雪の降る日は天気が悪い 悪いはずだよ雪が降る 7. - たゆ   


ささめ‐ごと【私=語】
《「さざめごと」とも》ひそひそ話。ないしょ話。特に、男女間の恋の語らいをいう。ささめきごと。


真中がつかさに約束したこと

笑顔

そして

過去じゃない未来に供に行くと誓ったこと


『ささめごと』その1

二人の触れあうところは熱く、つかさの身体に痺れが身体の芯から末端まで駆け抜ける。
胸の鼓動にじかに耳を当てて聞くそれは、自分より遥かに緊張しながらも勇気を振り絞って出た行動だと容易にわかった。
溶解していく。
力は抜け全てを運命に任せたくなる。
しかし、自分が求めているものと相手がしてくれることの違いは理解している。
ゆっくりと顔を上げると真っ赤な顔の真中がいる。
二人の温度差をさみしく感じながらつかさは素直に嬉しかった。

「淳平くん、あのさ・・・」
「うん、なに?」
「温めてくれる?足が冷えて寝れないの」
「わかった、足出して」

布団の外にまで引いていた足を真中の足の甲に乗せる、ひんやりとしたそれは真中を驚かせた。

「ひゃあっ、すごく冷たい、こんなんじゃ寝れないはずだ、西野もっと近くによってよ」
「・・・うん・・・いいの?・・・」
「いいからいいから、全然かまわないよ、すごく冷えてきてるから俺も暖かいし」
「うん! じゃあ言葉に甘えて・・・」

つかさはお互いのくっついていたヒザ頭を更に絡めた、足の間に滑り込ませ真中の足をロックするように絡める。
へそから下をぴったり寄り添う、遠慮なく胸も真中の胸板に密着させた。

(に、西野の身体やわらかい、いい匂いもするし・・・でも傷つけたくないそんなつもりで言ったワケじゃないし・・・ガマンガマン)

パジャマ越しであってもそのやわらかな感触は、普通の高校男子には正気を失うには十分だが相手は真中である、
体温が一度上がろうともガマンしてしまう、それが出来てしまうのだ。
就寝時につかさはブラをしない、真中は胸の感触を胸で確かめてもそれでも変らず抱きしめている。

「あ、暖かい西野?ね、眠れそうかな?」
「うーん、まだ寒いかなあ、そうだ、淳平くん『上』になってよ」
「ヘ?上??」
「あたしのカラダの『上』だよ」
「!!!」
「毛布代わりになってくれるよね、淳平くん!」
「・・・うん・・・わかった・・・」



雪の降る日は天気が悪い 悪いはずだよ雪が降る 8. - たゆ   

『ささめごと』その2

つかさの腰の下に片腕をまわしそのまま回転させる。

「きゃっ」
「驚いた?ごめん、あんまり動くと寒いと思って・・・これでどうかな?」
「肩が寒い・・・淳平くんの肩で温めてよ」
「うん・・・よっと、これでいい?」

覆い被さるようにつかさの上に移動する、身長差の所為で足は絡んだままへそも重なり合うように同じ位置にあった。

「・・・うん、あたたかいよ・・・」

真中の耳朶をくすぐるつかさのささやき、深夜の声は部屋に吸い込まれていく。

「淳平くんの肩が出ないように布団掛けなおすね」
「あ、ごめん、してくれるかな」

つかさは真中の脇から腕を伸ばすと布団を上にずり上げる、その腕を背中にまわす。
そしてぐーっと力を入れて抱きしめた。

「に、西野・・・」
「何で淳平くんは力入れてるの?あたしに体重預けないと疲れちゃうよ、一晩中寝ないつもり?」

(そんなことしたらよけい眠れないんだけどな・・・言えないけど・・・しかしこのままじゃ苦しいよなあ、言葉に甘えて預けようか)

「・・・わかった、重くて苦しくなったら言ってくれよ・・・」
「・・・うん・・・」

ゆっりと降り積もる雪の様にやさしく真中は体重をかけてくる。

・・・はあぁ〜・・・

重みが腹から胸へ、そして肩に行くとつかさはゆっくり息を吐いた。
この重さが心地よい、抱きしめられることも、その存在を身近に感じることが出来ることも全てがいとおしくなる。

「重くない?」
「ううん、それよりなんで腰を持ち上げてるの?腰が痛くなっちゃうよ」
「・・・え・・・えーと、それは・・・」

(言えない・・・反応してるなんてとても言えない・・・でもこのままじゃ変だよなあ・・・ど、どうしよう)

「気にしなくて良いからさ、淳平くん、いいよ」
「・・・じゃあ・・・あの・・・失礼します」

へっぴり腰になっていた真中はひざを立てるのを止めて足を伸ばしていく・・・へそから下が密着し真中の体重がかかってくる・・・。

「・・・あ・・・」
「・・・ごめん・・・」
「あやまらなくていいの、それに少し嬉しいし・・・ふふふ・・・あったかいね」
「・・・ああ・・・」

(ぐわー生殺しか・・・西野が望んでなきゃダメだよな・・・なんと言っても恋人でもなんでもないんだから・・・しかし、持たないな俺・・・どうしよう、トイレ行くしか思いつかない・・・)

二人とも恥ずかしくてゆでだこの様になってる筈だが薄暗いへやではそれも見えない。
視界がぼやけた色のない世界で感覚だけが研ぎ澄まされ、吐息とささやきと胸の鼓動だけが支配していた。



雪の降る日は天気が悪い 悪いはずだよ雪が降る 9. - たゆ   

『ささめごと』その3


凛と静かな寒い部屋の真ん中で、二人はこれ以上ないほど長い時間身を寄せていた。

・・・すぅ・・・はぁ・・・すぅ・・・はぁ・・・

つかさの規則的な呼吸が真中の耳朶にかかる。

(西野ももしかしたら同じ気持ちになってるかも、保健室じゃあ最後まで行く覚悟だったんだし)

真横にある顔を見ると、和やかな表情で自分を見つめるつかさがいた。

どきっ

(ずっと見てたのかな、止めるなら今のうち少しはなれよう)

下にいるつかさの背中にまわした腕を解いていく、だがつかさの腕はさらに真中をきつく抱きしめる。

(西野・・・)

首筋に埋めた顔をまるで猫のようにすりつけ離れない。

すりすり

ドクン

「・・やばいって・・・」
「・・・なにが?」
「こ、これ以上くっついてたら・・・その、傷つけそうだから」
「私が傷つくの?どうしてそんなこと言うの?」
「だって、俺達は付き合ってもなんでもないんだし、それに・・・」

言葉を詰まらせながら真中は二の足を踏む自分に対していい訳を始めた、つかさの本心も自分の欲望も本当はよく知っている。
しかし、自信の足らなさと浮ついた気持ちのままで、つかさに触れることがどれだけ彼女を傷つけるかも知っているからだ。

「淳平くんの言うこともわかってるよ、私のこと気遣ってくれてるのもわかってる
 でも、少しだけ甘えさせて、甘えられるの淳平くんだけだもん」
「西野、俺は・・・」

(・・・その気持ちに応えられるだろうか)

「世界中で一人だけ、あたしを傷つけていいのはただ一人だけ・・・」

胸に顔を埋めて呟く声にただ無言のまま真中は腕を戻し、細い背中に回し今度はしっかりと力を入れた。
身体に渦巻く激情は不思議とおさまっていった。
つかさの真摯な本心に触れたからだ。
どんなに傷ついてもつかさは耐えてしまうだろう、それに気付いたとき邪な気持ちは打ち砕かれてしまっていた。

(西野の気持ちに釣り合う俺じゃなけりゃ応えられない、こんな今の俺じゃあ無理だ)
(・・・ガマンできるだけガマンしよう、それくらいしか思いつかないや、ははは、天罰だなこりゃ・・・)

つかさからまわされた腕はしっかりと真中のパジャマを掴んで放さない、冷たい足先を絡めて暖をとる。
それを包むように真中は遠慮なく体重をかけ、足を絡めて密着した。

「西野、おやすみ」
「うん、おやすみ淳平くん」

やがて静かな寝息が聞こえるまで真中はつかさを抱きしめていた。
永遠とも思える時間の中で心ふくらませて一人の少女を想い、温かさに満ちていた。

(こんな俺なのにどうして)
(世界で一人だけ、ただ一人だけ・・・こんなに想われてるなんて気付かなかった)

リフレインする言葉は真中の胸中を占め、離れることはなかった。


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