第五章

Beija-flor 花にキスする小鳥(ハチドリ)




揺蕩う意識が戻り気付くと間近に真中の顔が見える。
心配そうに覗き込んでいる。
(大丈夫だよ、心配しないで)
言葉が出ない、語りかけようとした口は温かなもので塞がれていた。
「ん、うんん」
「・・・にしの」
再びキス。
軽く開いたつかさのそこに真中は積極的に自分を送り込む、深く甘い感触につかさの身体がぴくぴく反応し始める。
唇を離したのはつかさが再び脱力し始めた時だった、幾筋もの糸を引きながら離れるとつかさは口腔に溜まった真中を飲み込む。

ごくり
音を響かせて、
「・・・ん、はぁ・・・」
息継ぎさえままならない。

ぐっと抱き寄せられて冷たいタイルの上から人肌の上へ寄添う。
頭を軽く持ち上げ定まらない視線で真中を見つめる。
腕がしっかりとつかさを抱きしめる。

「「すき」」

どちらの言葉であろうか、どちらでも変らない想い。
胸の奥から込み上げる想いがここにある。



軽くかけ湯をすると真中はつかさを支えて湯船に共に入る。
汗とぬるい湯で光る身体は、なめらかなラインを惜しげもなく誇張し、
白い肌の薄桃色の胸の先端は、腰のふらつくつかさを支えてる真中の胸にふれる。

「さあ、足をいれて・・・よっと」
「あっきゃっ」
「ちゃんと支えてるから大丈夫、風呂場でこけたらシャレにならないもんな」
「ふふふ、淳平くん支えてね」
腕を首に回し、重心をゆっくりと預ける・・・湯船に浸かってゆく・・・ぬるいそれはほてりが残る身体に丁度良い。

ふーっ

同時に一息つく、西野家の大きめのバスタブに二人は重なり合い揺蕩う。

「西野、明日はバイト?」
「・・・うんバイト、淳平くんはあいてるの?」
「俺は大丈夫だけど・・・バイトなら早く寝ないと、体が持たないよ」
「私は平気、ずっとこうしていたいかな・・・」
「それでも数時間で夜があけちゃうからな、仮眠はしなきゃ」
「うん・・・でもね・・・今ね、足に力はいらないの・・・お風呂も自分じゃあがれないの・・・」
とても照れくさそうに頬を染めてつかさは言う、そこまで上り詰めさせたのだと真中は嬉しくなった。
「なんだ、そんなことかあ、よーしっ、首につかまって、いくよ、よっこいしょっと」
「きゃあっ、淳平くん力持ち、すごい」
自分には出来ない仕草に男らしさを感じる。
「そうでもないよ、西野が軽いから」
「淳平くん、だいすき・・・ん、ふぁ・・・」
「・・・んん、あぁ、キスとまらないや・・・早くあがろう・・・」
真中は湯船からつかさを抱き上げ、脱衣所に向った。


壁につかさを預け大切なものを磨くように、髪を、指の間を、バストのアンダーラインを、
そして淡い茂みのヘアを、壊れ物を扱うように拭いていく。
今まで繋がっていたそこに軽くキスをする。
(きれいだなあ、光っててほんと、きれいだ)
「あん、だめ・・・そんなことしたらまた・・・」
「また? 何がまたなのかな〜」
抱いたことで余裕が生まれ、つかさを喜ばせたい気持ちになる。
「淳平くんの意地悪・・・」
軽く足を開いたつかさの間に真中は陣取り、見上げるように秘所を見ている。
(淳平くんに見られてる、恥ずかしい。内まで見られちゃうよ。)
「ふいても・・・ふいても・・・ぬれてるよ・・・」
「明るいところで・・・見ちゃダメ、そんなことしたらもう・・・」
「もう、どうなるの? 教えて西野、こうしたら・・・もっと・・・」
(西野がどんどんかわいくなる、元からかわいいけど、もっと夢中にさせたい)
ふだん強気なつかさが見せる弱みに真中は知らずにはまっていく。

指でなぞると『くちゅっ』っと粘液の音がした。

高揚したピンク色の襞を左右に開く、内まで見ようと顔を近づけた。
つかさの身体の奥から、とろりとした透明な粘液が指を伝って落ちる。
堪らなくなった真中は舌を突き出し秘裂を割るように浅く舌先を入れ軽くほじる。
「ひゃあ・・・またいっちゃう・・・」
つかさの身体もそれに応えてとろとろと内股を伝うほど溢れてきた。
にじむ愛液を舌全体を使って舐め取るが追いつかない、
直接口を当てじゅるじゅると吸い始めた。
「あっ倒れちゃう・・・あっ・・・あーっ・・・」
真中の頭を両手で押さえ何とか倒れないようになった。
丁度それは押し付ける形になり更に刺激が増していくのだった。
「・・・んっくうっ・・・ううっ・・・」
(いかせたい・・・確かここだったかな?)
腰をしっかり支えて秘裂の始まりにある肉の花芯を舌先でつつく。
そして花芯をグリグリと押し付ける様に上下する。
次第にピッチは激しくなり粘液の音も激しくびちゃびちゃと脱衣所に響く。
真中は太ももに顔を押さえ込まれながら、つかさのガクガク震えるヒザと腰を支えた。
「あっ・・・はぁんっだめぇ、もう・・・ああっ・・・あああっ・・・っ・・・」
糸の切れた身体を支え愛しい人のとろけた顔を覗きこむ。
つかさの荒い息が顔にかかる、視線は定まらない。
「・・・はあ・・・はあ・・・」
「気持ちよかった?ベットに行こうか・・・つづきしよ・・・」
「・・・うん・・・」
真中は花嫁を抱き上げるようにつかさを抱きかかえると無言のまま二階の寝室へと向った。
壊れやすく大切なものを扱うように慎重に慎重に運んだ。



夏の夜、
噴出す汗が肌を伝う。
水の中を泳ぐ魚の様にぬめる肌、甘酸っぱい汗のにおいが鼻腔をくすぐる。
つかさがタオルを掴み玉の雫の汗を拭いていく。
目が合えば唇を重ねる、肌が触れれば求める。
手探りの真似事から大人の性交へと二人の行為は変化していった。
クーラーを効かせた部屋で組み敷いたつかさに汗をしとどに降らせ、
艶のある声と激しいリズムで肉の弾ける音が部屋を満たす。

この夜、真中は精一杯の自分を可能な限りつかさにそそぎ込んだ。
それは幾度にも分けて送りこまれ、つかさを真中の形に変えてしまった。
つかさの心と身体は満ち足り、想いも歓喜の涙も真中の残滓も溢れさせている。
二人の間に隔たるものはなにもなく、ただ肌の熱さとぬめる汗と体液が二人の行為を加速させた。



朝のしじまに聞こえる澄んだ声はやさしく声をかけてくれる。
「淳平くん、朝だよー、おはよう」
ボタンの止めてないブラウスから見える胸元は激しさを物語ってところどころ紅くなっている。
「西野、おはよう」
真中は昨日の事が夢でないことに安堵した。
「ご飯食べようか、できたよ〜」
「え、そんなに寝てないのに早起きさせちゃってごめん」
「いいから、気にしないで、ふふふ、一緒に食べようよ」
「うん、食べよう」
「それと、何か忘れてない?」
真中にだけ向けられた満面の笑みが目の前にある。
夏の朝の明るい日差しが彼女を縁取ってまばゆく輝かせている、それは神々しくもあった。
見惚れながらすでに理解してる求めにためらいがちに応える、言葉は容易に出ては来ないのだが。
「えーと・・・ああっわかった・・・おはよう、ちゅっ・・・」
「せいか〜い、もう一度・・・ちゅっ」
軽く触れるだけの唇を追いかけ、思いのまま軽く閉じた口に舌先を滑り込ませる。
「ん、んんんん、んーっ♪」
「んんん、・・・んーっ!んっあん、どこ触っ・・・ふぁ・・・」
はだけたブラウスを超え更に下のラインへと真中の手は伸びる。
「ここをこうすると、どう?」
「はぁん、らめぇ・・・あ、あああ、」
ベットに力任せに引き寄せ身体を密着させながら、真中の腰と手はつかさのもっとも過敏になったところに刺激を与える。
朝に最も熱く元気なところを使って、つかさから艶のある声を引き出そうと真中はゆっくりと動き出した。
「西野、かわいい、俺もきもちいいよ」
「・・・ご飯冷めちゃうよぅ・・・あん、あ、あ、だめってばぁ・・・」
「途中で止まらないよ、すぐ終わればいいんだしさ、でも終わらないけど・・・もっと動くよ?」
「あああっじゅんぺいく・・・ん・・・んくっ、あっあっ、あーっ・・・っ」
つかさはその日、何度目か数えきれないくらい意識を消失した。
気を失ってる時間は当然睡眠時間にはならない。
結局真中はほとんどつかさを眠らせることはなかった。



がたがたと派手な音が扉の外に響く、ばあんと大きな音と共に二つの人影を扉は吐き出した。
二人は真っ直ぐ公園に走っていく、つかさのバイト先であるパステリー鶴屋への近道へと向っていく。
「わーっ、もう時間が〜遅刻なんてしたことないからいい訳考えられないよ」
「とにかく急ごう、俺もついていくよ、日暮さんならわかってくれるよ」
「淳平くん、遅刻の理由ってほんっっとのこと話す気でしょ?それだけはダメーっ、絶対ダメなんだからっ」
「やっぱ、恥ずかしい?俺が眠らせなかったって言えばあの人なら遅刻許してくれそうだなあと思ったけど・・・」
「もう!恥ずかしいの!とにかく急ごう、って弁当・・・忘れちゃった・・・」
「あっ・・・玄関に置いてなかった?・・・」
「戻らなきゃ!お弁当〜」
「西野!届けた時鍵返すから先行って!もう開店してる時間だろ?」
「わかった、ありがとう、先行ってるね〜」
空中でうまく鍵をキャッチすると、真中は振り向かずに手を振りながらつかさの自宅に走り去った。



日暮にはつかさの様子を見ればお見通しだった。
謝罪を繰り返すつかさをなだめていると、時間差で二人分の弁当を持った真中が訪れた。
予想は確信へと変わり『今日は暇だから』と強引につかさを上がらせてしまった。
なぜこんなにも早く上がっていいのか律儀に聞きに来る若い弟子に、日暮は何も言わずに笑ってばかりだった。
日暮が気付いたところを付け加えるなら二人分のお弁当箱は色違いのハンカチで包まれていたことと、
つかさの白い首筋にめずらしくスカーフが巻いてあったことだろうか。
帰ろうとする真中を呼び止め『今日はもうバイト終わったからな』ばんっと肩を叩いた。
この甘い香りがする男は香りばかりじゃなく初々しいカップルにも甘かったのだった。



閉幕、或いは始まりの歌

Pra que ela acorde alegre como o dia Oferecendo beijos de amor.
(愛のキスを差し出す日のように 彼女が喜びとともに目覚めるように)


扉は開かれ、心も身体も閉じられる事はない。
何を語り合い確かめ合ったかは、二人だけの秘密のはずなのだが今の二人を見れば一目瞭然だった。
目覚めても尚、愛しい人が側にいる幸せも繰り返すキスも最早当たり前のもの。
思いやりや、ふれあい求めあうのも日常のありふれた情景。

真夏の太陽の下
高揚した気分は祭り(CARNAVAL・カルナヴァル)のように
幸せ(FELICIDADE・フェリシダージ)は熱い肌の下を流れる血潮のように
二人だけの真実が始まる

目覚めてみる夢
それこそが
Felicidade・・・


終わり

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