夢紡ぐ糸 第9話 友達として - hira
様
映画は完成し、試写会での評判はすごかった。
つかさは、二人にお祝いしたいと言って鶴屋に連れて行った。
「あたし、東城さんの原作の一作目も見たけど、あれよりも全然感動した!」
そう言って、3人で夢中で試写会の話を続けていた。
それから、つかさが次の映画のことを聞いてきた。
「ねえ、次の映画も二人でつくるんでしょ。」
「う〜ん、そのつもりではあるんだけど、具体的になるのは今の映画の結果が出てからだな。」
「きっとすごい人気が出るよ。試写会の評判もすごくよかったんだから。」
「うん、あたしもそう思う。きっとまた二人で作れるよ。」
つかさと綾は、自信満々に答えている。
そして、つかさがもう一言付け加えた。
「これからもあたし応援するね、2人のことを・・・・・2人の友達として。」
淳平と綾は一瞬、つかさがなんと言ったのか理解出来なかった。
数瞬の沈黙の後。
「な!、何いってんだよ、つかさ。」
「そうよ、急にどうしたの?」
そして、つかさはゆっくりと話し始めた。
「2人が映画を作り始めてしばらくしてから、よく同じような夢を見るの。」
「淳平くんと東城さんが、並んで長い階段を上っていく夢」
「2人はずっと上を見上げて歩いてて、あたしは淳平くんを追いかけようとするけど追いかけられない。
あたしは階段に乗っていなくて、遠くから見ていることしか出来ない。」
「最近、わかり始めたんだよね、淳平くんと東城さんはものすごく大きな夢を持っていて、それに向かって歩いているんだって。」
「確かに、東城とは一緒に目指してる夢があるけど、それはつかさに対する気持ちとは全然違うんだ。おれが好きなのは、つかさなんだから。」
淳平は、必死で自分の気持ちを伝えようとしていた。
「うん、淳平くんの恋人はあたし、でも、淳平くんと東城さんの絆の強さを考えると、恋人のあたしと淳平くんの絆がどれだけちっぽけなものか、思い知らされる。」
「それは、2人が映画を作り始めたときから漠然と感じていたけど、2人の相性が100%ってわかってから確信した。」
「「えっ」」同時に驚く2人。
「・・・・、その様子だと、2人とも知ってるみたいだね。」
「いや、それよりもなんでつかさが・・・」
「あたしが知ってる理由?」
「ああ」
「外村くんに頼んで調べてもらったら、泉坂高校の文化祭で100%だったカップルの番号は淳平くんの番号だった。」
「でも、それだけだと相手はわからないでしょう。あたしは自分の番号知らないし。」
「今の2人を知ってる人間ならみんな同じ答えを出すよ。淳平くんと相性100%の相手なんて東城さんしかいないって。」
2人は、なにも言えなかった。
「あたしが淳平くんを好きな気持ちは変わらない。だからこのまま恋人のままでいることも考えた。
でも、いつか淳平くんがその夢を叶えたとき、一緒に喜びを分かち合えるのはあたしじゃなくて、東城さんなんだよね。」
「もし、淳平くんが一人でその夢を追いかけてるなら、恋人として、夢を追う淳平くんを支えたいと思う。
それなら、淳平くんが夢を叶えた時、あたしは淳平くんと一緒に喜びを分かち合える。
でも、淳平くんの夢を支えられる人は別にいる。
互いに支え合うことが出来る人が・・・。
恋人のあたしが支える必要なんかない。
淳平くんと東城さんなら、互いを支え合って夢に向かってずっと歩いていける。
そうなったら、いつか夢を叶えた時、あたしは素直に喜べないと思う。」
「それなら、恋人じゃなく友達として2人の夢を応援しようって思った。」
「「「・・・・・」」」
「日暮さんがさ、来月からまたフランスへ行くことになってて、それにあたしも一緒に行かせてもらおうかなって思ってる。」
「期間は半年から長くて1年。だから、今度帰ってくるときは、友達として再会しよう。」
そう言ったつかさは、笑顔だった。
しかし、淳平にはわかっていた。そして、気付いてしまった。
「俺、つかさの笑っている顔が一番好きだ。でも・・、もう恋人としての俺の前で本当の笑顔を見せてくれることはないんだな・・・。」
「・・・うん」
淳平のとなりで綾は目に涙をためていた。
つかさは、かたづけがあるからと、淳平と綾を先に帰らせていた。
厨房で、かたづけをしていると、不意に扉が開く音がした。
「日暮さん?」
「ああ、淳平から電話があってな、つかさくんがひとりでかたづけをしているが大変そうだから手伝ってくれって、つかさくん、泣いてるのか?」
「い、いえなんでも」
(もう、淳平くん最後までやさしいんだから)
「なにかあったのか。」
「・・・、少し話を聞いてもらえますか。」
今日、あたしは自分の恋を終わらせた。それは、今のあたしにとってつらいことではあったけど、いつか2人が夢を叶えた時、この決意が正しかったと言える日が来ると思う。
だからそれまで、2人が紡いでいく夢を応援する。それが、あたしにとって新しい幸せをつかむことにつながると思うから。
西野の幸せ。end