夢紡ぐ糸 第8話 西野の決意 -
hira 様
映画のほうは、無事にクランクアップ、編集作業に入っていった。
綾は、2,3日に一度編集された映像のチェックでスタジオを訪れていた。
「あ、西野さん」
「東城さん」
「西野さんは真中くんのところに? まだ編集中だったでしょう。」
「うん、あたしは差し入れを持って行っただけだから。東城さんは?」
「あたしは、編集終わったぶんを見てきただけ、特に問題とかなかったから、これから帰るとこ」
「そっか、ねえ一緒に帰らない? 話したいこともあるんだ。」
「え、いいけど」
スタジオ内、淳平たちはつかさが差し入れてくれたクッキーを食べていた。
「かんとく〜 相変わらずあつあつですね〜」
「はは」
「ほんと、西野さんっていつも笑顔でかわいいし」
「・・・いつも笑顔、か」
「ん? 監督、どうかしました?」
「いや、なんでもない」
(最近のつかさは、つくり笑いが多いな、やっぱり寂しいのか。でも、これからしばらくは映画が完成するまで時間作れないしなあ。)
泉坂まで戻ってきた綾とつかさは、近くの河原のベンチに腰掛けていた。
遠くで子供たちの声が聞こえる。
「それで、話って?」
「東城さん、答えづらいかもしれないけど、正直に答えてほしいの。」
「淳平くんの彼女になりたい?」
「え?」
「お願い、正直に答えて。」
つかさの目は真剣だった。
「そうだね、一緒に映画とか見に行って、終わった後映画の話して、そうしたら楽しいだろうね。」
「じゃあ」
「でもね、それは楽しいかもしれないけど、今、真中くんと一緒に映画を作っている時間に比べたらたいしたことじゃないの。」
「高校の頃も映画を作ってたけど、あの頃はただ真中くんのために手伝っていた。」
「でも、今はちがう。もちろん真中くんと映画を作るのは楽しい。
真中くんと一緒だと、自分の中から新しいものがどんどん生まれてる気がする。
でもそれだけじゃなくて、大勢の人が映画の完成に向けてエネルギーを注いでいるのがものすごく気持ちいいの。あたしもその中の一人なんだと思うと、すごく感動する。」
「だから、今のあたしは恋をしている暇もないし、恋にエネルギーを回している余裕もないかな。」
「それに今の真中くんとは、お互い気をつかうようなところがなくなってるし、前に西野さんが見たような口論を平気でするし、高校の頃のような雰囲気なんて全くなくなっちゃったかな。」
つかさは、黙って聞いていた。
「そっか、今は大事な友達みたいなもんなんだね」
「うん、でもどうしたの? 急にこんなこと聞くなんて」
「ううん、別にたいしたことじゃないの。」
(やっぱり、あたしが自分で決めないといけないんだ。)
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