第三章

Beijo(キス)




皮を引かれる心地よい感覚。
「んんっ」真中の息が詰まる。触れた指先はさらりと撫上げる。
つかさは真中の顔と交互に見ながら壊れ物に触るようにおずおずと上下する。
(西野が触れている)それも真中の事を気遣い快楽を導き出そうとしている。
呆然と真中は与えられたそれを受け入れ、つかさの手の動きとビクつく自身を見詰める。
気付くと翠玉の双眸があった。近すぎて焦点が合わない。
口の端にやわらかな感覚、頬にはつかさの前髪の触れたくすぐったい触感があった。
「あっ」キスをされた事に真中は驚き身体を引く。ハッキリとその双眸を見る。
透き通ったエメラルド色の瞳は愛しい人を映し閉じ込めているようだ。
自分が映りこむそれに見透かされ、真中の中にあった獣じみた欲望は消えうせた。
「西野」真中は呼ぶ。
つかさは応える、瞳の奥で心の底から。
つかさの空いていた左腕が真中の肩にまわされ、その手のひらはうなじを撫で髪に絡ませすうっと梳きあげる。
思わぬ愛撫に目を細めのけぞってしまう、そうしている内につかさはその開かれた脚を真中の腰に絡める。
再び身体は密着する。
かあっと全身が燃え立つ感覚に意識を奪われる。密着した肌は熱をもち汗ばんでくる。
投げ出していた脚をたぐり寄せ、あぐらの中にすっぽりと華奢な身体を包み込む。
両腕は白い背の真ん中でクロスさせて力を込める。
目を閉じ言葉も無く真夜中の密室で響く二人分の息遣い、身体に生じた熱と焦がれる想いを形にするべく強く抱擁する。



今一度一つになるために唇をかさねる。
貪るような性急なものではない、確かめるためのキスでもない、溢れる想いをすくいあうゆっくりとしたキス。
自らの内より誕生した感情の全てを当たり前のものとし受け入れてゆく、欲望も好きも自分の弱さも何もかも。
相手の身体も心も然り我が事のように。キスを繰返す。
背にまわした腕で支えながら壊れ物を扱うようにつかさを寝そべらせる。
二人の密着した身体の間でつかさの手がゆるりと動く。
「うんっ」真中から声が出る。抑えられない刺激にこのまま果ててしまいそうになる。
「べたべたしてるよ、どうしてかなあ」
鼻にかかる甘えた声でつかさが自分の手を見ながら唐突に言う。真中に添えられた手を。
「えっあっ・・・それは・・・」説明出来ないそれを見る。
そそり立ち熱を帯び今まで見たことも無いくらい大きく膨らんでいる。
先端部の口が開く。体の奥から搾り出された透明の雫がぬめり糸を引く。
つかさの手にも仰向けになったへその辺りにも塗りたくられ、てらてら光っていた。
「・・・ぬれてる」そう言って驚いたのはつかさであった。
(淳平くんもぬれるんだ)
自分に感じてくれて自分と同じように反応して・・・ぬれている。
それだけで心がどこかにいきそうだった。
「嬉しい・・・」そのままの言葉。
満足してどこかにいってしまいそうな恍惚の表情のつかさを見て真中は大きく息を呑む。
だがそんなに吸い込めはしない。つかさを想う気持ちと早く一つになりたい欲求が胸にからまり塞いでしまう。
やっとごくりと唾を飲み込み声を絞り出す。
「西野ぉ・・・」
「・・・うん」こくりと頷く。
真中から伸ばされた手がつかさに触れる。今日二度目の乳房であった。
夜は深く、二人は限りなく一つに。尚深く奥へ潜ってゆく。
時間はある、想いもそこに。
存在しないものは二人を邪魔するものだけ。只それだけ。



明るい室内灯の下で仰向けのつかさの身体は、暗い陰影を持つ事無く、全てを真中に晒している。
その頭髪と同じ色の淡い茂みも、手を伸ばせば届くところに今はあるのだ。
やわらかな胸のふくらみに触れようと手を伸ばす。しかし、胸に置かれたつかさの手に阻まれる。
「・・・え?」
「あの、少し恥ずかしい・・・明るいところで見られると・・・その・・・」
赤く染まった頬を見るとこちらも赤くなる。
二度目であるのに今から凄く恥ずかしいことをするんだと今更ながら考えてしまう。
「うん、西野、俺も恥ずかしい」
つかさに握られているところが素直に反応する。それを知られるのが恥ずかしい、だが堪らないほど嬉しくもある。
胸を覆う腕を取り、手の平に唇を合わせる。つかさは喜びと羞恥心を混ぜた笑みを見せ、そのままの手の平で真中の頬に触れる。
見つめあう瞳は再び結ばれようとする相手しか移っていない。
軽いキスの雨。つかさの唇に頬に耳朶に、首筋、鎖骨と下ってゆく。それと同時に胸の先端を摘む。
弾力のあるそれは指の刺激で硬さを増し主張してくる。
「んんっ」
快楽に身体を震わせてそれを隠す事もない。つかさは委ねている。
たどり着いた先のそれを口に含む。真中は口腔の中で胸の突起を嬲り続ける。軽く歯を立てぷりぷりした食感を確かめる。
舌全体を使ってねぶり、唾液を滴らせながらそれとともにすする。きつく吸い立てる。
空いた方の乳房も揉みほぐしてゆく、手におさまるその肉塊の弾力を確かめるために強く弱く緩急をつけて。
「あっくぅんっ・・・」
喘ぎ声とも言うべき声がハッキリとつかさから出ている。
声と同時に身体が震える。脚を閉じるように力が入る、真中の身体に長くすらっとした脚が絡みつく。
(気持ちいいんだよな、西野。もっと気持ち良くしてやりたい)
早まる劣情に押されながらも、つかさの事を考えた。



するりと身体の上を滑らせるように真中の右手が下へと伸びてゆく。
「あっ」
不意に敏感になっているそこに触れられ、つかさは身を硬くする。ほんの数刻前の痛みがよみがえる。
(西野怖いのかな、仕方ないよな今さっきの事だし、泣いてたもんな)
胸の肉塊を貪る動きをとめ、唇はへそへと続くなだらかな腹筋のラインをなぞり、右手があてがわれている淡い色合いの峰にたどり着く。
真中の熱い吐息がそこにかかる。
「あっ淳平くん」
いやいやと首をふる、それ以上に恥ずかしさの所為か言葉にならない。
「西野の・・・きれいだよ」
思っていることがそのまま口に出てくる。
赤い顔を更に首筋まで染め、つかさは戸惑う。
「莫迦・・・」
羞恥心に耐えられない、両手で顔を隠す。
真中はためらわずそこに唇を添える。

指で触れるより痛くはないだろうが、慎重に壊れ物を扱うように、そろりそろりと舌先でかきわける。
幾重にも襞で閉じられたそこは、熟れた果肉がはぜたようにしとどに密で溢れている。
「あっんん、だめだよ・・・そんなところ・・・」
真中の顔を押し退けようと手を伸ばす。
払われまいと真中は唇を吸いつけさせ、やっと小指の先が通るくらいに開いたそれに尖らせた舌先をめり込ませる。
そして思いっきり舌を突き出し、ぐぐっと割り入れる。
「はうんっ」
つかさの息が詰まる。自らの中に熱い何かが敏感な襞をぬるりとこじ開け進入してくる。
軟体動物のように蠢いている。狭い内側をゆっくりと押し広げていく。
なれない行為のはずなのに熱い痺れが全身を支配する。
「あああ・・・」
つかさは熱い息を吐き出す。
真中は刺激に打ち震え閉じようとしている足を開こうと、膝裏を持ち左右に思い切り開いた。
先程より更に顔を近づけ舌を根元まで奥へ奥へと入り込ませる。かわりに漏れた蜜が顎を伝って滴り落ちる。
じゅるると音を立てて吸い取りごくりと飲み干す。
蜜は尽きる事がない。後から後から湧いて出てくる。
(西野をもっと欲しい)
溢れさせようと舌を出し入れし催促する。ぬちゃくちゃと卑猥な音がバスルームに響く。
必然的に鼻先が硬くなった花芯に触れる。貪欲に刺激を与えようと擦りつける。

つかさの全てがいとおしい、自分で気持ちよくなって欲しい。
そして一つになりたい、どこまでも解け合うようにひとつに。

真中の舌はつかさの身体の中心に、楔を打ち込む穴を穿ち掘り起こしてゆく。
そのリズムに合わせてだんだん息が弾んでくる。びくびく身体が跳ね上がる。
必死につかさは漏れ出る声を抑えようと指を噛んで耐える。
ここまで深く行為が及ぶとは思ってみなかった。貪欲に求められるとも考えていなかった。
恥ずかしさに耐えられない、しかしそれ以上の快楽に意識が、理性が、飛んでゆきそうだ。
(どこへでも共に行きたい想い)
(喪失し捧げたい想い)
真中と共になら、どこにでも。既に全ては捧げられている。
かろうじて残った意識が、込みあげる歓喜の叫びを抑えさせている。
その間も蜜をすする水音が響き、熱いものが内側を拡張する。
真中の鼻先が女の剥けていない花芯に触れ、刺激を与え続けている。
つかさの身体もそれに応えて、入り込んでいる真中の舌を締め上げ奥へ導くように吸い込む。
(もう、我慢できないよぅ、淳平くん・・・もう)
つかさは全てを手放した。
「あっあああっ淳平くんっ・・・あー・・・」
突然がくがくと震える。一瞬、電流が流れ思考を停止させる。
同時に勢いよく液体が発射された、潮を吹いたのだ。真中の顔を濡らす。

「・・・ああ・・・」
蕩ける意識の中、直接触れるタイルの冷たさがひどく遠いものに感じる。
傍らにいるその存在だけが近く、現実と自分を結ぶ唯一つのものだった。

心配そうに覗き込む瞳に気付く。
「・・・」
安心させようと声を出そうとする。しかし、言葉として出てこない。
こくりと頷く。
「好きだ」
頷く。
知らずと目頭が熱くなる。
「西野・・・」
身体を覆うように真中がつかさの上に来る。
息も出来ないくらいの力で抱きしめられる。
重みと息苦しさに、涙がこぼれる。
「・・・んっ」
過敏になったそこに先程よりも熱く大きなものが押し当てられているのに気付いた。



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