はなさないから - くろろ   様




トモコは泉坂高へと向かっていた。


(今のつかさの状況を一刻も早く例の彼に伝えなければ。)


何故かトモコは、そう思った。ひょっとしたら、昨夜のうちに電話


でもして既につかさの置かれた状況を知っているかもしれない。そ


う、考えないでもなかったが、つかさから聞き出した限りでは、今


の2人の関係は友達以上恋人未満と言う微妙な関係だ。つかさの性


格から言えば例の彼に心配を掛けまいとして何も話していない方の


可能性が高い。こんな時こそ、例の彼に傍にいて支えて欲しいと、


心の底から願っているくせに、彼の事を気遣い、出来ないでいる。


そう、確信めいた思いがトモコの中にはあった。






担任の呼び出しから戻ったトモコの様子にクラス中がざわめいてい


た。


「トモコ、どうしたの?」


「担任のやつに何かされたの?」


すぐさま、何人かのクラスメートが走り寄って来る。


トモコは、今しがた校長室での出来事をクラス全員に告げた。


「いい、みんな?つかさはあたし達を巻き込まないように『嘘』ま


で付いてくれた。その思いを無駄にしない為にも、つかさの『嘘』


に口裏合わせて!お願い!」


トモコは泣きながらクラス全員に頭を下げていた。






トモコは足早に歩きながら先程のクラスメートの反応を思い出して


いた。皆、つかさの事を心配しているのは本当だろう。しかし、ト


モコから聞かされたつかさの『嘘』の内容を聞いて自分達に累が及


ばないと分かった時のみんなの安堵した表情がトモコの脳裏にこび


り付いて離れなかった。


(みんな、自分が可愛いんだな。。。)


(口では友達なんて言っても、所詮、こんなものか。。。)


こう、思った瞬間、校長室に居た時の自分を思い出す。


(あたしも停学になったらどうしよう?って、思わなかった?)


(あたしも他人の事は言えないな。。嫌なやつの一人かもしれな


い。)


(あそこでつかさを見捨ててしまった分、あんたが彼に伝えたい気


持ちは、彼に伝えたい言葉は。。。あたしが伝えてあげる!)


トモコの歩くスピードは更に上がり、いつの間にか走っていた。






「おーい。真中ぁ、今日、部活どうすんの?」


一週間で最も眠い7限目の授業が終わると同時に外村が声を掛け


る。


「う〜ん。今日の所は、これといってやることないなぁ。」


「んじゃ、俺、このまま帰っていいか?HPの更新やらなきゃいか


んのだわ。」


「あ、外村。俺も久しぶりにバイト行くから、途中まで一緒に帰る


か?」


そう、淳平が声を掛けると、外村は「バイトねぇ。」と、ニヤリと


笑い真中に耳打ちする。


「お前の場合は、つかさちゃんに逢いたいのと、さつきから逃げた


いのが本音でバイトは口実だろ?」


「うっ。。。。」


外村の鋭い指摘に淳平は二の句を継げなくなる。


「えー。真中、今日、部活やんないのぉ?」


後ろからいきなり誰かに抱きつかれる。


「ダ〜!離れろさつき!いきなり抱き付くなと何度言えばっ」


「もぅ、真中ったら照れちゃって可愛いんだから♪」


さつきは淳平の頭を後ろから抱え込んだまま体を揺する。


(さつきの胸の感触が後頭部に。。。気持ちいいかも。。。)


鼻の下を伸ばした淳平の顔を見て、外村がニヤニヤ笑う。


(イ、イカン。西野に会う前にこんな事してちゃ!)


「あ〜。さつき、いい加減に離れろって!お前の胸が俺の頭に当た


ってるんだって。。」


淳平の言葉を遮る様にさつきが淳平の耳元で艶のある声で囁く。


「押し付けてんのよ♪ワ。ザ。ト♪」


淳平の顔が見る見る赤くなる。そんな二人のやり取りを外村はニヤ


ニヤしながら見ていたが、このままでは埒が明かないと思ったの


か、


「北大路、今日バイトは?」


別の話題をさつきに振ってくる。


「バイト?今日はお休み♪東城さんも今日は文芸部のほうに顔出す


って言ってたから、真中と2人っきりになれると思ったのにな


ぁ。」


さつきは、口元を尖らせ、頬を膨らませて拗ねた表情を見せる。


「まぁ、そう言うなよ。真中も偶にはバイトに顔を出さないとクビ


になっちまうからな。」


「それは、そうなんだけどさぁ。。」


さつきは淳平の頭を抱え込んだまま、尚も不満げな表情を見せる。


(さ、さつき、いい加減に解放してくれ!このままだと俺の下半身


がえらい事に!)


淳平の心の叫びを無視するように外村とさつきの会話は続く。。。




淳平の体がいきなり開放された。さつきは淳平の体を解放すると両


手のひらを合わせ自分の顔の前に持っていき、名案が思い付いたと


ばかりにニッコリ笑う。


「あたしも真中のバイトに付いて行っちゃお〜♪」


「エー!さ、さつき!本気で言ってんの?冗談だよな?」


さつきの言葉を聴き、淳平が慌てて問いただす。


「本気だよ?あたし、真中がバイトしてるとこ見てみたーい♪」


(せっかく久しぶりに西野と会えるチャンスなのに!な、な、何と


かしなければ!)


淳平はさつきを説得しに掛かる。


「ほ、ほら、俺、バイトの内容、客席の掃除だし。そ、掃除なんか


見てても面白くもなんとも無いし!だ、第一、バイト中はさつきに


構ってやれないし!な?な?」


「いいの!あたしは、真中が仕事してる姿を見たいの!それに、あ


そこの館長さんなら、女の子が行けば、お茶とか出してくれそうだ


しね♪」


(うっ。。。確かに館長ならさつきが行けば、間違いなくお茶くら


い出す!それどころか、お茶菓子付きで出しそうな気がする!)


「そ。れ。と!」


一瞬、さつきの目が据わったような気がした。


「西野さんと二人には絶対、さ!せ!な!い!」


(やっぱり、そうですか。。。。)


京都での西野との二人きりの行動は、いつの間にかさつきの知る所


となっていた。淳平は二人で行動すると言った訳でもないのに何


故、さつきにバレたんだろうと不思議がっていたが外村に言われた


言葉で納得した。


「あのなぁ、真中。さつきと俺達は同じ班なの。解る?お前が一日


中居なければ、不思議にも思うし、いくら俺でも、そうそう、誤魔


化し切れるもんでもない。ましてや、あの西野つかさと一緒に居る


んだ。かなり、目立った筈だ。うちの生徒の一人や二人、お前とつ


かさちゃんを見かけても不思議じゃない。そうなれば、人の口には


戸は立てられん。噂はあっという間に広がるし、そうなれば、北大


路の耳にも自然に入る。って事だ。ここまで説明すればお前の鈍い


頭でも理解できるな?」


言われて見ればなるほどと思う。確かにそうだ。ここで、淳平は


「じゃぁ、西野の学校にもバレている可能性も有るのでは?」と、


思ったが、まだ、旅行中のつかさと何度か電話で話した時も桜海の


旅行が終わった後に何度か電話で話した時にも、それらしき事は言


っていなかったのでバレたはいないのだろうと安心していた。




「ほら、真中。早く行こうよぉ♪」


さつきは、既に帰り支度を済ませて教室の入り口で待っている。


「北大路が行くんなら、俺もHPの更新やめにして、覗きに行っち


ゃおう♪」


外村が突然言い出した。


「何で、さつきが行くからってお前まで来る訳?」


怪訝そうにする淳平に外村が耳打ちする。


「HPの更新より、こっちの修羅場が面白そうだから♪」


「は、ははは。。。やっぱり。。。?」


淳平はガックリ肩を落とした。






続く。。。



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