHADOW    - strike blue   



かちゃん ・・・ こぽこぽこぽ ・・・


その 細身の中年男 がやや煮詰まったサイフォンのカフェを黒い少し大きめのブラックジャックにそそぐ。

モカの甘い香りもやや煮詰めると鋭角な香ばしさの方が際立ってくる。

しかし この香りの方が この ロン毛の中年男 は好みだった。



「 カフェでも・・・なんでも・・・そう、例えば おんな でも・・・ ちょっと  “過ぎていた” ほうが・・・・・・“うまい” ものだ・・・・・・ 」



誰に聞かせるわけでもない、やや意味深な呟きを携えて

その ロン毛オヤジ がブラックジャックを口に運ぶ。

口中に焦げた渋みが拡がる。

やや閉じた視線をホワイトウッドの床に転がしながら、ゆっくりと薄暗い部屋中(なか)を歩む。

ブラックジャックからアロマを携えて白い湯気が薄闇に拡がり 尾を曳く。

ソッリドブラックのアロマを楽しみながら  J I ゲノム科学センター所長 伊勢堅太郎  は

プライベートルームのスミに置かれた 墨色のレストソファーに腰掛けた。

そして おもむろに白い湯気の向こうの 青い闇に問い掛けた。



「・・・・・・ 影風(えいぷう) ・・・ 居るんだろ ・・・ わかっているぞ ・・・ 姿を見せろ ・・・・・・」



堅太郎はプライベートルームに拡がるソリッドブラックのアロマの中へ

かすかに割り込んで来ている そのアロマ に気付いていた。

堅太郎は瞳を閉じ ブラックジャックは唇に添えたまま

かすかに漂って来ている そのアロマの主 に問い掛けた。



「 ・・・・・・うふふふふ・・・・・・ さすがは博士・・・よくお気付きで。 」



かすかに漂う そのアロマの向こう、 「邪香(ジャコウ)」 の主の青い影の中から 妖艶なる おんな の応える声がした。



ぶ わ わ わ あ あ あ あ あ あ ぁ ぁ ぁ ・・・・・



と、 堅太郎のプライベートルームの中、麝香(じゃこう)をはらんだ一陣の旋風(つむじ)!

旋風とともに部屋中に無数の “ 印象的な青 ” に光る ブルーローズの花びら が 散り舞い踊る!

“ ストライク ブルー ” の花びらが一片(ひとひら)、堅太郎の持つブラックジャックの黒い水面にすべりこんだ。



くるくる   くるくる   くるくる   くるくる   くるくる   くるくる   ・・・・・・



黒い水面のリンクの上で その一片の青い舞姫が 麗しい香りの最期の舞を舞い終えると

ふらつくように 黒い舞台の裾野の底に 沈んで逝った。

堅太郎は その青い舞姫の最期を かつて見た 誰か との別離の時のように 静かに見詰めていた・・・・・・



「 ・・・・・・ ルイ ・・・・・・ 」



遠く離れた そのひと の名を堅太郎は久しぶりに口にした。

そのひと の幻影が堅太郎の脳裏をよぎろうとした その刹那である。

そのひと の想いにひたろうとする堅太郎の意識を引き戻すかのように 青い影からふたたびの 旋風の主の声がした。




「 ・・・・・・ 影 をお呼びか ・・・・・・ 」




ぱ っ し い い い ぃ ぃ ぃ ん ん ん !


旋風舞う部屋の中央で 青白い輝きの玉が一瞬現われ そして はぜた!


しゅ しゅ しゅ しゅ しゅ しゅ しゅ しゅ しゅ しゅ る る る る る る る る る る る る


はぜた青白い玉の幾つものカケラが 無数に舞うブルーローズの花びらを引き寄せ 旋風の中心に回りながら 引き込んでゆく。


い い い い い い い い い い い い い ん ん ん ん ん ん ん ん ん ん ん ん ん


旋風の中心に引き込まれた 青い花びらとカケラたちが 細身で髪のひときわ長い おんな の 青い影を造ってゆく。




ふ ・・・・・・  ・・・・・・  ・・・・・・




突然の静寂




青い影 ・・・・・・
青い闇 ・・・・・・
青い幻 ・・・・・・




部屋に吹き荒れていた 麝香はらんだ青い旋風が 止んだ。

部屋で舞い踊っていた 幾つもの青い光のカケラも 無数の青い薔薇の花弁も 消えていた。

部屋の中央の ホワイトウッドの床に 片膝をついて控える おんな が 現われて居た。




おんな は青い吐息を吐くように 言った。





「 ・・・・・・ 影 は こちらに ・・・・・・ 」





うすい唇の紅(べに)を 静かに微笑ませて おんな が伏せていた面(おもて)を上げた。

かすかに麝の香りを麗しく立ち上がらせる おんな の身体の背後から 鞭のように妖しくしなり立ち上がる モノ があった。



しゅん   ・・・   しゅん   ・・・   しゅん   ・・・   しゅん



細くしなり 部屋の空を切り裂き 妖しい気を放つソレは コレもひときわ長い 尻尾 だった。



おんな の細い身体は 薄青い薄い膜のような「スーツ」で 包まれていた。

ちょうど そう、 新体操の選手たちが その美しい健康的な肉体を包み込む それに酷似していた。

ちょうど そう、 人間(ひと)の女の歳ならば 25〜30歳ぐらい だろうか。


ややつり気味で切れ長の細い瞳 ややしゃくった細い顎 そして薄い薔薇色の唇

すっと スジのとおった少し鷲がかった鼻 広い額の裾に控えるように引かれた緑がかった細い眉のライン

ゆったりと ウエーブで跳ねる豊かな瀝青色の髪は 鋭角な頂点にてクビレる細い腰につづく


その腰の背中のところ 人間ならば尾てい骨の隆起があるはずのところから

細くしなる鞭のごとき 群青色の短い微毛にびっしりと包まれたその尻尾は ゆうに3メートルはあろうか

その尻尾の先は 痩せたラグビーボールのようにティアドロップな膨らみの塊が・・・

よく見るとその先の膨らみのさらに先、塊の中にその半身を隠すように「何か」が煌いている・・・


鮮やかな青の残光の尾を引く その「何か」が何なのか・・・


しなる尾の動きが素早くて容易に判別がつかない。

しかしそれが彼女の凶暴な武器のひとつであろうことは

それを見た誰でも容易に想像がつくことであった。




「 お呼びでしょうか ・・・ 博士 」




少しハスキーするヴォイスで静かに おんな に問われて

堅太郎は 現実にかえった。

立ち上がりながら レストソファーの脇の すりガラスのテーブルの白い鏡面に 黒いブラックジャックを置き

堅太郎は おんな に応えた。


「 相変わらず 派手な現われかただな ・・・ 影風(えいぷう) 」


「 どうも・・・ 」


意外にも はにかんだような表情の おんな に 堅太郎は言葉をつづける。


「 紋樹(もんじゅ)のコトは ・・・ 聞いているな 」

「 はい・・・ 」

「 いつの間にか アレはアノ バカ息子 を “ボス” と 認識してしまって ・・・ 気付かなかった 俺も悪いのだが ・・・ 」



白衣の腰に両手を当て うつむき残念そうに 堅太郎は答えた。

視線を床に ・・・ 在りもしないモノを捜すように ころがして ・・・ 少し間をおいて さらに つづけた。



「 影風(えいぷう)・・・ 『 アノ“ ふたり ” 』を ・・・ 守ってやってはくれないか ・・・
 
 オマエに与えた “全てのサルの能力(ちから)” を使って ・・・・・・
 
 紋樹に与えた “本当の能力(ちから)” が ・・・ 正しく善き形 で 発現するように ・・・

 アレは ・・・ まだ ・・・ 自分自身の“存在”が 本当は 何なのか ・・・ 

 なにも ・・・ 知らんのだ ・・・・・・ 」



苦悩するかのような 堅太郎 に おんな が 呟き問う



「 タイプM の ・・・ “ マザーモンキー ” であることも?・・・ 」


「 ああ ・・・ 」


「 では ・・・ 奥様 ・・・ ・・・ 『 ルイ様 』 の ・・・ “ ベースボディ ” ・・・ であることも? ・・・ 」


「 もちろんだ ・・・ 」


「 全ての “ ちから ” を 発動 したときに ・・・ 全ての地球人類 が こうむる ・・・ “ アノコト ” も? ・・・」


「 ・・・ ・・・ ・・・ 」



最後の おんな の問いに 堅太郎は沈黙で答えた。




・・・・・・ ざざざぁぁぁ ・・・・・・ ざざざぁぁぁ ・・・・・・ ざざざぁぁぁ ・・・・・・



・・・・・・ 青い静寂のプライベートルームに ・・・・・・ かすかな波涛の砕ける音 ・・・・・・




「 承知 仕(つかまつ)りました ・・・ 」


片膝の おんな は そのままの姿勢を微動に崩さず 深く頭(こうべ)を垂れ ハスキーに囁いた。


「 この影風、博士に与えられた
 
 この“全てのサルの能力(ちから)”を使い ・・・

 必ずや “ご子息と紋樹の二人” を守り ・・・ 
 
 必ずや 善き道 に お導きいたします ・・・ ではっ!」



ひ ゅ う う う ぅ ぅ ぅ



麝香はらんで 微かな青い風が吹いた

堅太郎がころがしていた視線を 元に戻した時

おんな の 影は もう そこに 無かった



・・・・・・ ざざざぁぁぁ ・・・・・・ ざざざぁぁぁ ・・・・・・ ざざざぁぁぁ ・・・・・・



微かに聞こえる 波涛のこえ

微かに残る 麝香のかおり



・・・・・・ かちゃん ・・・・・・



白いガラステーブルから 黒いブラックジャックを持ち上げる


いつの間にか 冷えてしまった 僅かなアロマをすすりながら

堅太郎は 波涛が漏れてくる 青い闇の窓 に視線をうつす



ひ ゅ ん



一瞬の青い曳光が横に一筋 青い窓の中 青い闇を斬った

その青い煌きの長いリボンを 目で追いながら

堅太郎が呟いた



「 “ 邦夫と紋樹の二人 ” だと? ・・・ バカめ ・・・ 守るのは “ 『 紋樹 』 と 紋樹 の ふたり ” だ! ・・・・・・ 」



青い煌きのリボンは 猿隠島の 波涛砕ける北の岬の崖に向かった

そして ・・・ 崖の突端から ・・・ 跳んだ

そして ・・・ 青い闇の空に 青い翼をひろげ ・・・ 青い煌きの尾を曳き ・・・ 飛んで行く


「 さっそく “トビザル の ちから” を 使うか ・・・ 影風 ・・・ 」

し ゃ っ


それを確認すると 堅太郎 は 窓のブラインドを下ろした

そして ・・・ 白いガラスのテーブルの上に置かれていた もうひとつのソレを取り上げた

そして ・・・ ソレに語り始めた


「 ルイ ・・・ 」


赤いセピアのポートレートの

白い夏服の女(ひと)は

健康そうな男の赤ん坊 を 抱いていた



「 この 『 プロジェクト 』 が成功して ・・・ また ・・・ オマエ に出逢えても ・・・ 
 
 やっぱり 『 オマエ 』 は ・・・ 俺から ・・・ 離れて ・・・ いくのだろうか ・・・ 」



世界的権威と引き換えに失ってしまった

世界で一番大切なひとを思い返しながら

堅太郎は過ぎ去った夏の日々を

悲しく振り返り始めた ・・・ ・・・ ・・・



いつものように ・・・ ・・・ ・・・



・・・・・・ かちゃん ・・・・・・



冷えたアロマ を 飲み干した

ブラックジャック が 再び 鏡の水面に 舞い降りた

ブラックジャック の 底に あのひと が 好きだった

青い薔薇のカケラ が ひとひら

静かに たたずんでいた





あの夏の日の ・・・ あのひとのように ・・・ ・・・ ・・・





堅太郎は ・・・ なぜか ・・・ おかしかった ・・・ 

堅太郎は ・・・ 静かに ・・・ 笑った ・・・ ・・・ ・・・






She Monkey SHADOW         some time ...  some day ...


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