全年齢【BE IN LOVE】「EPILOGUE〜EAST〜」 - スタンダード  様 


「何があったの?」



急に表情を変えたつかさに 綾が明るく尋ねる。



「うん……



   淳平君に逢えたよ」



屈託のない笑顔で答えた。



迷いなどなかった。



「ずるいな〜あたしも!」



綾は笑いながら墓に体を向けた。



先程、つかさがしたようにしゃがみ込む。



同じく目を瞑り、自分を見つめる。








――みんなあなたが大好きでした。



  力強く…



  優しく…



  一生懸命な君が。



  もちろんあたしだって。



  引っ込み思案で 友達も少ない。



  小説を書くことしか出来なかったあたし…。



  そのあたしが…

 

     真中君と出会えた。



  運命の出会い。



  あたしは勝手にそう決めてる。
  


  運命じゃない出会いなんて無いのかもしれないけれど…



  どこにでもある出会いじゃないと確かに感じた。



  
  真中君と出会い、あたしは希望を貰った。


  
  たった今、世界で一番大切な希望を…



  望めば叶うという大切なことを。







  真中君がいなくなったのも運命なのかな…。



  何でいらない運命があるんだろう。



  正直…自殺とかも考えた…。



  今では馬鹿だったって思ってる。



  でも…



      どうしようもないぐらい不安で…



        
                     怖くて…    

 

  死んだ方がよっぽど楽なんじゃないかって…



          そう思った。


 
  でもそんなときに真中君の想いが分かった気がしたんだ。



  真中君が止めてくれた気がしたんだ。  



  そう。



         ラストシーンにはまだ早いって。












  ねえ、真中君。



  あたしたちの映画、あの嵐泉祭で優勝したんだよ。


 
  最初はみんな真中君のことを想って…



  同情も含まれているのかもしれないって思ってた。



  だけど…



       それだけじゃないんだ…。





  コンクール優勝!



  監督の不幸のことなんて知らない人達も、あたし達の映画を選んでくれた。



  誰にも認められる、素晴らしい作品をあたし達は作ったんだよ。





  
  
  でもね…



  あたしは完璧な作品だなんて思ってない。



  真中君が最後に手を加えた台本の一節が果たせていないんだから。




  『主人公、とびきりの笑顔で「悲しむなよ」と呟く』




  すごく苦労してたね。



  いざやってみるととびきりの笑顔って難しいなあって…。



  結局撮れなかった最後のシーン。



  当たり前だよね。



  事故が起こったのにカメラが回ってるはずないもんね。



  君が見せた最後のとびきりの笑顔は…



  君の最後の表情になった。







  「これが撮れなきゃ今回の作品はダメなんだ!」



  そう言い張っていた君の言葉が、あたしの頭をまだグルグル回ってる。



  つまり今回の作品はまだ出来上がっていない。



  あたし、今でも思うんだ。



  この映画に…



       なんとか本当の完成を迎えさせたい。



  でもあたしだけじゃ何も出来ない。



  合成映像でも、コンピュータグラフィックスでも作れないあの表情は…



  君がいなきゃ見られないんだから…。



 

  だから決めたんだ。











  あたしは待つって…






           カメラを回す君を…。






  あたしは待つ…







           必死に主人公を演じる君を…。
 







  あたしは待っている…



  


   


          君のとびきりの笑顔を…。








  いつまでも待っている…











           



                   君を――――













少女達が立ち去り、墓石は静かに佇んでいる。



いつの間にか石にはしわくちゃの台本が添えられている。


風がなびき、ページが踊る。



やがて最後のページまで踊り終えると…



今までの軌跡を誇張するように汚れたページを大きく開いていた。







そして最後の一節が…






      何事にも勝る輝きを放っていた…。












            『とびきりの笑顔で―――――』   


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