ichigfoWAR-2 - takaci 様
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「へえ、東山さんってこんな雑誌読むんだ」
平一は素直に「意外」と感じていた。
このような、いわゆる「オタク系雑誌」を手にする女子は多くはないが、確かに居る。
ただ男女ともに、そのような人間からは「オタク独特の雰囲気」が出ている場合が多い。
オタク世界に魅入られた人間独特の雰囲気を醸し出しており、
同じオタク仲間ならその「仲間の雰囲気」を感覚で察知出来るものだ。
ガンプラオタクならガンプラオタク独特の雰囲気があり、
フィギュアオタクならフィギュアオタク独特の雰囲気がある。
東山美奈はクラスでも大人しく目立たない存在だが、「オタクの雰囲気」は感じられない。
なのでホビー雑誌を手に取る美奈の姿は、平一にとってはまさに「意外」の一言。
「う、うん、実は、こーゆー雑誌初めてで・・・でもその・・・ちょっと気になるものがあって・・・それで・・・」
そう話す美奈の顔は恥ずかしさと気まずさが織り交じっている。
「やっぱそうだよね。東山さんにホビー雑誌ってなんかイメージ結びつかないもんなあ」
平一はそう言いながらも、美奈が言った「気になるもの」に興味を抱かないわけがなかった。
「で、どんなのが気になってんの?良かったら教えてよ?」
平一は先ほど美奈が手にしていた雑誌の目次を見ながらそう尋ねた。
「う、うん、これなんだけど・・・」
美奈は平一が開いている目次の一ヶ所を指差した。
「えっ!?こんなの出てるの!?」
「え??」
平一は美奈が指差した一文に驚き、
美奈は驚きの表情を見せた平一の姿に驚いていた。
その後ふたりは書店の外にある自販機の前に移動した。
ふたりとも缶ジュースを手にしながら、ホビー雑誌の話をする。
「じゃあ中山くんは、あれの記事を読んでなかったんだね」
「だって俺が興味あるのはガンプラと車だけ。フィギュアとかMM系とかは興味ないから飛ばすもん」
「エムエムってなに?」
「ああ、ミニタリーモデルって言って、戦争兵器モデル全般のこと。戦車とか戦闘機とか戦艦とか」
「ガンプラは戦争兵器じゃないの?」
「ガンプラはキャラクターものになる。確かに兵器だけどアニメ上の架空のものだからね」
「じゃあフィギュアって言うお人形もキャラクターものじゃないの?なんで興味ないの?」
「いやいや、ガンプラとフィギュアは全く別物だよ!確かに同じキャラものだけどぜんぜん違うって!!」
(やっぱ東山ってホビー系には全然興味ないんだなあ・・・)
今までの話の展開から、改めてそう感じる平一だった。
やや一抹の寂しさを感じる。
「模型の世界って奥が深いみたいだね。あたしはあのキャラクターの人形が出るって情報仕入れたから、ちょっと気になって見てみただけなんだけど・・・」
「ああ、あれね。基本的にキャラものはあまり興味ないけど、あれ見逃したのは俺的には不覚だなあ・・・」
「え?興味ないんじゃあ・・・」
平一の態度と言葉に改めて疑問を感じる美奈。
「でもなぜかジ○ンプ系の作品のフィギュアって珍しいんだよ。おまけにあのサイズと金額は異常。興味ない人間でも自然と目に留まるものだよ」
「あたしあの作品好きで毎週必ず読んでるんだけど、あのお人形が出るって情報を耳にしたんだ。まだジ○ンプ紙面では広告出してないんだけどね」
「確かに女の子の人気キャラだけど、フィギュア出すほどかなあ?ちょっと違うような気がするし、そんなに需要あるとは思えないよなあ」
「おまけにあの大きさと金額だもんね。あれくらいの大きさの製品ってお人形さんではよくあるのかなあ?」
「い〜や、ほとんど無い!!フィギュア興味ない俺でもあのサイズだとインパクト感じるから普通なら目に留まるんだよ。それを見逃したのはマジ不覚だあ・・・」
「中山くん、ホント悔しそうだね。なんかおかしい!」
美奈は落ち込む平一の姿を見て可愛らしい笑顔を見せる。
美奈が気になったフィギュアというのは、「少年ジ○ンプ」で連載中の漫画の女の子キャラクターものだ。
ジ○ンプ系漫画のフィギュアというのは極めて少なく、とても珍しい。
さらにこのフィギュアのサイズが極めて異常だ。
通常のフィギュアは15〜20センチ前後で1/9スケールくらいが主流。大きいもので25〜30センチ前後でこれだと1/5〜1/6スケールくらい。
1/5フィギュアでもかなり大きくとても高価になるだが、今回発売の製品は1/1スケール、つまり「等身大」だ。
もちろん金額もそれ相応で、なんと税込み33万6千円なり。
フィギュアものとしては極めて珍しい商品になる代物だ。
「でも東山ってジ○ンプ読むんだ。ちょっと意外だなあ」
美奈はクラスでは真面目な女子という存在感がある。
平一には大衆マンガ雑誌を読む美奈の姿は想像が付かなかった。
「全部の作品を読むわけじゃないよ。ただ、ウチバの作品は好きなんだ」
ウチバとは今回発売になった等身大フィギュアの作品の原作者である。
新進気鋭の漫画家で人を惹き込むストーリーが多くのファンを呼んでいる。
今回フィギュア化された女性キャラも、フィギュアに多い[萌えキャラ]ではない。
だが人情味ある心温かい性格でコアなファンが少なくないという事実がある。
それがこの特殊フィギュア発売に繋がったのだろう。
「中山くんはガンダム好きなんだね。ガンダム好きな男子って多いよね。確かあたしたちが生まれる前の作品なのに・・・」
ふたりは帰り道を歩きながら、趣味の話題に花を咲かせる。
「いわゆるファーストガンダムってヤツだね。確か1979年だから、もう30年前になるかな?」
「あたしほとんど見たこと無いけど、カッコはいいよね。それが好きな理由?」
「確かにカッコは悪くないよね。それが最初に惹かれた理由なんだろうけど、それ以上に世界観が面白いんだよ」
「世界観?」
「世界観がとても奥深いんだ。大げさに言えば『戦争とは何たるか』ってことを分かりやすく伝えてる作品だよ。ほぼ全てのガンダム作品がね」
「あたし、ちょっと興味出てきたかも。最初のガンダムから見てみようかな?」
美奈は平一の話からガンダムに少なからず興味が沸いたようだ。
「え?東山ってアニメ見るの?」
「うん、マンガもアニメもドラマも小説も有名どころを一通りは」
「へえ、やっぱ意外に見えるなあ」
「もしかして中山くんってあたしを変な目で見てない?」
「い、いや、変な目って言うかその・・・真面目そうで娯楽系には興味なさそうに見えたんだ。だから・・・」
平一は美奈に突っ込まれてやや困った表情を見せる。
「あたしは普通の高一女子のつもりです。あんまり変な目で見ないで欲しいなあ・・・」
そう話す美奈の目はやや寂しそうだ。
美奈は大人しい性格が災いしてクラスに上手く馴染めていないようで、いつも一人で居ることが多い。
そんな背景が今の寂しい表情に表れている。
「ご、ごめん。じゃあこれからはクラスでも普通に話そうよ。東山って一人で居るようなイメージあるけど、それって辛いだろ?」
「うん、ありがとう!じゃあ友達になってくれる?」
「俺はぜんぜんOKだよ。他の連れにも東山のことは話しておくからさ」
その後のふたりの表情は至って明るかった。
「じゃああたし、帰ったら早速ガンダムチェックしよっと。楽しみだなあ・・・」
「あ、でもいきなりファーストは薦めない。たぶん見るの辛いよ」
「え、なんで?そんなに暗い作品なの?」
「作品の内容は別として、30年前のアニメだよ。クオリティがめちゃ低くって見てらんなっちゃう思う」
「そう言われれば、たまに子供の頃のアニメ特番とかやるけど、仕方ないとは思うにしても現代の目で見るとひどいよね」
「現代のアニメ技術ならもっと綺麗に出来るからね。だから見るなら比較的新しいガンダム作品がいいと思う」
「じゃあ中山くんのオススメは?」
「5年くらい前のガンダムSEEDかな。全く新しい世界観で描かれてるから純粋に楽しめると思う」
「その2年後に続編のデスティニーが出て、これも良い作品だと思う。初心者にとって俺のオススメはこのふたつだね」
「分かった。じゃあ早速チェックしてみるね!」
ちょうどそんな折、分かれ道に差し掛かった。
「じゃああたしこっちだから」
「ああ、また明日な」
「うん!また明日ね♪」
美奈は平一にそう告げると、背を向けて小走りで去っていく。
「また、仲間がひとり増えそうだな・・・」
平一は今日の事実をそう分析する。
「けど、何だろう、この気持ちは・・・」
ガンプラ仲間は増えるたびに平一は嬉しい気分に包まれた。
ただ今日はちょっと異なる。
嬉しい気分ももちろんあるのだが、それ以上に心温かくなるものを感じていた。
それが何なのか分からない小さな不安があったが、それ以上に今は仲間が増えた喜びが大きい。
平一もやや小走りで明るい表情を浮かべながら、家路に着いた。
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