2004夏・赤丸ジャンプ読みきり「しーもんきー」二次創作
S M AFTER - strike blue 様
ブロロロローーー・・・
低いディーゼルの唸りを響かせて
側面に大きなツバメのマークが入った
青と白のハイデッカーなバスは
緑の田の水面の真ん中に真っ直ぐ切り開かれた二車線の道路を行く。
緑の同じ地平の中を もうバスは三十分は走っている
目線が一段高い ゆったりとしたシート
そこから 見渡す限り見えるのは 田んぼ 田んぼ 田んぼ
とにかく 田んぼ。
『泉坂駅バスセンター』を発っておよそ一時間半・・・
泉坂市街を抜け家並みが途絶えて かれこれ一時間になる。
先ほどから すれ違う車が 一台も無くなっている。
それどころか バスの前にも後ろにも
ただの一台の車両の影形も無い。
ただの一台のバスがひたすら緑の水面を切り裂いて行く。
こんなド田舎に こんな立派な道路が何故存在し、
こんな豪華な高速バスが何故走っているかというと・・・
それは 俺の家のせいだったりする。
いや 俺の家と言うよりは 俺の家を兼ねた
『伊勢堅太郎ゲノム研究所』のせいだ・・・もっとも親父がアノ島の『J I ゲノム科学センター』に
移ってからは『元研究所』と言った方が正解だろうが・・・
バスはいつものように 乗客は俺一人だけ・・・
いや、今日は
いや、今日からは違う!
もう「一人」いる
もう俺は 今日からは 一人じゃない!
俺の胸に抱かれて眠る 優しい一人のぬくもりが
俺を少しだけ 強くさせていた・・・
『ピポーン、次は終点、ゲノム研究所前…ゲノム研究所前…』
ワンマンな案内が車内に響いた・・・
「むき・・・」
眠そうな おねむの眼を両手の甲でこすりながら
俺の胸に抱かれた「彼女」が目覚めた・・・
ブロロローー・・・
ディーゼルの紫煙を残して ツバメ返しでバスが泉坂市に戻ってゆく。
後に 俺たちが残される・・・
ポール一本の殺風景なバスの終点。
そのすぐ前に 俺の家 は在る。
「さあ、着いたよ紋樹!ここが俺の家さ」
「うっきーっ!」
一匹の若い雌猿を胸に抱いて俺は自宅の 門 の前に居た。
スチイイイーーーッ
メタルクローム色した高さ幅ともゆうに5メートルはある両開きの 装甲シャッター の左上、
無機質な作動音を響かせ サーベランス カメラ の瞳の
ハレーションがコチラに流れてくる。
単眼の水晶体にオーバルに膨らんだ俺達の姿が映っている。
水晶体の奥の朱い網膜が鈍く輝いた、と カメラの脇にあるスピーカーから
マシンヴォイスな女性の声が流れてくる。
『照合解析・・・コードbO03・・・伊勢邦夫様と認識致しました・・・「オープンワード」をどうぞ・・・』
「オープンワード、じ…」
俺がいつもの様にこの仰々しい 門 を開ける為の「合言葉」を発しようとした時だった
(・・・そうか・・・何であのクソ親父が「こんな言葉」を「合言葉」に設定したのか・・・ようやくわかった!)
俺の子供の頃からの長年の疑問のひとつが氷解して・・・俺は猛烈に腹が立った
もし今ココにあのクソ親父が居たのなら・・・速攻のコークスクリューパンチの連打をおみまいしてやるとこだが・・・
残念ながら 奴は「猿隠島」である・・・おそらく一生幽閉されたまま出て来れないだろう・・・
だから奴にココでソレをすることは たぶん無いだろう。
(くそっ!じゃあ親父は随分前から「そうゆうコト」を夢に描いていたってことかよっ!ド畜生めっ!!!)
ギッッ!!
俺はうつむいて両の奥歯が割れんばかりに噛み締めた。
眉間にいく本ものシワが寄るのが自分でもわかった。
きっと醜い憤怒の形相だったんだろう、俺の胸に抱かれた「彼女」が悲しい泣き声をあげた。
「きき・・・うきぃー・・・」
はっ!
その声に諭されて俺は我にかえった、「彼女」が淋しげな瞳で俺を見上げていた。
「ははは・・・ちっ、違うんだよ紋樹っ、紋樹のせいじゃなくて・・え・・えーとぉ・・・」
俺は少し あせった!
額にいくつもの油汗がにじみ出るのが自分でもわかった。
これから言わなきゃいけない 台詞 が 相当にヤバイ台詞 であることは
前からわかっていたのだが・・・しかし・・・いくらなんでも「コノ彼女」の前で
ソレを言わねばならんとは・・・
(くそっ!あの変態親父っ!今度会ったなら 今度こそ 永遠の無呼吸状態 にしてくれるっ!!!)
とうとう クソ親父 が 変態親父 になった・・・いや、その息子の俺がこうなのだから
親父だけが 変態 と言うのはこの際どうかと・・・
俺の脳回路を やや理解不能なワードが駆け抜け始めた時である。
『ピイーッ! 邦夫様、「オープンワード」をどうぞ・・・「第四隔壁」をオープン出来ません・・・』
マシンな彼女の催促の声、
そう 彼女の言うとうり ソノ台詞 が無ければ この 門 が開く事は絶対にない!
そう 奴が造ってしまったからだが・・・ええいっ!ままよ!
この 門 以外に 俺の家に入る事は 賛美歌弟13番の某スナイパー ですら出来ない事!
「合言葉」を言うしかない!!!
スウウーー・・・
俺は胸中に ありったけの空気を吸い込んだ。
俺の鼻腔の奥をむずがゆく 胸の「彼女」の鵺な香りがくすぐる・・・
(・・・コノ「娘」を愛してしまった・・・後悔は無い!・・・コンナ俺にこそ相応しい「言葉」だ!!!)
「オープンワード
獣姦好き好き! 獣姦だーい好き! 時代は獣姦! さあっ、君も飛び込もうっ!
めくるめくケダモノとの交わりっっっ!!! 獣姦っ 蝶ぉーーーサイコ尾尾尾尾尾っ!!!」
・・・・・・ このとき 俺の魔眼 は もう完全に見開かれていたのだろう ・・・・・・
・・・・・・ 全ては もう 始まって いた ・・・・・・
「 ききききぃーーー! きいっ きいっ きいっ きいっ !!! 」
紋樹が真っ赤な顔をして(いや…元から真っ赤な顔だな…)喜んでいる
紋樹のその喜び様は まさしく本能の赴くまま である(元からケダモノだしな…)
キキキキイーーー・・・ キイッ キイッ キイッ キイッ ・・・
俺の家の・・・ いや 元研究所 の巨大なメタルクロームな 門 が 左右斜め上に跳ね上がって行く
『「第四隔壁」…オープン完了…邦夫様、お進み下さい…』
「・・・・・・ さあ 行こうか ・・・ 紋樹 ・・・ 今日からココがオマエの家だよ ・・・」
「ききぃー」 紋樹が 俺の肩で 跳ねる
(その家に入るまで、あと「三回」…アノあほな「合言葉」を叫ぶんかい…)
俺は いつものようにウンザリしたが・・・ 俺は 何故か いつもより心は軽かった。
ひとりじゃない
ただ ソレダケノコト が こんなにも 俺を 強くしている
俺は ソノコトに気付くのに 少しの時間が必要だったのだが・・・
俺は 紋樹の柔らかな赤い尻を右肩に感じながら・・・
俺は 「第三隔壁」へと続く 石畳の小道を歩き始めていた・・・ ・・・ ・・・
She Monkey AFTER some time... some day...
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