ichigfoWAR-3 - takaci 様
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書店での出会いから約2週間が過ぎた。
平一らの集まりは男3〜4人だったが、そこに美奈が加わった。
さらに美奈と親しかった女子ふたりも加わり、男子4人女子3人の集まりになった。
やはり男だけの場所に女が加わると、雰囲気が一気に華やぐ。
もともと女に免疫がない連中ばかりだった。
そんな男連中は顔が緩み、話題も女子中心になる。
そのような状況の変化は、彼らの集まりから「オタクの話題」が減るという結果だった。
平一にとって、それは望ましくない状況。
結果として、平一は集まりから離れ気味になった。
繋がりはまだ強く残っていて楽しく会話できるが、平一好みのオタク会話はガクンと減っている。
以前は集まりの中に身を置くことが楽しかったが、今はあまり楽しくない。
それが、集まりから離れ気味になる最大の理由だ。
そんな状況でオタク会話の相手が友人から美奈へと変わった。
美奈の見た目はロングヘアーをひとつに束ね、眼鏡をかけている姿の印象が多い。
その印象もあり、おしゃれに気を遣っている様子もあまり感じられないので、「地味で真面目」という第一印象を受ける。
だが、中身は見た目と違っていた。
趣味は推理小説で、山村○沙、西村京○郎、内田○夫といった著名人の作品はおおかた読んでいた。
なので2時間ドラマが大好き。船越栄○郎のファンでもある。
バラエティ番組を見たり、コ○ンなどの推理小説アニメも欠かさずチェックしている。
もともとも頭が良く見識が広いので、オタク世界も抵抗なく受け入れることが出来る今では珍しい少女であった。
ずっとオタクだった少年と、オタク世界に足を踏み入れた少女。
自然とふたりきりの時間が増え、この時間はオタクの話題が出来る楽しいひと時となっていた。
放課後の校内、中庭の一角で会話を交わすふたり。
「じゃあ東山はもうSEED系とファースト系全てチェックしたの?」
「さすがに全部は無理だけど、SEEDとデスティニー、ファーストにZとZZ、あと逆襲のシャアと0083かな。あ、それとF91も見た」
「うはー、その量をこの期間で・・・ちょっと凄いねえ」
平一はわずか2週間という期間のうちに美奈がチェックした量のあまりの多さに驚いていた。
「でもそうなると残りはMS小隊と0080、あとV、W、Xあたりをチェックすればもう完璧に近いだろうね」
「あれ、Gは?」
「あれ俺的には見るに耐えれなかった。ガンダムであってガンダムじゃない気がする。だから実は見てなかったりして」
「あ、なんとなくその気持ち分かりそう。レビュー見ててもあの作品だけ異質だよね」
「VとXもちょっと世界観が違うから印象違うように感じるかもね。Wは別の意味でハマるかも」
「2Dのかっこいい男の子にハマる趣味はあたし持ってないけど・・・」
「あ、そうなんだ。まあそれがあってもなくても、Wは観れる作品だと思うよ」
「じゃあ次はWかな。あ、∀(ターンA)が先かな?」
「∀も別の意味で微妙。ガンダムじゃないっぽく観えるけど実はガンダムって作品。全て見終わったあとのほうが楽しめるんじゃないかな?」
「じゃあ次はW辺りを見てみよっと♪」
高校1年の男女が交わす話題には似つかわしくない会話をしているふたり。
「で、今まで見ててどう感じた?SEED系が一番かな?」
「う〜ん、SEEDは絵も綺麗だし分かりやすい内容だと思うけど、細かい部分でパクリが多いと感じたかなあ。特にデスティニーは」
「あ、そう感じてくれたんだ。大体の人が少なからずそう思ってるはずだよ」
美奈の感性に驚く平一。
「いいと思ったのは逆襲のシャアかな。ファンネルの動きとか戦闘全体がスピード感あるし、コックピットもカッコイイと感じた。
「うんうん、俺もそう思う!」
「あとあれって核戦争と地球滅亡がキーになってるって思った。よく考えるとかなり重いし、あえてそれを行っているシャアは良くも悪くも凄いと思った」
「東山ってすげえよ!シャアを凄いと思うなんて・・・ガンダムの世界観が分かってる!!」
自分が好きなものをちゃんと理解してくれる人物が現れると素直に嬉しい。
ましてやそれが異性だと、さらに嬉しさが大きくなる場合も多い。
平一にとって美奈との会話は、自らが気付かない間にとても楽しい時間となっていた。
「東山って小説が読めるんだよね。それマジですごいと思うよ。俺活字読めないもん」
「好きなものなら自然と読めるようになるよ。ガンダムものの小説だってたくさんあるでしょ?」
「それでも俺ダメ。やっぱ絵が無いと臨場感つーか、イメージ掴めないんだ。あと俺の頭って想像力低いんだろうね」
「たぶん小説自体の出来が良くないんじゃないかな。いい小説なら誰でも自然とイメージ沸いてくるよ」
「そんなもんかあ?」
「あたしが読んでるのは良くも悪くも人気作家ばかりだから、やっぱり小説自体の出来がいいんだと思ってる。出来の悪い小説は読めないよ」
「まあ、ガンダムの小説書いてる人ってどんなレベルなのかわかんないけど・・・」
「あとアニメ原作の小説化って難しいと思う。2時間ドラマは小説の映像化で決まったイメージがないから、あんまり違和感ないんだよね」
「マンガ原作のドラマに違和感感じるのと似たようなもんかな?」
「そうだろうね。あたし的には金田一○年の事件簿のドラマは観るに耐えなかった」
「あーその感覚ね!言われてみればそうだなあ!!」
「あ、分かってくれる!?これ分かってくれたの中山くんが初めてかも!」
毎日、少しずつ互いの一面を理解し、共感していく。
ふたりの距離は急速に詰まって行っていく日々が続いていた。
だが、この瞬間から変化が訪れる。
出来の悪いサスペンス物の強引な設定での事件発生のような感じで・・・
「ん??」
平一は突如、視界の隅にある中庭の茂みの中に違和感を感じた。
「中山くん?」
「なあ、あそこ・・・誰かいない?」
平一は厳しい表情で茂みの一角を指差す。
「あ・・・なんか動いてる・・・」
校舎と倉庫の影にある薄暗く、やや深い茂みがかすかだが確かに動いている。
もともと人通りが少ないうえに昼間でも陰湿で気味の悪い場所なので、普段はまず人気のない場所。
そこから人が居る印象を受ける。
本能的に違和感と危機感を感じるふたり。
ふたり目を合わせ、無言で互いの意思をを確認してからゆっくりと茂みに近づいていく。
腰をかがめ、気配を悟られないようにそっと身を寄せていく。
茂みの手前まで来たところで動きを止め、耳を済ませるふたり。
「・・・やめ・・・れか・・・ すけて・・・ 」
「・・・わぐんじゃねえ・・・めくとぶっころ・・・ 」
「・・・きらめな・・・ おとなしく・・・ 」
「 やだ・・・ だれか・・・ ん・・・ 」
((!!!!!))
茂みの中で、複数の男が女の子に襲い掛かっているように聞こえる。
ここから中の様子は伺えないが、それでも嫌な危機感が伝わってきた。
驚きつつも緊迫した表情に変わるふたり。
[な・・・中山くん・・・どうしよう・・・]
美奈は小さく震えた声で平一にそう尋ねる。
(どうする・・・でも・・・急いで止めないと・・・)
平一の頭は眼前の大きな恐怖によりパニック寸前に陥りそうなる。
だが、その直前で踏みとどまった。
そして、一瞬の間の間に決断を下す。
[東山は急いで先生読んできて!!俺突っ込んで少しでも時間稼ぐから!!]
険しい表情で茂みの奥を見ながら、小さな声で美奈に伝える。
[で、でもそれじゃ中山くんも危ないよ!!もし何かあったら・・・]
[そう思うんなら必死になって急いで誰か呼んできて!!いいか!!東山は絶対に来るんじゃないぞ!!]
そう告げた後、平一は勢い良く茂みの中へ飛び込んだ。
しばらく薄暗い茂みを突き進んだら、私服のふたりの男と、押し倒されている女子生徒の姿が見える。
その後、平一の記憶は飛んだ。
激しく叫び、暴れまわったような感覚がある。
と同時に、身体のあちこちから激痛が走る。
次第に身体の動きが鈍くなったように感じた。
それでもなお身体に鞭を撃って動こうとあがく。
突然、大きな力で身体が押さえつけられた。
本能がそれを拒み、激しく抵抗して呪縛から逃れようとする。
「中山!!落ち着け!!」
どこかで聞いたことのある声が耳に届き、平一はようやく我に返った。
「先生?」
平一の目の前には担任教師の顔がある。
「中山、もう終わったんだ、だから落ち着け」
担任教師はゆっくりとした口調で暴れる心を静めるように語り掛ける。
気が付くと、平一の身体は担任を含め3人の教師に押さえられていた。
「右島先生、それくらいでいいでしょう。後は警察に任せましょう」
「わかりました。けっ、バカな真似しやがって・・・」
その一方で、新任教師の右島は女子生徒に襲い掛かっていたふたりの男の身体を放り出す。
そのぐったりとしたふたつの身体は、他の複数の教師の手により完全に身柄を拘束された。
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