【4章  映画鑑賞と夢の違い】 - りゅうか   様








 決して、広いとも言えない


 決して、新しいとも言えない、この部屋。



 その中は、今、足の踏み場もない状況だった。



 何時の物かも分からない、宿題のプリント、飲みかけのペットボトル


 その他、様々な物の散乱した部屋。



 二人の人間が座った時点で、超満員。



 そんな部屋で、良いところと言えば、日当たりが良く、洗濯物が速く



 乾く。


 そして、家庭用のサウナがあるかの如く、汗が噴き出してくる位。





 当然、この部屋に、エアコンなどと言う文明の利器は、


 
 無かった・・・・














 「何、このへや・・・アヅイ〜」


 あたしの肩の上で、そう声を上げたのはララ。



 白い羽を、自分の方へ、パタパタと仰いで風を起こしている。



 でも、あたしが喋ることは出来ない。



 (だって、すぐ隣のベッドには、淳平君が・・・)




 


  4章    【映画鑑賞と夢の違い】



    第4章   【















 (映画見てるときの淳平君、何か、・・・カッコイ・・・)



 あたしから、見ようと言ったDVDを本当に真剣な表情で見ている。



 まるで、先程の人物とは別人のよう。


 ちなみに、この映画は、受験が終わったときに、淳平君と見に行った

 
 
 映画の、前々作。
 


 もちろん、あたしは見たことあるし、だいたい、映画が見たくて、



 この家に来たわけでもない。




(さっきの演技、大丈夫だったかな・・・)




『さっきの演技』とは、先程言った、初めましてのこと。



 ララちゃんには、ここへ来る途中ずっと、



 『いつものつかさと違ってて、変』



 と、言われ続けていた。





 でも、あの口調も、『真中君』という呼び方も、とっさに出てきた。





 第一印象は、良かったと思う。







































 (だって、東城さんに似せたんだし・・・)


























 思い出すと悲しくなって、あたしは、大きいとは言えないテレビの



 画面に目を移した。







 画面の中には、一人の女性が立っている。




 何もない暗闇の中、逃げ場も、救いの手も無く、ただ泣いていた。




 (っえ、このシーンって・・・)





 一瞬、画面が黒く染まったかと思うと、エンディングが流れ始めた。




 気付かない間に、終わってしまったよう。







 すると、さっきまで、ベッドの上に座っていた淳平君が、弾かれたよ



 うに立ち上がり、テレビを消した。














 しばらくの間、淳平君はそのまま、何をして良いか分からないように



 立ったまま、口を開いたり閉じたりしてたけど、急に、諦めたのか、




 もとのベッドの上に、座り込んでしまう。




 (いつもの淳平君なら、映画の感想を言い始めるんだけどな・・・)



 いつもと違って、気軽に話しかけて来ることもない淳平君のことを、



 微笑ましく思う反面、多少の寂しさを覚えてしまう。




 だが、いつまでも、そうしている訳には、いかない。




 
 今や、この部屋は、静寂の支配下にあった。




 唯一、耳に入ってくる音と言えば、窓の外からの、セミの声ぐらい。




 そんな中、淳平君は、赤面した状態で、あり得ないほどの汗をかき、




 緊張に押しつぶされそうな顔をしていた。
 





 まず、この沈んだ空気をどうにかしないと・・・




 




 




        



























 「映画、良かったね。・・・・淳平君って、映画好きなの?」




 出来るだけ、軽く言ったつもりだったけど、それでも、淳平君は、驚


 
 いたみたいだった。




 「っえ、う、うん。嫌いって程じゃないけど、好きだよ。」





 そう言って、首を縦に振っている。




 自分の言った言葉が、日本語になっていなかった事に、気付いた様子




 は無い。




 ただ、言葉をつなげる。




 「そ、それで、に、西野は、何でわざわざ俺の家に来たんだ?」



 「っえ、・・・べ、別に言いじゃん。あ、あと、あたしのことは、




 『西野』じゃなくて、これからは、『つかさ』って呼んでね。




 あたしは、『淳平君』って言うから・・・」





 やっと、淳平君の口から紡ぎ出された日本語を、あたしは、とっさに




 誤魔化した。




 だが、目的は言わなければならないだろう。




 さっきから、宙にいるララの視線が気になって仕方がない。




 (分かってる。分かってるけど・・・)





 なんと言えば、映画の撮影を頼めるだろうか・・・




 だが、ララが言うに、淳平君と映画を撮らなければ、元の時間には、




 帰れない。




 なんとしてでも、撮影まで、もっていかなければ・・・・











 






 そんな間にも、淳平君は、あたしの事をずっと見てたみたいで、



 
 あたしが、顔を上げると、何がなんだか分からない、といった目で、



 こちらを覗いていた。
















 (まずは、映画のことに、話を近づけないと・・・)










 心の中で、そう呟き、あたしは、淳平君に質問をする。







 「淳平君の夢は、やっぱり、映画の監督になる事なのかな?」












































 こう言えば、きっと、簡単に映画撮影まで、行けると思ってた。




 だけど、話は、そうそう簡単では無くて・・・・




























































 あたしの質問に、きょとんした様子の淳平君は、おどおどしながら、




こう言った。












































 「い、いや、べつに、俺、映画見るのは好きだけど、撮るのは・・・




 ・・・やらない・・・かな」




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