夢紡ぐ糸 第2話 初恋  - hira 様





仕事が終わってから、淳平はパティスリー鶴屋にいた。

「淳平く〜ん」

「つかさ、お疲れ」

「淳平くんも、お仕事お疲れ」

「ああ、そういえば店の方ずいぶん込んでたけど、日暮さん帰ってきてるのか」

「うん、日暮さんもまだ独身だからね。相変わらず女の人に人気みたい。」

「ふ〜ん」



「そういえばさ、選考会の結果、どうなった?」

「採用された。」

「やったー、これで監督デビューだねって、どうしたの?あまりうれしそうじゃないけど」

「う〜ん、今回応募したメンバーってみんな一度くらいは監督の経験がある先輩たちばっかだったんだよな」

「自分が選ばれたのがちょっと信じられないっていうか」

「きっと、淳平くんには才能があるんだよ」

「でも、今でも角倉さんの作品には全然及ばないって気がしてるんだけど。」

「こら!淳平!」

「はい!って、わかってるよ。決まった以上は全力を出す!」

「うん、よろしい」

「脚本も東城が書いてくれるらしいし、がんばらなきゃな。」

「東城さんが?」

「うん、だいぶ前からそのつもりだったらしくて、スケジュールとかかなり調整したらしいぜ」

「ふ〜ん」

「なんて顔してんだよ、大丈夫、俺が好きなのはつかさなんだからな。」

「うん」







綾を含めた映画の打ち合わせが終了して、スタッフが解散していく。

「真中くん」

「東城」

「あとで、駅前のファミレスでも会えないかな、ちょっと相談したいことがあるんだけど」

「仕事と関係ないこと?」

「うん、ちょっと」

「いいよ、30分ぐらいかかると思うけど。」

「うん、それじゃ後でね」



「ごめん東城、待った?

「ううん、だいじょうぶ」

「えと、コーヒーお願いします」

淳平はすぐに注文を出した。

「それで、相談ってなに?」

「うん、まずはこれを読んでみてくれる」

「これって、次の小説?」

「うん、まだちょっと途中なんだけど」



読み進めていく淳平。

(へえ、相変わらずいいもの書くよな)

(でも、この話読んでると、あの時のことが思い出されてくるような)

(まさか、それに絡めて書いてるわけないと思うけど。)



「相変わらず、いいよな東城の小説。 それで?、この先の展開で悩んでるの?」

「ううん、そうじゃないんだけど。この話で主人公の健一が、初恋の香の告白を断るところがあるよね」

「あ、ああ」

「あたし、これ書いてて思い出したんだけど、真中くんあたしの告白のとき
「今は西野を大切にしたい」って言ったよね、あのときの今はって
 どういう意味だったのか教えてほしいの。」

「!」

「もちろん、いまさら真中くんにもう一度告白するとかじゃないから」

「ただ、どうしても気になって・・・」

「・・・」

「・・・」

(もうこれ以上、隠してても意味ないか)

淳平は、覚悟を決めて話すことにした。

「俺が初めて好きになった女の子は、屋上で空から降ってきた女の子だった。」

「でも、おれはその子が東城だって長いこと気づかなかった。」

「え、でもノート拾ってくれたのに?」

「はは、最初にノートを返しに行った時に、会う前は期待してたんだけど、
会った瞬間、「こんな地味な子があの子のわけない」って思ったんだよ。」

「そっか、よくいわれるもんね、とても同一人物に見えないって」

「それで、小宮山や大草から「そんだけかわいいなら絶対西野つかさだ」って言われてね。」

「それでおれもそう思いこんで、西野に告白したんだよな」

「え〜、最初は人違いだったの?」

「うん、しかも告白したすぐ後に東城、近く走り抜けていったろ、それで人違いってすぐわかったんだけど」

「それと、もう一人気になる女の子ができた。」

「その子は、おさげに黒縁めがねをかけた地味な女の子だった。」

「え、」

「一目惚れした女の子と、次第に惹かれていった女の子が同じだと知ったのは泉坂高校の入試の時、でも、結局最後までその子に告白する勇気も持てず、
その子の気持ちを確かめることもなく俺は、次の恋を始めてしまった。」

「・・・そっか、お互いに後一歩踏み出す勇気がなかったんだね。」

「東城・・」

「うん、ちょっとスッキリした。真中くんがあたしを好きでいた頃があったのもうれしいし、高校の頃の宝物が一つ増えたみたい」

綾は晴々した笑顔を見せていた。

「今書いてる小説の続きね、香は遠くへ引っ越すんだけど、その前に健一に別れの手紙を出すの、それを読んで、健一が大泣きする話に持って行こうと思ってるんだけど・・」

「真中くんも、つらかった?」

「ああ、あの雪の日に東城と別れた後、ずいぶん泣いてたな。」

「そっか・・ありがとう、それだけ聞けたらもう十分。」

「ふう、俺もなんかつっかえがとれた気がする。」

「ふふ」

「はは」

それから、しばらくの間俺たちは昔話に花を咲かせていた。



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