ichigfoWAR-4  - takaci 様



「まったくもう!最近の若い子はすぐ無茶するんだから・・・」


「いててててて・・・」


平一は保健室で保健の先生による傷の手当てを受けていた。





襲われていたのはこの学校の同学年の女子生徒で、襲っていたのは学校とは関係のない未成年のふたりだった。


平一が突入してから2分後には美奈の報せで駆け付けた男性教師らが加勢し、


そこに新任教師で空手部顧問の右島が加わったことで加害者の男子ふたりは完全に沈黙した。





平一にとって生まれて初めてのケンカだった。


自分がどんな行動を取り、どんな攻撃を加えていたのか全く記憶にない。


いま感じているのは身体中あちこちにある生傷や打ち身の数々と、両拳の痛み。


「先生、手がめっちゃ痛いんですけど・・・」


「骨は問題ないから打撲の一種ね。でも手そのものは処置のしようがないから、氷水で冷やすしかないわね」


「はあ、そう言われればそうですよね」


「まあ、2日もすれば痛みは引くでしょう」


「はあ・・・わかりました」


平一は大人しそうに小さく頷く。





そこに、ずっと治療の様子を窺っていた右島が声をかけてきた。


「おいお前、ケンカは初めてか?」


「あ、ハイ、初めてです」


平一は右島に声を掛けられビクッとする。


(右島先生ってめっちゃ迫力あるよなあ。確か日本史の先生って聞いてるけど、どう見ても体育会系・・・)


(・・・いや、なんか昔はかなり悪いやつだったって聞いたことあるなあ。なんかGTOみたいだなあ・・・)


右島の身体から発せられる威圧感から平一はそう感じていた。


「やっぱりな。拳を痛めるって事はケンカ知らねえって事だし、何より加減を知らないからなあお前は」


「スンマセン、先生たちが止めてくれるまでよく覚えてなかったんすけど、俺が一方的にやられたんすよね。もし加勢が来なかったら・・・」


「オイオイ何言ってんだよ。お前のほうがかなり無茶して、ひとりはお前にかなり酷くやられてたんだぜ」


「えっ!?マジですか!?」


右島の言葉に平一は素直に驚いた。


「お前は生傷と打撲で済んでるが、相手のふたりのうちひとりはかなりの重症だ。前歯が折れて、たぶん顎が逝ってる」


「ええっ!?でも俺ぜんぜん覚えてない・・・」


「キレて記憶飛んでんだな。ケンカ知らねえ奴がキレて暴れるとマジ危ねえんだよ。そのケースに当てはまったな」


「俺・・・どうなるんすか・・・相手にそんなひどい怪我負わせたなんて・・・」


まさか自分が加害者になるとは思ってなかった。


平一は思わぬ事実に直面して素直に怯え出す。


「心配するな。状況から見て正当防衛、無罪放免さ。俺らも証言するから安心しな」


右島は優しい顔で平一の肩をぽんと叩く。


「あ、ハイ。ありがとうございます」


素直に頷く平一。





少しは心が軽くなったが、それでも大きな罪悪感は拭い去れない。


法律的には問題なくても、自分が他人に大きな被害を加えたという事実。


未体験の恐怖に対し、平一の心は平常心を保てない。





「泉坂署のものです。少しお話を窺いたいのですが」


そう聞こえた後、ふたりの警官が保健室に入ってきた。


平一の鼓動は、否が応でも高まっていく・・・











それから数日後、


平一は放課後の校内でやや凹んでいた。


理由はもちろん、先日のケンカだ。


簡単な警察の取調べを受けたが、不法侵入者による婦女暴行を止めた平一に非があるはずはなく、多少の過剰防衛など全く問題にならなかった。


ただあの事件が学校に与えたインパクトは大きく、平一には「普段は普通だがキレたら恐い男」というイメージが付いてしまった。


結果として、友人やクラスメートたちが一線を引くようになった。


一見は以前と変わらないように会話しているように見えるが、当事者には違いははっきり感じられる。


それが平一に強い孤独感を抱かせることになり、友人たちも平一をやや避けるような行動を取りつつなるようになっていた。


ただ一人を除いては・・・






「中山くん、あまり気にしないほうがいいよ。時間が経てばみんな前と変わらなくなるよ!」


美奈は明るい声で平一を励ます。


美奈もまたあの事件の当事者であり、平一が沈んでいることに心を痛めていた。


また美奈にとっては、友人らが平一を避けること自体に疑問を抱いている。


彼女はあの事件で平一に対する好意がさらに上がっていた。


彼を避けている友人やクラスメートに対して小さな嫌悪感を抱かせるほどだ。


その感情は「親友を気遣う」と言えるレベルをはるかに超えている。





「東山がそう言ってくれて、俺すげえ助かってるかもな」


平一は美奈に向けて今出来る精一杯の笑顔を見せた。


「みんなヘンだよ!中山くんはいいことをしたのに、なんで避けるのよ!?中山くんは中山くんで変わらないんだし、もっと積極的に優しく接するべきよ!」


「いや、その東山の気持ちは嬉しいけど、けどみんなが俺を避ける気も少し分かるんだよ」


「えっ?」


「だって、恐い奴やヤバイ奴とはまともな人間なら誰だって付き合いたくないだろ。俺自身もそう思ってる。俺はあれでヤバイ一面を見せちゃったんだ。だからみんな・・・」


「そりゃ・・・そりゃ少しは驚くし、中山くんのイメージと違うからギャップあって少し戸惑うくらいなら分かるけど、でもあんなに避けるのは!」


「いや、そのギャップが余計に助長したんだと思う」


「えっ・・・」


美奈は平一の言葉に驚き、じっと眼を見つめる。


「ほら、例えば東山が突然茶髪になって派手な格好で渋谷あたり歩いてたら、みんな驚いてショック受けると思うんだ。だからみんなも避けるっつーより、少しショック受けてるだけだと思うよ」


「ショック・・・」


「そ。だから今は正直少し辛いけど、東山が言う通り時間が経てばもとに戻ると思うんだよ。ホント東山の言う通りに・・・」


平一は先ほどよりずっと晴れやかな笑顔を美奈に見せることが出来た。


「中山くん・・・」


ずっと硬かった美奈の表情も、その笑顔に導かれるように自然と穏やかになっていく。





「そ、それに東山だって今の俺とずっと一緒に居るのってまずくない?」


平一は素直にその事が気になっていた。


今の自分と一緒に行動する美奈までもが、友人らに避けられてしまうことが。


「あっそれなら大丈夫。あたしのほうは前と変わらない感じだし、むしろあれがきっかけで話し相手が増えてるくらいだから」


美奈はそう口にしながら屈託のない笑顔を見せる。


「でもよお、マジで予定とか大丈夫?ずっと俺と一緒で、ひょっとして東山にかなり負担かけてるんじゃ・・・あ、そうそう!東山の好きな漫画家のサイン会って今日あたりじゃなかったか!?」


「あ、そう言われれば・・・」


美奈は携帯の日時を見つつ、サイン会のパンフレットを鞄から出した。


「でも、もういいや。今からだと間に合わないだろうから・・・」


そう口にしながらさばさばとした表情でパンフレットを鞄にしまおうとする。





だが、その動きを平一の手が止めた。


「良くないって!俺それが心配だったんだよ!俺と一緒に居ることで東山に負担かけてやりたいことさせてないんじゃないかって・・・」


平一はそう言いながら、美奈が持っているパンフレットの時間と場所を確認した。


美奈の細い腕を握りながら・・・




「あ・・・あ・・・その・・・」


突然の平一の行動に美奈の顔は真っ赤だ。


「場所ここか。今からなら・・・ちょっと遅れるかもしれないけど間に合うかも!さあ行こう!!」


平一は美奈の手を取り、引っ張っていこうとする。


「あ・・・その・・・手・・・」


「手?あ、ああ!!ごめん思わず!!」


平一は美奈にそう言われて、ようやく自分が美奈の腕を握っていたことに気付き、ぱっと離す。


「ご、ごめん、俺ってふと思ったら見境なく行動するタイプなのかも・・・」


「う・・・うん・・・でも大丈夫・・・そんなに嫌じゃなかったから・・・」


ふたりとも顔を赤くしながら、目を落としながらそう口にする。


しばらく固まったまま・・・





「じゃ・・・じゃあ行こう!」


「う・・・うん!!」


その後、ふたりは駆け出した。










約30分後、目的地のサイン会場に到着した。


ただ時間は既に終了時刻から10分ほど経過している。


賑わっていたような様子は感じられるが、今の人の数は疎らだ。


ふたりはやや落胆した表情を浮かべながら、会場内に入っていく。





何人かの関係者と思われる人が後片付けを始めていた。


そのひとりに平一が声をかける。


「すみません、サイン会は・・・」


「ああ、定刻どおりに終了したよ」


関係者はぶっきらぼうな口調で手を休めずにそう答えた。


「あの、すみません、漫画家の先生ってもう帰っちゃったんですか?実は用事があってちょっと遅れて・・・この娘が先生のすげえファンで・・・だから何とかお願いします!」


平一は必死になって関係者に頭を下げた。


「いや、そう言われても時間は守ってくれないと・・・それに先生も忙しい人だし・・・」


平一の姿を見た関係者は困惑しながらそう答えた。


「中山くん、もういいよ。もうこれで十分だから・・・」


美沙も平一にそう声をかける。


「東山・・・ごめん俺のせいで・・・」


平一の心は申し訳なさで一杯になった。


「「すみませんでした」」


そして二人揃って関係者に頭を下げ、とぼとぼと会場を後にしようとする。










「そこのふたり、ちょっと待って!」


そこに声をかける女性がいた。


((ん??))


振り向くと、素晴らしい美女が二人に向って小走りで駆けて来た。


そしてふたりの前で立ち止まり、


「さっきちょっと聞いてたんだけど、あなたたちウチバのファン?」


美女はにこやかな表情で話しかけてきた。


「あ、ハイ!あたしウチバ先生の大ファンで・・・でもちょっと遅れちゃって・・・」


「俺が悪いんです!俺が彼女の予定狂わしちゃって・・・」


ふたりはやや緊張した面持ちでそう答える。


「あとその制服・・・あなたたち泉坂高校の生徒?」


「えっ・・・あっそうですが・・・でもなんで知ってるんです?」


平一は美女の口から母校の名が出たことを素直に驚いていた。


美奈もただぽかんと口を開けたまま驚いている。





だが美女はふたりに構わず明るい表情で思ってなかったことを口にした。


「ねえあなたたち、このあと予定ある?」


「あ、いえ・・・俺は特に・・・」


「あ、あたしも・・・特にはありません・・・」


「じゃあ外で待ってて!30分くらいかな、せっかくここまで来てくれたんだからお礼してあげる!」


そう言うと美女は走り去っていった。










その後、会場の外で揃って待っているふたり。


「なあ東山、さっきの人って何だったんだろ?」


「うん、あたしたちの学校知ってるみたいだったし、それにあたしどこかで見たことあるような・・・」


「えっ!?」


平一が美奈の言葉に驚いていると、中から先ほどの美女と思われるような声が聞こえてきた。


「ほらほらさっさとしろって!!外であんたのファンであたしの後輩が待ってんだからね!!」


「わ、分かったから分かったからそんなに引っ張らんといてえな美鈴ちゃん!!」


そして、ふたりの姿が現れる。


先ほどの美女と、それに引っ張られた背の高いひょろっとした男・・・





「えっ!?この人って確か・・・」


「う・・・ウチバ先生!!」


平一と美奈のふたりは驚いた表情で内場と美鈴の姿をじっと見つめていた。




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