素顔 5 - 金魚   様

素顔5  〜〜


「うわぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜!!!!!」

今日も真中家からは朝の雄たけびが聞こえている

声の主は・・・・・・・・言うまでもないだろう

『ドタドタ・・・・・・』

急いで着替え、階段を駆け下りる

「母さん!何で起こしてくれなかったんだよ!!」

何年経ってもこの風景は変わらない

「社会人になっても1人で満足に起きられない馬鹿がどこにいるんだよ!全くもぅ!!」

「ここにいるんだよ!」

ふと、淳平は時計を見る

時刻は10時ちょっと前だ

「うわぁ!やべっ、行ってきます!!」

慌しく出て行き、走り出した

「たったったったっ・・・・」

リズミカルな駆け足も長くは続かなかった

5分くらい走った後、すぐにばててしまった

元々体力がない上、寝起きだからだろう

「ハァハァ・・・もう、走れねえ・・・」

そう言いながらヨタヨタと前へ進んでいった



















その頃、つかさはというと・・・・・・・・・・






























「もぅ、淳平くん遅いなぁ〜」

時刻はすでに10時をまわっていた

「あたしとのデートは15分前行動なのにな」

つかさは淳平と会うときは必ず20分前に来る

15分前に淳平が来てくれるからそれよりさらに5分早く来るのだ

大好きなキミと1分、いや、1秒でも長くいたいから


それなのに・・・肝心の『キミ』はまだ現れていないようだ













「に〜〜し〜〜の〜〜!!」

「淳平くん!!」

やっと『キミ』の登場である

時刻、10:10分

「もう、遅〜い」

つかさは『プウッ』と頬を膨らませる

ハァハァ言いながらも、言い訳は忘れない

「ハァ・・昨日・・遅く・・・までし・・ご・・とし・・てて」

「もういいよ」

『プイッ』とそっぽを向くつかさ

「ごめん!何でもするからさ・・・許してくれよ」

「何でも?」

「あ、いや・・できることなら」

「じゃぁ、お昼おごってね♪」

そう言って淳平の手を引く

「ほら、早くしないと試写会始まっちゃうよ」

「あ・・・うん」

ふと、つかさは気がついた

(ん?今、リードしてるのは・・・?)

無論、つかさである

(ってことは、今日の淳平くんは『あっち』じゃないなぁ・・・)

つかさは、がっかりしながらも試写会をそれなりに楽しんでいた



















とあるレストラン

淳平とつかさは昼食を食べ終え、雑談していた

一方的に淳平ばかり喋っているのだが

「―――だよなぁ!やっぱり」

先ほどの試写会の感想をかれこれ30分も話している

でも、つかさもその話が面白くてつい腹を抱えて笑ってしまうのだ

ふと、つかさは思った

(今日は『こっち』の淳平くんで良かったかも。『あっち』だったら何か面白いことなんて言わなそうだし・・)

一通り話し終えたのか淳平が『ふぅ』と一息ついた

「これからどこ行こっか?」

「ん〜そうだなぁ・・・」

つかさは迷ったが、不意に淳平の歌声が聞きたくなった

「じゃぁさ、カラオケ行かない?」

「え?あ、うん。いいよ」

2人はレストランを出て、歩き出した





















同じ頃・・・・・・・・・・・・・・・・

部屋には暗黙のカーテン、黒い壁・じゅうたんで、部屋には台が1つあるだけの部屋で1人の老婆が不気味に笑っていた

マントの中から水晶のような玉を出し、それを台の上に置いた

老婆がそれに手をかざすと、玉は不思議な光を放った

すると、玉から男女のカップルの姿が映し出された

カラオケBOXで楽しそうに歌っていると見える

老婆はしばらくその様子を覗いていた

たまに、不気味な笑みを浮かべながら
































「あー楽しかった!」

淳平とつかさは歌い終え、帰りのエレベーターに乗っていた

「淳平くん歌上手くなったね」

淳平は照れながらもありがとうと言う

2人のデートはもうすぐ終わりを迎えようとしていた

のだが・・・・・・・・・






水晶玉で様子を伺っていた老婆がゆっくりと口を開き

「ん〜面白くないね。もっと変わってくれなきゃ。よし、ちょいと細工をしてやろう」

そう言って玉に手をかざし、ゆっくりと動かし始めた
















『ガコン!!』






















「きゃぁ!」

エレベータが急に揺れたのだった

「西野!危ない!!」

つかさは壁にぶつかりそうになったので淳平はとっさに、つかさを抱きしめた

そしてそのまま壁に頭をぶつけた



しばらくして揺れはおさまった

「淳平くん!大丈夫?」

つかさが慌てて聞く

「・・・・ん・・・・・」

淳平は頭を上げ、大丈夫と答えた

「また止まっちゃったね、エレベーター」

またとは多分、あの日のデートの頃を思い出しているのだろう

淳平はつかさを抱きしめたまま動かない

「淳平くん一回離して」

「・・・・・・・・・」

「聞いてる?淳平くん?」

「・・・・・・・・・嫌だ」

「はぃ?」

つかさは淳平の意外な言動に変な声を出した



「今は離したくない。つかさを抱きしめていたい」

「!!!!!!!!」

つかさは驚きのあまり声を失った

『あっち』の淳平になったのだ

(もしかして『あっち』の淳平くんなの?でも、このタイミングで・・・)

2人に聞こえているのはお互いの鼓動と淳平の腕時計の音だけだった



続く