ichigoWAR-5 - takaci
様
「な、なんか夢みたいです!サイン貰えるだけで嬉しいのに、こうして一緒にお食事が出来るなんて・・・あたし一生の記念です!」
「ありがと。そこまで喜んでくれるとホンマ嬉しいわ」
美奈は憧れの漫画家を目の前にして目を輝かせまくっている。
声をかけてきた美女、美鈴は漫画家の内場の恋人であり、平一らの母校である泉坂高校の先輩にあたる。
サイン会終了後の片付けを手伝っていたら、懐かしい制服姿が目に入り、思わず声をかけたという形だった。
さらに内場の奢り(美鈴に押し切られた)で後輩ふたりを交えた4人で夕食という話になり、現在に至る。
「あたし外村先輩の姿どこかで見たことあったなって気がしてたんですけど、確か映研の部室にある賞状に付いている写真に写ってませんか?」
「へえ、賞状はともかくあの写真まだあったんだ。ひょっとしてあなた映研?」
「あたしは一応文芸部で、たまに映研の手伝いをしてます。映研と文芸部が協力体制をとってるんです」
推理小説好きの美奈は文芸部に属して創作活動も行っている。
「なんか、時の流れを感じるなあ。あたしの頃とは体制が少し変わってるみたいだし・・・あたしも歳取ったってことかなあ・・・」
美鈴やや凹みモード。
「そ、そんなことないです!あの写真の先輩も綺麗ですが、今のほうがもっと綺麗ですよ!」
美奈はすかさずフォローを入れる。
「そ、そうですよ。外村先輩ってそこいらの芸能人より綺麗ですよ。なんかウチバ先生とは釣り合わないみたいで・・・あっスンマセン、そんなつもりじゃ・・・」
思わず口が滑った平一。
「え、ええよ気にせんで。みんなからも『お前にゃもったいない』てよう言われるから」
内場はさらっとかわすが、やや気まずい空気が流れる。
その空気を変えようと、美奈が別の話題に切り替えた。
「あの・・・外村先輩って東城先生や真中先輩とも一緒に活動されてたんですよね?」
「うん、2年間一緒に映画作ったよ。でも東城先輩はともかく真中先輩の名前が出てきたのは意外だね」
「外村先輩の時代は映研の黄金期ってみんな言ってます。角倉監督と真中先輩の作品は今でもよく見て参考にしてるみたいだし、あたし真中先輩の名前は2時間ドラマでよく見かけるんです」
「真中先輩、今は角倉監督の事務所で活動してるからね。それでもあの歳で2時間ドラマの監督やってるのは珍しいよね」
「でも真中先輩が手がけた作品って面白いですよ。今までの2時間ドラマとは違った新鮮さがあって・・・」
女性陣で話が盛り上がっているところ、男性陣も話に花が咲いていた。
「え?じゃああのフィギュアって元が取れないんですか?」
「製作先っつーか、企画あげた人がどうしてもあの大きさで作りたいって持ちかけてきたらしくって・・・それでも出版社と俺は版権入るから痛くはないんやけどな」
こちらは先日ホビー雑誌に載っていた等身大フィギュアの話題だ。
「あのフィギュア、モノは大きくても製造元は小さいっつーか、個人商店に毛の生えたようなもんですよね?それで赤字覚悟なんて・・・」
「俺も製造元の人に会ったけど、情熱凄かったな。職人って感じがよう伝わってきて、完成品見たときも出来の良さにめっちゃ驚いたで」
「あれ?内場先生も設計段階から関わってるんじゃないんですか?」
「俺は漫画という、まあいわゆる2Dの静止画専門やから、フィギュア造形なんて全く分からん。だからほぼ全て向こう任せやで」
「そ、そんなもんなんですか?」
「あのフィギュアも俺の画のイメージよう掴んでんけど、3D化してるから俺の眼から見れば全く別もんなんや」
「そういえばガンプラでもアニメとプラモじゃイメージだいぶ違いますよね」
「もともとマンガやアニメという2D作品を3D化しようというのに無理があるんや。それを上手くまとめてる造形師の仕事はマジで凄いと感じたで」
「いわゆるデフォルメですよね。原画や原型とはあえて異なる形にして『それらしく見せる』っていう作業ですか」
「ありゃマジで職人技やな。今回のフィギュア化でガンプラとかフィギュアの見る目が変わったなあ。それくらいインパクトあったで!」
当初は美奈と内場のための夕食だったが、それぞれ男性陣と女性陣で話が分かれてしまった。
だがその間にも母校や映研での活動な、4人共通の話題で盛り上がることもあった。
結果的にはとてもよい形で夕食会は終了した。
「内場先生、外村先輩、本当にありがとうございました。あたし今日の想い出は一生の宝物になります!」
美奈は目を潤ませながらふたりに深々と頭を下げた。
「いや、俺らのほうこそありがとう。君たちとの会話で得られるもんが沢山あったから今後の作品に活かしたいと思ってる。頑張るから応援してな!」
「「はいっ!!」」
平一、美奈揃って元気よく返事する。
が、
「やっぱ恋人同士っていいよね。中山くんだっけ、彼女のこと大切にしてあげなきゃだめだぞ!」
美鈴のこの言葉で、二人は大きく慌てる。
「ち、違います!俺と東山はそんな関係じゃなくって・・・」
「そ、そうです、決して恋人ってわけじゃなくって、その・・・」
とりあえずふたりとも否定しながらも、その言葉の内容は完全に否定し切れていない。
むしろ大きく慌てて、ふたりとも顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
「ああごめんごめん、俺らが余計なことを言ったさかいに・・・あんま気ににせんといてえな!」
内場が空気を和ませようと明るい口調で二人にそう告げる。
「「あ・・・はい・・・」」
やや表情は落ち着いたものの、頬の赤さと気まずさは完全に消えていない高1男女ふたり。
そして挨拶をして帰ろうとしたところ、美鈴が平一を呼び止めた。
「あ、はい、なんですか?」
「あの、余計なおせっかいかもしれないけど・・・決断は早めにしてあげたほうがみんな苦しまないと思うよ」
「えっ?それってどういう意味です?」
平一は美鈴の言葉が何を指しているのか、全く理解できない。
「ああ、今分からないならいい。ただいつか、この言葉を思い出して欲しいんだ。それだけ。あまり気にしないでね!」
美鈴は笑顔で平一にそう告げる。
「は、はあ・・・」
そして平一はわけも分からないまま、美奈とともに帰途へと就いた。
美鈴と内場はふたりの姿が見えなくなるまで、しばらく見送っていた。
「なあ美鈴ちゃん、さっき最後にあの男の子に言った言葉なんやけど・・・」
「なに?」
「あれってあの男の子が真中先輩の二の舞にならないための忠告なんかなあ?」
「そう・・・だね。今も真中先輩は西野さんと付き合ってるけど、とても微妙。むしろ東城先輩のほうが・・・」
「なんか一触即発っつーか、ヤバイ感じやなあ。仕事も絡んでるからしゃあない面もあるけど、良くも悪くも大人の恋愛でドロドロになりそうな雰囲気や」
美鈴も内場も表情は硬い。
「そもそもの発端は真中先輩の優柔不断が招いた結果だと思ってる。あたしじゃどうしようもないんだけど・・・」
「美鈴ちゃん・・・」
「でも・・・あのふたりには、同じ道に行って欲しくないんだ。なんかあのふたり、高校時代の真中先輩と東城先輩と似た感じがあるんだよね」
「そうなん?」
「まだ付き合ってないって言ってたけど、たぶん惹かれあってるよ。だからこのまま・・・上手く行って欲しいな」
「そうやな。美鈴ちゃんの後輩で俺のファンでもあるんや。ふたり仲良く幸せになってくれんかなあ・・・その・・・俺らみたいに・・・」
そう言いながら、内場は美鈴の肩を優しく抱き寄せる。
「・・・」
美鈴は何も言わず、ただ幸せそうな表情を浮かべて内場に身を預ける。
身を寄せ合うふたりの心は、先ほど出会った高校生男女ふたりの幸せを心の底から願っていた。
だが、物事はそうは簡単にはいかない。
あれから数日後の放課後、
「中山くん、か、帰ろっか?」
「う、うん、でも・・・部活、いいの?」
「大丈夫、い、今はまだ・・・」
美奈と平一は思いっきりぎこちない会話になっていた。
もちろん原因は美鈴の一言である。
今まではさほど意識してなかったことが、この言葉が引き金となって思いっきり意識し出してしまった。
(東山って・・・俺のことどう思ってるんだろ・・・)
(ずっとそばに居てくれるし・・・俺も居心地いいっつーか落ち着くし・・・俺は・・・いいと思う)
(東山と・・・付き合っても・・・)
そう思いながら、ややうつむき頬を少し赤くして隣を歩く美奈の表情を窺う。
すると・・・
「!!!!!」
何も言わず、ただ目線を元に戻した。
だが、頬は先ほどより赤くなり、熱を帯びている。
(と、東山と目があっちゃったよ・・・)
美奈もまた同じような姿勢、同じようなタイミングで平一の表情を窺おうとしていた。
そこで目が合い、一気に恥ずかしくなってお互いまたうつむくという状態になってしまった。
(東山も・・・俺を意識してるんだろうな・・・)
(でも・・・ここからどうする?やっぱ俺から・・・でももし断られたら今の関係が・・・)
恋愛経験がほとんどない平一にとっては難しい問題だ。
なかなか勇気の一歩が踏み出せない。
そこに、変化が現れた。
「あの・・・すみません・・・」
後から呼び止める女子生徒の声が聞こえる。
(ん?)
振り向くと、うつむいてやや頬を赤くしている女子生徒の姿があった。
明るいセミロングの髪が目に入るが、それ以上にとても可愛らしい顔立ちをしている。
「あの・・・中山くん・・・だよね?」
「ああ、でも君は?そういえばどっかで・・・」
平一はこの美女をどこかで見たような記憶があるが、思い出せない。
そんな平一に美奈が耳打ちした。
[3組の大西ひとみさんよ。中山くんが助けた女の子!]
(ああ!!あの時の!!)
平一の頭の中に、おぼろげながら小さな記憶が蘇った。
男二人に組み敷かれている可憐な少女が見せていた苦痛と恐怖の表情が一瞬だけ浮かび上がる。
「あの・・・あの時は本当に助かりました。ありがとうございます。本来ならすぐお礼言うべきなんだけど、しばらくショックで・・・ごめんなさい」
ひとみは平一らに向って深々と頭を下げる。
「あ、いいよいいよ!そんなの気にしなくっていいって!!俺も無罪放免になったし傷ももう治ったし問題ないからさ!」
「あ、あたしも先生呼びに行っただけでほとんど何もしてないから。あたしたちのことはいいから、大西さん自身のケアを考えてね」
あくまで優しく接する二人。
いくら時間が経っているとはいえ、見知らぬ男が校内で襲い掛かってきたのだ。
その恐怖が拭い去れるまで多くの時間が費やされることは平一でも想像出来る。
そう思っていたところに、ひとみから思わぬ発言が飛び出した。
「あの・・・失礼かもしれませんが、中山くんと東山さんって付き合ってるんですか?」
「え・・・いやその・・・つ、付き合ってるわけじゃないよ。ほら東山とは一緒に居て退屈しないからさ・・・」
「あ、あたしも・・・決して付き合ってるってわけじゃなくって・・・ただ中山くんと一緒に居ると楽しくって・・・」
それぞれがぞれぞれ否定の答えを返す。
「ってことは、ふたりの真意は別として、正式にはまだ付き合ってないんですね!?」
なにやら意味深でただならぬ迫力でふたりに迫るひとみ。
「「は・・・はい・・・」」
そんなふたりはただ頷くしかなかった。
「じゃあ中山平一くんに、あたし大西ひとみからお願いがあります!」
先ほどとは打って変わって、元気いっぱいの表情を浮かべている。
「あ・・・な・・・なんでしょうか?」
完全に押され気味の平一。
「中山くん、あたしと付き合ってください!!」
放課後の公舎内で突然の告白だった。
辺りに居たほかの生徒たちは目を丸め、
当人の平一は頭の中が真っ白になっていた。
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