素顔 2 - 金魚  様

素顔2 〜理想の薬〜


話す相手もいなくなり、しばらく『ボーッ』としていたつかさだが
不意に立ち上がり、会計へと足を運んだ

(トモコの奴、またジュース代払わないで行くんだから!次は絶対おごらせてやる〜)

会計を済ませ、暇になったつかさはぶらぶらと歩き出した

(淳平くん、今何やってるのかな・・電話してみよっと)

鞄の中から携帯を出し、今年一緒に買いに行った淳平の携帯に電話をかけようとした・・・しかし、途中で手を止めた

前方に唯を発見したのである

「唯ちゃ・・・・!!」

呼びかけようとした時、これまた喫茶店から出てくる大草の姿を発見したのである

そう、2人は付き合っているのだ
きっかけは・・・高校のときのダブルデート

「唯ちゃん、お待たせ」

そう言って大草は唯の頬に優しくキスをした

唯も大草と腕を組み、幸せそうな笑顔を見せて、2人でどこかへと行ってしまった

その様子を少し遠くから見ていたつかさは口を『ポカーン』と開けて、その場に立ち尽くしていた

「いいなぁ、唯ちゃん・・あたしも淳平くんにあんなことしてもらいたいなぁ・・」

ボソッと小さく喋るつかさの姿はどこか切なくうつる

突然つかさは後ろから肩を叩かれた

驚いて振り向いてみると、黒い帽子、黒い服、黒いマント、黒い靴・・と、いかにも魔女のような老婆が立っていた

顔はしわだらけで、口元がゆるんでいてとても不気味だ

つかさは一瞬驚いたが、すぐにいつもの優しい女性になり、

「どうかしましたか?お婆さん」  と、尋ねてみた

「お前、今の彼氏に満足していないじゃろう」

「・・・!!!???」

つかさは初対面の老婆に心の内を見透かされているような気分になった
しかし、さっき自分が呟いた台詞と、唯と大草の一部始終を見ていたなら今の言葉にも納得がいく

「も、もしかしたらさっきの・・・聞いてました?」

「ん?それはどうかねぇ・・ヒョッヒョッヒョッ・・・・」

笑い方も実に不気味だ

「それはともかく、わしがさっき言った言葉、間違ってはおらんじゃろう?」

老婆のまっすぐな瞳に引かれたのか、つかさはつい、喋ってしまった

「はい・・・一緒にいて楽しいんですけど、少し物足りなくて」

見知らぬ老婆に何をしみじみと話しているのだろうと、言った後で気づき、つかさの顔はまたもやいちご色に・・・

ふと、老婆が呟いた

「魔法の薬はいらんかい?」

「はぃ??」

誰もがつかさと同じ反応をするに違いない
漫画や映画じゃあるまいし、魔法なんて・・・

「この薬を彼氏にぶっかければたちまち理想の彼氏になるだろう」

そう言って老婆はマントからいちごの容器に入った薬を出した
中にはピンクの液体が入っていて、ゆっくりと揺れていた

「そんな都合のいい話、今のご時世ありえませんよw」

つかさは無論、信じていない
それもそうだろう・・見知らぬ老婆にそんな魔法の薬なんてものを差し出され動揺する人間なんてまずいない

「信じるのも信じないのもあんた次第じゃ。とにかく持っていてもお前に迷惑はかからんじゃろう?」

「まぁ、そりゃぁ・・・・・」

「使うときのために、この薬のちょっとした作用をおしえてあげよう」

「作用?」

まだ状況が理解できていないつかさを無視し、老婆は話を続けた

「この薬をかけた瞬間、彼氏はお前の理想通りのものになるだろう

 もちろん、この薬の効果は永遠に続く

 しかし、明日も理想の彼氏になっているとは限らん」

「は??」

またしてもすっとんきょうな声を上げたつかさだったが、老婆はそのまま続けた

「その日の気温、天気、そいつの気分・・・さまざまなものによって理想になったり、ならなかったり・・・・

 ただし、理想じゃない日もその男は普通の男に戻るだけ
 普通以下になることはまずないじゃろう」

「つまり、理想の淳平くんか、普通の淳平くんかはその日のお楽しみって訳?」

「まぁ、そんな感じじゃ。ただ、この薬は水分に弱い。水に使った瞬間、その日は普通に戻ってしまう」

「『その日は』ってことは明日にはまた理想になってるかもしれないってわけね?」

「なかなか鋭いね、お譲ちゃん。その通りだよ」

「この薬の効果を永遠になくしてしまうことはできないの?」

「さぁね・・・そこまではわしもわからん」

長い沈黙が続く

「まぁ、使うか使わないかは自由に決めな。気に入らんかったら捨ててもいい」

そう言うと、老婆はスーーッとどこかへいなくなった

「き、消えた!?」

何が起こったかわからないつかさ
目の前にあるのはさっきの変わらない風景と手の上のビン

「どうしよっかなぁ・・・・・」

しばらく考えながら歩いていると出会ってしまった
つかさの・・運命の相手に・・・・・・」




























「ににに・・・西野!!」

「淳平くん!!」

「トモコちゃんと遊んでくるんじゃ・・」

「外村君とデートだって〜ホント勝手なんだから」

「ははは・・・・」

つかさは迷っていた
例の薬を淳平にかけようか、かけまいか

しかし、次の淳平の一言でこれからの2人の運命は大きく・・とても大きく揺らぐことになる















「あれ、西野何持ってるの?いちごのジュース?」

「え!!?あ、これ??」

ずーっと手に持っていたことも西野は忘れていた
今まで考えていたことを淳平に言われたのですごく驚いた

「うん、それ。ジュースかなんか?」

「あ、うん・・・・そうだよ。飲む?」

「いいの?じゃぁ・・・・」

なんてことを言ってしまったのだろう
気がつくと淳平はつかさの手からビンを取り、口に運ぼうとしていた

(飲んじゃったらどうなるかわからない・・・!!止めなきゃ・・・)

「だめぇ!!!淳平くん!!!」

「えぇ??」

つかさは淳平に突進し、倒れこんだ

その瞬間、つかさの思考は真っ白になり、世界がスローモーションに見えた


























バシャッ




































つかさが起き上がると、薬は見事に淳平の体にかかっていた

「淳平くん・・・だ、大丈夫??」

淳平は答えない つかさは不安になりじっと淳平を見つめる

ふと、淳平が目を覚まして起き上がった

「淳平くん??」















「人にジュースをぶっ掛けるなんて・・・ひどいなぁ、つかさは」




















「へ??・・・今・・・なんて・・・」

「どうしたの?つかさ??」



















その瞬間、2人の運命の歯車が大きく動き出した





つづく