はなさないから- くろろ   様





「あれって桜海の制服じゃねぇ?」


「結構可愛いじゃん。」


「彼氏待ちかな?」


「お前、こえかけてみろよ?」


「無理、無理、俺にはレベル高すぎ。」


「彼氏、誰だかしんねーけど、羨ましすぎ。。。」





トモコは泉坂高の前に着いていた。勢い込んでは来たものの、どう


やって彼を探すか思案していた。


(手掛かりは、ジュンペイ君と映研か。。。)


つかさからは、彼の名前の苗字は聞き出してはいない。後は、この


夏に彼の監督で映画のヒロインをやったと言うつかさの話から、映


研であろうと言う推測だ。


(入替の時に居た端本って子が見つかれば早いんだけどな。)


思案の結果、ちなみを探すより、映研の方を探した方が早いと言う


結論に至る。


(端本を探してる間に彼が帰っちゃったら元も子もないもんね。)


(よし、誰か捕まえて、映研の場所を聞いてみよう。。)


近くを通りがかった男子生徒に声をかける。


「すみません。映研の部室って何処でしょうか?」


いきなり声を掛けられた男子生徒は赤面する。つかさと行動を共に


するせいで、さほど目立たないがトモコとて、普通の男子高校生が


赤面する位の可愛さなのだ。


「えっと、。。映研ならそこに見える手前の校舎の2階、生徒指導


室が部室になってるはずですよ。」


「ありがとう。」


トモコは教えられた校舎へ視線を泳がせる。


「あ。ひょっとしたら、次の映画に出る人?」


「え?」


「俺、今年の文化祭で映画見てさ。ヒロインの子がスゲーいいなっ


て。。。噂じゃ、桜海の子って話なんで、次もそうかなって。」


「あ、いや、その、その子が可愛いってのもあるんだけど、映画の


内容も良くてさ、俺らの学校に本当に映画が作れるやつが居るんだ


なって思ったんだ。もしも、映研関係の人だったら、がんばれよっ


て伝えてもらおうかと思って。。」


(つかさの映画、評判良いんだ。。。)


「私が出る訳じゃないけど、伝えておきますね。」


場所を教えてくれた男子生徒は軽く片手を上げながら去っていっ


た。トモコは映研の部室があるという校舎へ向かって歩を進めた。


(映研の部室へ行けば、ジュンペイ君を知ってる人が居るはず


だ。。。)


(つかさ、映画に出てる時も彼の話をする時と同じ笑顔だったのか


な?。。。きっとそうだよね?。。。一度、見てみたいな。。。)


照れ臭そうに彼の話をする、つかさのはにかんだ笑顔と、今のつか


さの状況を思い、トモコは胸が張り裂けそうになる。


(一刻も早く、この状況を彼に伝えなければ。。。)


トモコの歩を進める速さが彼女の心の内を表しているかの様だっ


た。


教えられた校舎の中に入ると2階に上がるために階段を探す。と、


そこへ3人の人影が廊下をこちらへ歩いてくる。


「あ!」


いた!彼だ!3人のうちの真ん中の人影は見覚えがある。間違いな


く入替の時に来た彼だ。つかさがメロメロになる位だからどんなに


良い男だろうと想像してガッカリした顔だ。あの時の同じ班の子達


は、未だに彼は代理だと思っているみたいだが。。。


「ジュンペイ君!」


トモコは走り寄りながら声を掛ける。いきなり声をかけられて、彼


は少し、驚いているようにも見える。トモコは淳平の前まで来ると


乱れた息を整えるのも忘れて言葉を継ぐ。


「いきなりでゴメン。あたし、つかさの友達で。。。」


ここまで言葉にした時、トモコの目に信じられない光景が飛び込ん


できた。彼の傍らに居る女生徒が彼と親しげに腕を組んでいるでは


ないか。


(え?何で?どういう事?)


(つかさと彼は両想いじゃないの?)


(つかさがこんな時に、この人、何やってるの?)


トモコが言葉を失っていたのは、ほんの数秒の事だろう。その数秒


の間に、『つかさの友達』と言う言葉を聞いたさつきが、淳平に絡


めた自らの腕に力を込め、殊更に淳平に体を密着させる。それを見


たトモコの中で何かが弾けた。


「。。。。二。。。。。。。ヨ。。。」


トモコは俯き、両の拳を強く握り締め、肩を震わせる。


「ナニ、ヤッテルノヨ。。。」


淳平、さつき、外村は、ただ、トモコを見ている。


「あんた一体、なにやってんのよ!!!」


言葉と同時にトモコは淳平の胸座を掴み詰め寄る。淳平はその勢い


に押され、廊下の壁に押し付けられる形になる。トモコの頭の中に


は、照れ臭そうに彼の話をするつかさの笑顔、止めるのも聞かず、


ホテルを抜け出そうとする思い詰めたつかさの顔、クラス全員に頭


を下げ、入替に協力して欲しいと頼み込むつかさの姿、教師達に取


り囲まれ、詰問されても頑として彼の素性を明かさないつかさの気


持ち、彼のことを気遣い、独り不安に耐えている今のつかさの状


況、様々な事が一瞬にして駆け巡る。弾けた感情の為か、トモコの


双眸からは大粒の涙が流れ落ちる。


「つかさがこんな時に、あんた一体、なにやってんのよぉ!!!」


淳平の胸座を掴んだ腕を前後に揺すり、尚も詰め寄る。それは、怒


りと言うよりも既に憎しみに近い感情だったのかもしれない。その


声は涙声が混じり、既にハッキリとは聞き取れない位になってい


た。


「うっく。。。ナニ。。。ひっく。。。やって。。。うぅぅ


ぅ。。」


淳平の胸座を掴んだまま、トモコは足元から崩れ落ちる。トモコの


体を支えきれず淳平の制服のボタンが千切れてゆく。


「つかさ。。。つかさぁぁぁぁぁ!!」


崩れ落ちたトモコはその場で号泣した。


突然の事態にあっけに取られていたさつきが我に返る。


「あんた、いきなり来て、何、訳のわかんない事言って。。」


さつきの言葉を遮るように淳平が言う。


「西野がどうしたんだ?西野に何があったんだ?!」







溢れ出た感情を吐露するかの様に泣いていたトモコ。それがやや、


落ち着いた頃に外村が淳平に告げる。


「真中。俺と北大路は先に帰るよ。」


「え〜?何で?西野さんに何かあったのなら、あたし達にも何か力


になれることがあるかも知れないじゃない?」


「いや、この子の。。。トモコちゃんだっけ?。。様子だとつかさ


ちゃんには重大な問題が起こってるみたいだ。しかも、プライベー


トな事でな。ここは、真中一人が聞いた方が良いと思う。北大路に


も他人に聞かれたくない話くらいあるだろ?」


「そりゃぁ、まぁ。。。」


諭す外村にさつきが渋々頷く。外村は更に続ける。


「その上で、俺達の協力が必要と思えば真中が俺達に話してくれれ


ばいい。」


外村に促され、さつきがその場を離れる。離れ際に切なげな、ま


た、不安げな視線を淳平に送る。外村も続いて離れようとして淳平


に声を掛ける。


「独りで行き詰ったら、必ず相談してくれ。協力は惜しまん。独り


じゃ見つからない出口も何人か居れば見つかる事もある。独りで抱


え込むなよ。俺もつかさちゃんの友達のつもりだ。」


こう言うと、後ろを振り返るさつきの背中を押す様にして昇降口へ


消えていった。その場で二人を見送った淳平がトモコに視線を移


す。


「西野に何があったんだ?」




続く。。。



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