はなさないから - くろろ 様
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淳平は家路に着きながら今日一日の出来事を思い出していた。
ともこに聞かされた、つかさの退学の件。つかさの少しやつれた
顔。つかさの嬉しそうな笑顔。つかさの母の言葉。どれを取って
も、自宅までの短い時間で考えをまとめるには重過ぎる内容だ。
淳平は天を仰ぎ、溜息をつく。
(なんで、こんな事になっちゃったんだろう。。。)
(俺は、ただ、西野と一緒に居たかっただけなのに。。。西野だっ
て、俺と居たかっただけなのに。。。)
淳平がハッとした表情で頭を振る。
(こんな事、考えちゃダメだ。状況は変えようが無いんだから、こ
れからどうするかを考えなきゃ。今まで西野の前向きな考えに助け
られてきたんだ、これからは俺が西野の支えになるんだ。)
(そう言えば、西野に俺の気持ち言いそびれちゃったな。。。俺の
気持ち伝えたら、西野、喜んでくれるかな?今日みたいな笑顔、見
せてくれるかな。。。)
そんな事を考えているうちに自宅のマンションが見えてくる。歩い
ても15分。走れば5分チョッとの距離だ。ここで、淳平の足が止
まる。淳平の頭の中には、今迄とは違う考えが巡る。
(やっぱり、うちの親には西野の事、話とかないと不味いよな
ぁ。。俺のせいで西野、桜学、退学になる訳だし。。どうやって切
り出そう。。。)
ここで再び、淳平は頭を振る。
(また、こんな事考えてる。たった今、俺のせいだって自分で認め
たばかりじゃないか!西野の方がもっと辛いのに、親に怒られたっ
て自業自得じゃないか!こんな事じゃ、西野の支えになんてなれや
しない、しっかりしろ、真中淳平!)
再び、淳平は歩き出す。普段の淳平を知る人が今の顔付きを見た
ら、あまりの精悍さに驚く事だろう。淳平は、自宅マンションのエ
ントランスを抜け、階段を上がる。ふと見ると、玄関の前に人影が
見える。その人物もこちらの足音に気付いたのか、こちらに走り寄
ってくる。
「ジュンペー!」
声の主は唯だった。唯は、淳平の元まで走ってくると、淳平の腕を
掴み階段まで引き戻す。
「お、おい唯、一体なんだよ?」
淳平の腕を掴んだまま俯いている唯に声をかける。俯いたまま唯は
言葉を発する。
「ジュンペー。正直に答えて。」
ここで、初めて唯は顔を上げた。瞳には今にも溢れ出さんばかりの
涙が見える。唯は今にも泣き出しそうな顔で、淳平の目をまっすぐ
に見て更に言葉を継ぐ。
「ジュンペー、西野さんに何があったか知ってるんでしょ?西野さ
ん、無期停学ってどういう事なの!学校じゃ無責任な噂が流れてる
し!ねぇ、知ってるんでしょ、ジュンペー!」
とうとう、唯は泣き出してしまった。それでも、そのまま、淳平に
詰め寄る。唯にとってつかさは、まるで、姉のような存在だったの
かもしれない。迷子になり、心細い時に助けられ、親元を離れ、桜
学に入学してからは、同学年の気の置けない友達が出来るまでは、
唯一の知り合いだったのだ。つかさの方も淳平の妹分的な唯に色々
気を配っていた事は、想像に難くない。姉のように慕う上級生は、
学園内でも知名度bPの美少女。つかさと知り合いと言うだけで、
新しいクラスメイトとの会話のネタになった事だろう。そのつかさ
が無期停学になり、校内では無責任な噂が飛び交っている。唯にし
てみれば、とても冷静でいられる状況では無いのだろう。
「ジュンペー、修学旅行の時にうちの学校のホテル唯に訊いたよ
ね?それと何か関係があるんじゃないの?西野さんの停学、ひょっ
として唯のせいなの?」
大粒の涙を零しながら唯は淳平に詰め寄る。淳平は、唯の目を見て
優しく答える。
「西野の停学は唯のせいなんかじゃないよ。」
唯は、尚も食い下がる。
「じゃぁ、何が原因なの?知ってるんでしょ?ジュンペー。」
少しの沈黙の後、また、淳平は優しく答える。
「何が原因かは、もう少し待ってくれないか。落ち着いたら必ず教
えるから。」
淳平は、唯の目を見て更に言葉を継ぐ。
「絶対に、唯のせいなんかじゃないから。」
(そう、唯のせいじゃない。俺のせい。。。)
泣きじゃくる唯を見て淳平は話題を変える。
「唯、おまえ、学校からそのまま来たんじゃないのか?制服のまま
だし。一度帰って着替えて来いよ。今夜はうちで晩飯食ってけ
よ。」
両親との西野の事に付いての話を唯には聞かせたくは無かった。
修学旅行の時の事が原因だと解れば、唯は責任を感じてしまうかも
しれない。調べてくれるように無理矢理頼んだのは自分だし、唯が
責任を感じるような事は避けたかったのだ。一旦着替えに帰る唯の
背中を見送った淳平は大きく深呼吸をして、玄関のドアノブにてを
掛ける。
「ただいま。」
続く