はなさないから くろろ 様



10月のある朝、彼女は普段と変わらぬ一日を想像していた。


(今日も例の彼の話で、つかさをからかってやろう♪彼の話題にな


ると顔を真っ赤にして、しどろもどろになるつかさ、何か、かわい


いんだよねぇ〜♪)


修学旅行が終わって一週間余り、つかさは毎日の如く彼女にからか


われていた。からかわれるのが本当にイヤなら、つかさも怒るのだ


ろうが、顔を真っ赤にして、しどろもどろになりはすれ、怒る様子


は無い。内心は、彼の話題を振られる事は、少しは嬉しいのだろう


と、彼女は勝手に判断している。


(さ〜て、今日は、どの辺りまで聞き出してやろうか?)


彼女の誘導尋問は実に巧みであった。カマを掛け、つかさに墓穴を


掘らせる形で、出会いから最近の事まで、殆どの事をつかさに白状


させていた。彼女とつかさの出会いは高校入学時まで遡る。彼女の


つかさに対する第一印象は、「なんて、かわいい人なんだろう。」


である。自分より多少可愛い程度ならライバル心も沸こうと言う物


だが、自分と次元の違う物を見せられると、それすら沸いてこな


い。「世の中には、こんな可愛い人もいるんだなぁ」と、溜息をつ


いた覚えすら彼女にはある。そんな美少女と偶々席が隣になり、お


互いクラスには同じ中学出身者が居ない心細さもあり、仲良くなる


のにさほど時間は必要なかった。つかさと仲が良くなり、その人と


なりを知れば知るほど、つかさへの興味を掻き立てられた。笑顔を


絶やさず常にクラスの中心に居るのに、時折見せる切なげな表情、


『なぜ、あんな表情をするんだろう?』それとなく、尋ねた事もあ


るが、つかさは悲しげな笑顔を見せるだけだった。今なら解る。


『例の彼の事想っていたんだな』と。


(でも、つかさも大胆だよねぇ。部屋の抜け出しだけでもヤバイの


に、生徒入れ替えてまで彼と一緒に居たいってか?。。。あたし


は、そこまで想える人と出会ってないから、チョッと羨ましいか


も。。)


(あ、つかさのやつ、独り者のあたしにこんな心配させやがって、


今日こそは全てを白状させてやる!)


無意識のうちに腕まくりをする彼女の姿がそこにはあった。


そんな事を考えているうちに学校の正門が見えてくる。正門の内側


には生活指導の年配の女教師、その隣には体格のいい守衛が並んで


立っている。毎朝見る見慣れた風景だ。


(あれ?人だかりが出来てる?)


正門から少し進んだ所に人だかりが出来ている。確か、あの辺りに


は全校掲示板があるはずだ。普段なら人が集まるような場所ではな


い。なんだろう?と思いつつ歩を進める。人だかりの中から声が聞


こえる。


「ウソー。彼女、何やったの?」


「無期停?かなり、ヤバくない?内申アウトじゃん!」


「親衛隊の誰かと何かあったとか?」


「可愛い顔して陰で何やってたかワカンナイってこと?」


嫌な予感がした。いきなり心臓を鷲掴みにされた様な感覚に襲われ


る。自然と小走りになり掲示板に近づく。集まっている生徒の一人


が彼女に気付く。


「ト、ト、トモコ!つかさが!つかさが!」


「何があったの!?」


「つかさが!つかさがぁぁぁぁ!」


彼女の元に走り寄って来たクラスメートは泣きじゃくっている。


「つかさがどうしたの?一体何があったの!?」


泣きじゃくるクラスメートは掲示板を指差している。彼女は人だか


りを掻き分け掲示板が見える位置まで進んだ。そこに、張り出され


た一枚の紙。その内容を見て我が目を疑った。




告:下記の者、当学園の生徒として有るまじき行動を取ったと判断  
  し、無期停学に処す。





  学籍番号:○△×□○西野 つかさ




  私立桜見学園女子高等学校  校長


続く。。。



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