第四章

pulsac'a~o (胸の鼓動)




冷たいタイルの上に熱い身体を横たえ、力いっぱい抱きしめられ恍惚の表情のつかさ。
瞳からこぼれる感情の雨は傍らにいる真中の頬も濡らし、二人の心に染み込んでいく。
絡めあう足をほどく様に腰を浮かせると、真中の身体はつかさの脚の真ん中に腰を落とす。
しとどに濡れたそれに自らを押し当てる。
「・・・んっ」
つかさは敏感になった自分の中心に、先程の真中の舌先より硬く大きなものが押し付けられているのに気付く。
はあっと大きな溜息と同時に真中はゆっくりと腰を静める。
強い圧迫感につかさは思わず見てしまう。
視線は一つに繋がるところからはなれない。
真中の腰が大きく開いた脚を固定し、手を使わずそそり立つものが股間を押し分け深く入ろうとしていた。
(淳平くんがくる・・・もう一度一つになる・・・)
浅くめり込む。
鈍痛とギリギリと肉を引き裂く痛みがはしる。
出血の止まりかけたそこから血が滲む。
(きて、きてほしいよ・・・すき、大好きだよう・・・あああ)
言葉にならない想いと裏腹にぐっと身体が硬直する。
(西野のあそこ真っ赤になってる、痛くないんだろうか?痛いよなあ・・・どう見ても怪我だよコレは・・・)
躊躇していると透き通った瞳が心配そうに見詰めていた。
「や、やめようか」
渇いた喉を鳴らし精一杯の理性を総動員する。今なら何とかやめられる、これ以上傷付けたくはなかった。
「淳平くん、ふふ、なに困ってるの、いいんだよ」
いつもと変らぬ微笑が真中を向かえる。
「でもさあ、痛いだろ」
つかさはそっと抱き寄せ耳打ちする。
「好きだよ・・・淳平くん・・・」
眉を寄せ誰にも見せた事のない顔に、瞳の端には溢れそうになった光の粒がある。
「俺もだよ、だ、だからさあ」
つかさの想いの深さに気付いたのだ。それ故にためらい、言葉通りに腰が引ける。
「一つになりたい、それが理由じゃダメ?」
ごくり
喉のなる音が響く。
眩暈のする言葉を呟かれ理性が消失する。否、覚悟を決めたのだ。
抱かない理由などない、あるのは目の前のいとしい人と一つになること、それだけだ。
「・・・西野・・・いくよ」
「うん」
こくり
頷くつかさは何も隠してなかった。真中にストレートに素の自分を見せている。


自然と手を繋ぎ指も腕も絡めあう。
この時が永遠ならいいのにとつかさは願った。


慎重に耐えうるかぎりの遅さで腰を沈める。
かさが開いたように大きくなったそれは、狭い難関を容易に突き抜けない。
ゆっくりとつかさの花弁が開いてゆく。
「・・・はいってくる・・・淳平くんが・・・あっ」
つかさの言葉に、過剰に反応した真中自身が目測をはずれへそを打つ。
めくれた花弁が抜けてしまったそれを求め魅惑的に蠢く。
「あっご、ごめん。ぬけちゃった。も、もう一度入れるよ」
かなり恥ずかしい。失態と過剰に反応してへそへ食いついているそれも。
しかし、全身を紅に染めて自分を受け入れようと、懸命なつかさに胸の鼓動は高鳴る。
下に向けただけで折れそうなほど、ガチガチに硬くなった自身を強引に押し下げ狙いを定める。
ぐっぐっと腕立て伏せのような姿勢で前後にゆすると粘った水音がする。
ちゅぷっくちゅっ
(こんなに濡れてるなら大丈夫だよな)
少しピンクに染まっている粘液だが受け入れることに支障はないと言い訳する。
言い聞かせないとそれこそ落ち込みそうだった。身体の猛々しさとは別に。


一気に埋没するまで力を緩めず腰を落とす。
肉圧に押し戻される、強い押し返しにますます反り立つ。
「あ、くぅうう、きつい・・・西野・・・」
「・・・んんん、もういっぱいだよう・・・はああ、じゅん、ぺい・・・くん」
つかさは真中に腹腔を押し上げられ息苦しいのか呼吸が浅く速くなる。
ビクつく真中に反応して呼吸が一瞬詰まってしまう。
「ああ・・・はあ、はあっ、んくうううっ、うぁああ、はあはあ・・・」
息絶え絶えに耐えるつかさ。
(いつイってもおかしくないや・・・西野のなか、気持ち良すぎるよ)
腰がだるく感じ血液が一箇所に集中する。真中も意識も一点へ凝縮する。
「まだ全部じゃないよ・・・いく・・・よ」
自身を根元まで深く打ち込む。
「うう・・・ぜんぶ、は、入った」
「・・・ふっくうんんん、淳平くん、はぁああ・・・」
限界はとうに超えていた。
ぬめりが鮮血色に染まっていく、再び裂けたのだと激しい痛みがつかさに告げる。
しかし、体内ではっきりと感じる真中が愛しい。
痛みさえも、だからこそ痛みゆえに自身の所在と存在の確認ができ嬉しくなる。
求めてやまなかった人への想いで溢れる。
(君に溺れる・・・)
言葉のない世界がつかさを待っていた。


ゆっくりと輸送を開始する。
「ぐうっ、はっぁああっ、くっ」
どちらともつかぬ息詰まった声が喉を通る。
自我を失い獣のような呻き声が出る。
ゆっくりしたリズムだった行為も激しさを増し、息継ぐ暇もないほど攻め立てられる。
ぎゅっと愛しい男の背を掴み、揺さぶられる意識を保とうと耐える。
しかし、自意識よりもつながりあった喜びが勝り、もっと受け入れたいと求め脚を腰に絡める。
「はうっ、あ、あ、あんんっ」
身体の内側から押し上げられているのだ、その都切ない声が吐息とともに出てしまう。
奥底の限界を越え腹の奥まで貫かれる。
「はっ、あっ、はうっ、あううっ」
パンパンパンパンパン
肉と肉のはぜる音が聞こえ浴室を満たす。
怒気したものがつかさをごりごり内側から押し上げ拡張し、飲み込んだ男の形にぴったりと合わさる。
充血した花弁は打ち付ける男の股間を受け止める為に大きく開く。
翠玉の瞳は固く閉じられ、端から光の粒が走る。
「じゅんぺいくん・・・あああ・・・」
吐息混じりに呼ぶ声はつかさの体内と同じく熱く、真中の耳と自身を溶かすのではと思うほどであった。
「にしの、にしのっ、いいよ、気持ちいい、くっ」
腰が止まらない。かくかくと自然に輸送してしまう。
二人の間には何も無い、痛覚と歓喜以外は。


麻薬のようなそれに引き摺られ真中は本能のまま自身を打ち込む。
抜けないようにと意識するあまり相手の肩を掴みに奥へ奥へと突き進む。
自分の下で膝と肩がつきそうなほどつかさの身体をくの字に屈曲させ、ほぼ真上から貫く。
真中の汗しぶきが高揚し染まったつかさの肌に降りかかっていく。
共に汗ばみ、明るいライトイエローからオークグリーンに髪の色は落ち着いて、頬に張り付いている。
激しく突き快感に酔いながらもつかさの顔にかかる髪をはらう。
紅色に染まる頬、薄目で視線をのばし切なく見詰めるつかさ。
(・・・すきだ・・・あんまり口にしたことないけど・・・言わなきゃ・・・言って伝えなきゃダメだ・・・)
「ああ、西野・・・好きだ、西野! 好きだ!」
つかさの瞳に涙溢れ、嗚咽が喉を塞ぐ。
「・・・じゅ・・・ふっううう、くん・・・」
身体を寄せあい隙間なく抱き合う、ぎゅっともうは離れることのないように。
無我の境地の中想うのはただ一人。
空気を求め開く口は、委ねた想いの大きさをうたう。
「ひいん、ひゅっう、はああ、あくぅう」
「ううっはああ、うお、ぐうううおおお」
肉を責める鈍い音とつがう二頭の獣の荒い息がバスルームに響く。
女の身体は上から尚激しく杭を穿たれ、冷たく固いタイルと男の熱い肉体に挟まれる。
柔らかなゴムマリのように身体を弾ませる。
いとおしく離れないようにしっかりと四肢を男の身体を掴む。
行為の激しさが抑えていたものの大きさを物語る。
「いくよ、でるっ、はっあうっ」
真中はギリギリの理性を働かせ抜こうと身体を離した。
が、絡みつく脚が腕が放れない。
「にしのでちゃう、はなして、うううっ」
つかさは固く閉じていた瞳を開くと真中の頭を抱き寄せ本心を告げる。
「いいよ・・・だいすき、じゅんぺいくん」
「いいっていうのは、それは・・・あっ」
間に合わない、搾り取られる快感に理性が飛んでゆく。


つかさは身体の底で最初の律動が始まるのを感じた。


一瞬身体を強張らせ、抜こうとしていたそれを再び強く密着させる。
意識せずとも腰が動く、奥で放出しようとつかさの恥骨を自らの恥骨が割るように。
つかさの花弁の上部にある、内側から押し上げられ飛び出た花芯が、真中に押しつぶされ無残な形に変形してしまう。
「ひん、ううっんん、も、もぅう・・・んあああ・・・・」
発射し始めると止まらない、制御されない放水ホースのようにのたうち続ける。
(うわぁああ、でてる、うはあ、まだとまらないっ気持ちいい)
「あっんんん、じゅん・・・ぺい、くん・・・」
体内で感じる真中の分身。喜びに震えるかさ自身。
本人の意図ではなくとも吸い込むように真中を誘い、搾るように手前から奥へ締め付ける。
身体に直接響く真中の鼓動。
二度とこの瞬間を失うような真似はしたくない、なりたくない。祈りに似てそれは深く強かった。
「ああああっあっあーっ」
びくびく震わせ顔をのけぞらせる。
白く細い首に筋を浮き立たせて苦悶にも似た表情でつかさは登りつめた。
「・・・にしの・・・にしの・・・」
二の腕に力を込めて抱き寄せる。
のけぞった頭がタイルに打ち付けないように、力が抜けていくつかさを支える。
全てを吐き出し、至高の一体感に真中自身も意識がホワイトアウトしていく。
(・・・ああ、これで一つに・・・なれたよな・・・)


曖昧模糊な世界へ向う。
そこには既につかさがいる。
愛しい人、かけがえのない人。
やさしく抱き合い、繋がりあったまま暫しまどろむ。
二つの鼓動は一つに、打ちあい響きあった。



第五章へ