オリジナルSF 全年齢対象『夢のあとさき』1 - たゆ管理人   


夢のあとさきよ
終りなき夢よ
まどろむ旅人もいつかは家路に着くだろう
美しき夢も景色を変え
何の変哲もない日常へと帰還する

ぐったりとした身体を持ち上げ、耳鳴りのする頭を支えながら台所へ向う。
今日も晴天、
今日も仕事、
うんざりする。

寝起きの動悸がする胸を押えつつ、ご飯をよそって簡単に昨日の残りの汁かけご飯にする。

ずぞぞっ

すすりながら上目遣いで時計を見るといつもの時間。
日曜の早朝、寝静まっている家を後にする。

今朝見た夢の不思議に囚われてたのはほんの一瞬で、
現実のくだらなさを打ち負かすのには遠かった。
家に着くのはこれから十二時間後、
それまで安らぎも癒しもない灼熱の路面の上で立ち続ける。
今日も明日も繰返される他愛のない日々
癒しの手はもうない、忙殺された刻だけが身体を動かしている。

夢、夢。
甘露であるほど覚めてみる落差に心重く響く。

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『私』は短い休暇を終え職場へむかう準備をしていた。

簡単に髪を整えるとコンソールパネルを軽くタッチする。
それだけで「巣」から職場に設置してあるデスクルームカプセルへとエアダクトで高速で移動できるのだ。
部屋は文字通り、蜂の「巣」状の部屋を重ねて一つのコロニーになっている。
通勤時間はほぼゼロといって良いだろう、
これが「a worker bee-働き蜂-」と呼ばれる『私』達の生活なのだ。

たちどころにカプセルへ自分がセッティングされる。
透明なそこから隣を見ると同僚のジョインが既に出社していた。
挨拶代わりに笑いかけると、ちりちり髪にビンテージ物の眼鏡(レンズも本物をつけているから瞳が小さく見える)の、おかしな風体の男が笑う。

ニヤリ

口の端を上げている。
微笑んだつもりだろうがねっとりとした笑い方だ。
この男が隣接する「巣」にいるとは正直思いたくなかった。


デスクに目を戻すと目の前にあるのは薄っぺらな画面で色とりどりのグラフが映し出されている。
娯楽用の立体映像を写すものではないそれを真剣に見詰めると、ペンを取り出し画面に書き込んでいく。
仕事とはこの船を維持する為のほんの僅かな行為でしか過ぎない。
リアルタイムで次々と色がうねっている。
チェック漏れがないようにリターンとリロードを繰り返し直接画面に訂正していく。

繰返される日常。
楽しみはこの拘束の後に行くカーゴ・ベイだろうか?
それさえも最早マンネリかもしれない。

上司とは『私』たち蜂のメンタルケアを主としている、窮屈な日々に鬱積しないように管理しているのだ。

「メモリーホールはどうだった?」

カプセルがいきなり開き、ブルネットの髪を後に束ねたメリンダ・ソッシが微笑む。
髪と同じ褐色の肌もなめらかで、身体にフィットしたスーツが柔らかな盛りあがりを際立たせている。
実際彼女はスポーツ大会で優秀な部類なのだ、引き締まった身体を誇らしく思っているのだろう。
屈託のない笑みに癒されるものも多い、それゆえに蜂達の上司なのだろう。
艶やかに濡れている唇は少し厚みがあり、きっと触れるものを包み込んでくるに違いない、
そう思わせる唇が疎い蜂達に指示をする。
効果はてき面であった。

「ええ、とても勉強になりました、出会いもありましたし」

差しさわりのない会話をする。
唇を見詰めながら、多分鼻の下も伸びてるだろう・・・。

「見識を広めるのは良い事ですわ、出会いが人を大きくさせますもの」
「でも、身体も鍛えれば言う事なしですね、スポーツジムを勧めますわ」

にこっと微笑むと立ち去った、いい香りがするカプセルを閉めると男の『私』のにおいに混ざってバラの香りが漂っている。
思い切り深呼吸するとニヤニヤ隣から覗かれている。

このジョインめ!

自分も負けないほどにやけてる顔を戻そうと慌てて頬をマッサージした。
退社時間まで後カウント0230・・・まだ拘束時間はたっぷりあった・・・。


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