夢紡ぐ糸 第5話 強くなること -
hira 様
そして、クランクアップまで、後一ヶ月余りとなったころ。
鶴屋定休日、淳平から撮影場所を聞いていたつかさは、差し入れを持って行った。
スタジオに着いて早々、
「だから! そうじゃないだろ!」
(な、なに?)
「でも! それじゃ不自然すぎるよ!」
(淳平くんと東城さん?)
二人はすごい声で、言い争っていた。
淳平が怒っているのも珍しいが、綾のあんな面はつかさは見るのが初めてだった。
「あの〜、大丈夫なんですか?」 つかさは、近くのスタッフに尋ねた。
「大丈夫、大丈夫、時々あるけど大抵監督のほうが言い負かされるから」
しばらくすると、淳平と綾はふつうに話していた。
「あたし、びっくりしちゃった。淳平くんと東城さんがケンカしてるなんて」
「初めて口論しているときは夢中で気づかなかったけど、後から思い出すとちょっとショックだったというか、高校時代の東城からは想像もできないもんな」
綾は、少し恥ずかしいのか、頬を赤く染めながら、話した。
「普段、ほとんど声を荒げることはないんだけど、映画のことになるとついね。真中くんも妙に頑固なときがあるから。」
「大抵は、監督の方が降参するんですよね。」とスタッフの一人が口を挟む。
「しょうがないだろ、結局東城のほうが正しいんだから。」
「途中で、自分の間違いを正せるのはいいんだけど、もうちょっと早く気づいてほしいな。 結構、諭すのも大変なんだから。」
そういって、綾は淳平に笑顔を向けた。
「う、・・・努力します」 淳平は素直に反省した。
撮影が予定通りに進み、淳平とつかさは帰途についた。
「ねえ、東城さんってだいぶ変わった?」
「うーん、普段の東城はそれほど変わってないと思うけど、映画のこととなると、だいぶ積極的になったな。」
「映像研究部の活動の時は? 今ほどじゃなかったの?」
「そうだな、高校の頃は映画の撮影であまり口を挟むようなことはしなかったな」
「高校卒業してからだろうな、いい意味で変わっていったのは。」
「実際、前に東城が言ってたよ、あの時自分は振られたけど今はそれでよかったと思うって」
「東城さんがそんなことを?」
「俺もそう思っている、4年間世界を旅して回った経験は、俺の大事な財産だからな。」
「もし、東城とつきあってたらあんな経験することはなかった。」
「そう・・」
(淳平くんも東城さんも、高校の頃と比べてものすごく変わってる。ううん、すごく強くなった。)
(あたしは、どうなんだろう、あの空港での別れの時、強くなるって決めたけど。)
(あたしは、強くなれたんだろうか。)
(それに、東城さんが変わったのは淳平くんのおかげ、そして淳平くんはあのバレンタインの時に変わったけど、そのきっかけになったのはやっぱり東城さんだった。)
(2人は、互いに影響しあっている、それは、仕事上のパートナーとしてもプラスに働いていると思う。)
(そう、今の2人の関係は仕事上の関係、あたしと淳平くんの関係とは違う。だから気にする必要は無いんだよね。)
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