夢紡ぐ糸 第6話 夢の到達点 - hira 様




日曜日、淳平と綾は事務所の会議室で残りの撮影について打ち合わせをしていた。

ふいに、会議室の外が騒がしくなる。

「なんだ?」

「ちなみちゃんの声みたいね。」

端本ちなみは、この映画で女優デビューすることになった。

それほど出番が多いわけではないが、十分に役をこなしていた。

やがて、外の喧騒もピタリと止んだが二人はそれに気づかずに打ち合わせに集中していた。


「これで、後は撮影を完了させるだけだな。」

「そうだね」

「しかし、東城が随分協力してくれたおかげで、本当に助かってるよ。
撮影のスケジュールもそんなに遅れてないし、撮影が進むにつれてどんどん映画がよくなっている気がする。」

「東城と話してると、どんどんイメージが膨らんでいっている。東城に引っ張られているような気がするんだよな。」

「それは、あたしも同じ、真中くんと話してると自分の中でどんどん新しいものが生まれてる気がしてる。」

「きっと、お互いの才能を引き出しあってるんだよ。」

「俺が東城の才能を引き出してるなんて、ちょっと信じられない気もするけど、東城がそう言うならそうなんだろうな」

「でも、中学の時の真中くんのあの言葉がなかったら、あたし自分の小説を人に見せるなんて一生なかったよ。」

「中学かあ、ほんとあの頃に比べたら、東城も随分変わったよな。」

「それもこれも、真中くんとの出会いが全ての始まりだからね。」

「ああ、俺もあのときの出会いから、自分の人生が大きく変わったからなあ、あまり思い出したくないこともあるけど。」

「ふふ、そうだよね。あたしはあの頃一方的な片思いだったからまだましだけど、さつきさんと西野さんは随分振り回されてたみたいだもんね。」

「うう、それ言われると耳が痛い。」

「ふふ」 「はは」

二人は笑いながら会議室を出た。

「あれ、だれもいない。」

「そう言えば、途中から静かになってたね、もしかしてみんなちなみちゃんと出かけたんじゃない?」

「たく、ちなみちゃんも相変わらずだな。」

そう言って、淳平は携帯を取り出して、電話をかけた。

「もしもし、真中ですけど・・ ちなみちゃんもみんなも一緒ですか。それで、事務所には?・・はい、わかりました。戸締まりして俺たちもあがります。」

「東城、俺片付けと戸締まりして帰るけどって、東城、どうかした?」

綾は、一台のパソコンの前でモニタを見ていた。

「これ、ラブサンクチュアリだね。」

「ああ、なるほどちなみちゃん相手にみんなして占っていたのか。」

「ねえ、あたしたちもしてみない?」

「え、東城とか?」

「うん、最近は仕事の相性とかにも利用されているって聞いたことがあるよ」

「そっか、おもしろそうだな」

二人は、パソコンにそれぞれ自分のパーソナルデータを入力した。








しばらくして結果が表示される。

『お二人の相性度は・・・100%です。』

「「・・・」」

「100%って・・・はは、ちょっとすごいな」

「うん、でも・・あ、この雑誌。」

綾は、近くにあった週刊誌を手にとってページをめくる。

「あった。」

「どうかした?」

「うん、これを見て。」

そこには、ラブサンクチュアリのプログラムを作った人の記事が載っていた。

そして、相性度100%は最初に泉坂高校の文化祭の時に一組だけいたが、そのカップルは参加しなかったという。

そして、今は90%以上のカップルには連絡をもらってお祝いの品を進呈しているが、未だ100%のカップルからの連絡はないということだった。

「この一組って・・」

「間違いなく、俺たちのことだろうな。」

「「・・・・・」」

「なあ、東城・・」

「うん、わかってる、これは二人だけの秘密だね。」

「悪い。」

「真中くんが謝ることないよ、今のあたしたちでこんなのが世の中にでたら大変な騒ぎだもん。映画の宣伝としてはすごいだろうけど、
プライベート面でちょっと、お互いまずいことになりそうだから。」

「え?東城も?」

「そうよ、こんなの知れ渡ったら、彼氏なんて絶対出来ないよ。それでも言い寄ってくるのは、自信過剰なタイプばっかりだろうし、今でも割とそうなんだけど」

「そっか、それもそうだよな。でも、さっき二人で話してたこともそうだし、
俺、高校の時から感じてた。東城と一緒ならなんだって出来る気がしてた。
この結果見てると、ああやっぱりそうなんだなって納得出来る。」

「うん、それに、あたしたちの遠い夢もこの結果見てるとすごく勇気づけられる気がする。」

「はは、確かにな、考えてみればとても到達出来そうにないような夢だったからなあ。でも俺も同じ気持ち、これを見てると、もしかすると到達できるんじゃないかって思い始めてる。」

「まだまだ、道は長いけどな」

「うん、これからも一緒に映画を作っていこう、あの夢につなげるために。」

「ああ、もちろん!」







あたしたちの、夢の到達点はそのゴールすら見えなかった。

でも、今ゴールが見えた気がする。

見えているゴールは、まだ遙か彼方だけど、それでも、ゴールが見えたことは、あたしたちにとって大きな一歩だと思う。

あたしたちはそれに向かって歩き続ける。二人の夢を紡ぎながら。


東城の幸せ。end





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