オリジナルSF 全年齢対象『夢のあとさき』2 - たゆ管理人   


無数の光が交差し、無明の世界を行きかう。
早送りのそれは時間軸も空間も無視した光景だ。
人が見てはならない景色だろう、星が生まれ死にゆく姿は虚空の世界に光と闇を繰り返し、激しく点滅するシグナルのようだ。

光の渦
闇の誕生

この世のもの全てを記憶し過去も未来も集められているアルカイックレコードが存在するなら、今ここで見ているものがそうなのかもしれない。
星の死はすなわち星の上で誕生した生命の死。

無数のシグナル
那由他(なゆた)一〇の七二乗よりも多い生と死

それが光と闇の世界を創りその中のほんの一かけらの僅かな時間が「わたし」に与えられたものだ。
それと似た世界をつい先日見たのだと意識の端に思い出す。
否、その時に今見ている光景を思い出したのかもしれない。
時間も存在も空ろなのだ、曖昧なまま思考は漂う。
ある思い出にたどり着く。

おぼろな光が点滅する夏の川辺。
入滅と再生。
それを繰返してると思いながら子供の手を引いていた。
蛍を取ろうと川に降りたがる子供たちに手を引かれ、葦原へと入る。
かがめば街頭の光さえも遠い闇。
あるのは目の前のあえかな光の歓喜。

数匹の小柄なヘイケボタルが虫かごに入れられ帰途に着く。
夏の光の宴もこれで今年は終わりだ、日常に追いかけられた「わたし」にはこのひと時に全てをかけた虫達が羨ましい。
生きることは見易い。
生き続けることは為り難し。
振り返ることのできない日常へ還っていく。

心彷徨い夢現に、現実も何もかも・・・カオスのなかに「わたし」はいた。
何故・・・なぜ・・・心の疑問を捕まえて頼りない意識を取り戻す。

遠くで呼ばれたような気がした・・・。

**********************************************************

『私』は仕事という名の拘束時間を終え、カプセルからの帰宅ではなく歩いて退社することにした。
隣の男ジョインは一瞬で自分の巣へ帰宅して行った。

職場のコロニーを後にしてカーゴ・ベイへ行く。
部屋に帰ってから外出してもよかったが、ジョインのニヤケ面を頭から追い出すまで戻りたくなかった。
ベイ(港)と言うが外に開かれているのはない、アクシデント時に宇宙へ放り出されれば空にいけるぐらいだろう。
そんな恐ろしい事が過去に幾度とあり、この街の特徴としていまや当たり前の出来事であり、故に棄民の街となっている。
名の通った職業の奴等は寄り道の場所には決して選ばない、区画整理された区間と違いバラック立ての家が重なる貧民窟だ。

ここは何でもそろう、ご禁制など百も承知の品が当たり前に並んでいる。
瞬時にハーレムの王様気分にしてくれるクール系やダウン系は当たり前、様々な趣味に答えてくれるsexyドールたちは店の前で客を寄せ、本物の人間の赤ん坊まで売れている・・・人工培養の蜂たちとは違うのだ・・・『船』の壁を幾層もブチ開け空へ放出しそうな過重力反転機は、掌サイズで蜂の月収一か月分にしか満たない。
特に蜂たちが目を奪われるのは、持ち前のPCをグレードアップするのに必要なクロニクルチップと、腹の突き出た上層部の親父たちの鼻を開かすのに必要なホログラフィーゲートのパスなどだ。
通路を幾度も曲がり直通の道はないこの街の入り口が見えた。
『船』側の分厚い装甲と街側の狭いゲートを潜り抜けやっとカーゴ・ベイ『積荷の港』にやっと着く。
生命維持装置類はここまで届いてはいない、そのかわりと言ってはなんだが無法地帯だ、保安機関が一切立ち入らないそこは独立した街で独特の法律、ギルド制で維持され成り立っている。
そのお陰で禁断の葉巻やタバコもいける、勿論この街特製のあやしい粉(廃品より精製したアルカロイド系)をふりかけてるものばかりなのだが、危険を顧みない馬鹿どもは店の前で早速待ちきれずに座り込んで極めている。

廃人達を尻目に行きつけの店『AKIBA』へ向う、ジョインに見透かされた気持ちを静めようと、他人がホログラフィーでお楽しみのところをのぞいてやろうと思ったのだ。
いい趣味とは言わないが上層部の奴等と言えども一皮剥けばオスとメスでしかない、日頃の鬱憤をこれで晴らしているのだ。
店の軋む扉を開けるといつもの顔がカウンターにあった、シワクチャのそれは昔、女であったらしい・・・詳しい過去は知らないが、今では蜂たちの必要なものは全てそろえることができる有能な店主であった。
『船』で仕事ができないと判断されればサナトリウム行きなのだ。
どんな犯罪者でも正気ではいられない過酷な場所より、ここの方が数倍居心地がいいのだろう、老婆はクシャクシャと笑い手招きした。

時間はカウント1900・・・魔の時が迫ろうとは誰も知らない。