ichigoWAR-14  - takaci様






ドドーン!!


ドドーン!!


何発もの花火が派手に打ち上げられる。


「平一くん?」


瞬く光は、ひとみのやや不安げな表情を照らしていた。


(俺は・・・やっぱり・・・)


ひとみの手を握ろうとした自身の手をグッと固める。


その堅さが、平一の決意の表れだった。


「平一くん・・・」


ひとみはその固められた平一の拳をそっと掴もうと手を伸ばした。


が・・・





「あ・・・」


平一の拳はひとみの手を振り払った。


先ほどまでは輝くほどの笑顔を見せていたひとみの表情が一気に暗くなる。





ドドーン!!


ドドーン!!





「ひとみちゃん・・・ゴメン!!」






ドドーン!!


ドドーン!!


打ち上げられる花火の音の中で、平一は小さな声でひとみにそう告げた。


そして、美奈が消えた人ごみの中へと駆けていった。















「じゃあ、ひとみちゃんはお前から振ったんだな?」


「そういうことに・・・なるな」


平一はやや辛そうな表情でそう答えた。


「そう・・・か。それで、東山の後を追いかけたんだな?」


「ああ、見つかるかどうかすげえ不安だったけど、東山が着てたオレンジ色の浴衣を目当てにして探し回ったよ」
















夏祭りの会場。


浴衣姿の若い女性はたくさん居る。


その人ごみの中で、手がかり無しで美奈を見つけるのは不可能に近い。


だが平一は、美奈が身にまとっていた鮮やかなオレンジ色の浴衣を覚えていた。


(あの色は結構目立つし、幸い同じような色の浴衣を着てる人は居ない)


(オレンジの浴衣で、長い髪を一本に束ねてて、メガネをかけた女の子・・・)


ドドーン!!


ドドーン!!


花火の音と光に包まれる人ごみの中で、平一は必死になって美奈の姿を探し回った。





そして・・・


(あれ・・・東山じゃないか?)


祭りの会場の外れ、屋台も無く人もやや少ない場所。


オレンジ色の浴衣を着て、長い髪を髪留めで束ねた少女の後ろ姿が目に入った。


「東山!?」


平一が呼ぶと、その少女が振り向いた。


やや離れている上に光の量も少ない場所なので、表情までは確認出来ないが、間違いなく美奈だった。


「東山!!」


平一は自然と笑みがこぼれ、美奈のもとへと向かう。


だが美奈は、平一から逃げるように人気の無いほうへと駆けていった。


「ちょっと・・・東山待ってよ!?」


平一は思わず後を追った。






ザザーン・・・


夜の浜辺。


太陽が天高く照らす時は多くの人で賑わうこの場所。


だが今は夜の闇に加えて祭りの会場からも離れているので、他に人影は見当たらない。


ドーン・・・


花火の音もやや小さく聞こえる。


光もあまり届かない。


それよりも波の音と、美奈の荒い息遣いが耳に届く。


「東山・・・なんで逃げるんだよ・・・」


平一も息を整えながら、美奈に尋ねた。


「中山くんこそ・・・なんで・・・追って・・・きたの・・・」


平一に背を向けたまま、美奈の小さな声が耳に届いた。


「東山・・・泣いてるのか?」


美奈の詰まった口調から、平一はそう感じ取った。


「あたしのことは・・・いいから・・・中山くんは大西さんと・・・花火しなきゃ・・・」






(東山、俺とひとみちゃんの姿を見てたんだな)


(それで・・・泣かせたなんて・・・)


平一の胸が締め付けられる。


そして、決意がさらに固くなった。


平一はゆっくりと近づき、美奈の真後ろに立った。


美奈の肩が小刻みに震えているのが分かる。


「東山、俺はひとみちゃんと花火はしない。だって一緒に花火をしたいのは・・・」






ここで言葉が詰まる。


ここから先は、一気に鼓動が高くなる。


それに相応する、大きな言葉を口に表そうとしているのだから。


それでも・・・


平一の若い心は小さな勇気を振り絞り、固い決意を口に表した。






「俺が一緒に花火をしたいのは・・・東山なんだ」


「俺・・・・東山が・・・好きだ」






生まれて初めての告白。


口に表したことで、平一の心は幾分軽くなった。


だが次の瞬間から、別の類の重いものが心にのしかかる。


美奈の返事だ。






「・・・嘘・・・嘘だよ・・・」


美奈の小さな涙声が耳に届く。


「東山?」


「あたしが大西さんに敵うわけ無いもん・・・顔もスタイルも性格も・・・全部大西さんが上なんだから・・・だからあたしが好きなんて・・・信じられないよ・・・」


「嘘じゃないって!俺は東山と過ごす時間が大切なんだ!本気で真剣に考えた!マジで東山が好きなんだ!」


平一の右手が美奈の左腕を掴み、半ば強引に振り向かせる。





(東山・・・マジでこんなに泣いて・・・)


美奈の頬を伝う光るものが確認できた。


それが平一の心に深く突き刺さり、美奈に対する想いがより強くなる。


美奈は泣き顔を見られたくないためか、頭と右腕を振り回して抗った。


「嘘だよ!夢だよ!中山くんがあたしを好きなんて・・・あたしの初恋が叶うなんて・・・嘘だよ!」


激しく抗ったせいかでメガネと髪留めが飛び、長い黒髪が舞う。






(初恋ってことは、東山も俺のことが・・・)


心がすっと軽くなった。


(でもこんなに暴れて・・・どうやって落ち着けさせれば・・・)


錯乱する美奈への対応に戸惑う。


「嘘だよ・・・信じられない・・・」


美奈の抗いは治まりそうに無い。


(ええいこうなったら・・・行っちまえ!!)


平一は大胆な行動を選択した。


まず振り回してる右腕を掴み、両腕を押さえる。


そして・・・






「んっ!?」





強引に唇を重ね合わせた。






「ん・・・」





キスの瞬間に美奈は驚き目を大きく見開いたが、やがて目を閉じ、唇に意識を集中する。


自然と腕の力も抜けて行き、強張っていた身体全体の力も抜けていく。





平一は美奈の力が抜けたことを感じ取ると、唇を離して華奢な身体を抱きしめた。


「東山俺マジで本気で真剣に好きだから・・・嘘じゃないから・・・」





「信じていいんだよね・・・信じていいんだよね?」


美奈は涙声で何度も平一に問う。


「ああ、信じてくれ。俺、東山が好きだ。だからこれからは・・・彼女として付き合ってよ・・・」


「・・・うん、ありがとう。あたしも中山くんが好き・・・」


美奈も平一の背中に腕を回し、互いに抱きしめあう。


「あ・・・ゴメンな。強引に・・・キスなんかしちゃって・・・」


「ううん。あたし、とっても嬉しかったよ・・・」


「東山・・・」


「中山くん、こんなあたしだけど、これからよろしくね・・・」


「ああ、よろしく!!」


平一は身体を離し、美奈の顔を見つめる。





ドドドドドドドドドドーーーーーン!!!!!!!!





その時、祭のクライマックスを表す大量の花火が打ちあがった。


会場から離れたこの浜にもそのまばゆい光は届き、美奈の顔を照らす。


(あれ、東山?)


花火の光が照らす美奈の表情は、平一に大きな違和感を与えていた。
















「ってことはつまり、お前は東山と付き合うことになって、さらにはキスまでしちゃったわけか!」


友人が嬉しそうに平一に尋ねる。


「ああ、そういうことでふたりともよろしくな!」


平一の表情も明るい。


「美奈ちゃんよかったなあ・・・けどなんで黙ってたのよ!?だってそれにあのお祭り終わってから帰ってくるまでふたりともしゃべってなかったし・・・」


美奈の友人は大きな嬉しさの中にも小さな不満を浮かべる。


「まあ恥ずかしさ半分と、あとひとみちゃんともあれからしゃべってないんだよ。ひとみちゃんの前でおおっぴらにいちゃつくのも・・・なあ?」


「そう言われればそうだよね・・・大西さん少しかわいそうかも・・・」


「それ言われると俺辛い・・・」


やや凹む平一。


「あ、ごめんね。でも今日はなんで中山くんひとりなの?美奈ちゃんも誘えばよかったじゃん!?」


「あ、彼女は朝ちょっと用事があって、これからここで逢うんだよ」


「ってことは、俺達とダブルデートかよ!」


友人のテンションが高くなる。


「って言うより、俺と東山は初デートなんだけどな・・・」


平一は照れくさい表情を浮かべる。


「ちょっとお、初デートでこんな場所選ばないでよお!!せめて映画とかにしてあげてよお!!美奈ちゃんかわいそうだよお!!」


怒る美奈の友人。


「こんな場所とはなんだ!?」


その言葉に対して怒る平一の友人。


「だってこんなオタク色の濃い場所、デート向きじゃないでしょお!それに中山くん!美奈ちゃんも嫌がってたんじゃないの?」


「いや、今日の目的はデートじゃなくって、お前らふたりに東山を見て欲しかったんだよ」


「「はあ??」」


揃ってヘンな声をあげる友人カップル。


「実はあの旅行の後、東山の家に誘われて行ったんだよ」


「じゃあ、東山の親とも会ったのか!?」


友人が訪ねる。


「ああ。実は東山のお父さんがガンダム好きでそっちで盛り上がっちまって・・・最初はメチャ緊張したけど帰りはラクだったよ。一応認めてくれたし」


「へえ、彼女の親公認は良かったじゃないか。それで?なんで俺達に東山を?」


「ああ、あの祭で告った後の東山が・・・すげえかわいく見えたんだよ」


「なんだよのろけ話かよ!」


「いやそれもあるかも知れんけど・・・東山の家で改めて逢って確かめたら、やっぱり段違いにかわいくなってるんだよ」


「おいおい、そりゃお前が東山にすげえ惚れ込んじまってるだけだって。ちょっとヤバいんじゃないのか?」


呆れる友人。


「ああ、言い方間違えた。確かに俺の贔屓目もあるだろうけど、東山ってかわいく変身するんだよ」


「返信って・・・美奈ちゃんのメールがかわいいの?」


「その返信じゃなくって・・・ああ、来たよ!」


美奈の友人に説明しようと思っていたところだが、平一の視界に入ったある人物の影がそれを止めた。


「「ん??」」


友人カップルは揃って平一の動向に注目する。


「ちょっと・・・おい中山!?」


「ちょっ・・・誰よあの子!?」


揃って驚くふたり。


平一はとても可愛らしい美少女に優しく声をかけていた。





友人は慌てて平一の肩を掴み、


「おい中山!誰だその子は!?」


怒った表情で問いただす。


「中山くん!あたし達の前でなにやってるのよ!さっきまでのいい話は何だったのよ!?」


美奈の友人も怒っている。





だが平一にとっては、予想通りの反応だった。


「やっぱりそう来たか。でもそれくらい変わるんだよ」


「変わるって何がだよ!てかそのかわいい子誰だ!?」





「ねえ、あたしだよ。分からない?」


美少女は怒るふたりに対して静かに尋ねた。


((!!!!!))


同時に驚く友人カップル。


「その声・・・ひょっとして東山か!?」


「うん」


「そう言われれば・・・よく見れば美奈ちゃんだ・・・でも驚き!メガネと髪型でここまで変わるなんて!!」


「だから言っただろ。東山は変身するって。それをこの前東山の家で改めて確かめて、それを今日ふたりにも確認して欲しかったんだよ」


平一は事情を説明した。


「そっちの変身ね。うん!確かに美奈ちゃんかわいくなってるよ!目もうるうるしててなんかいい感じに見えるよ!」


美奈の友人ははしゃいでいる。


「あ、ありがとう。コンタクトって苦手なんだけど、中山くんが喜ぶならって思って・・・」


そう話す美奈はやや恥ずかしそうだ。


「でも好きな人のためなら頑張ったほうがいいよ!きっと合うコンタクトが見つかるって!」


「うん、今探し中なんだ。あ、中山くんそろそろ始まるよ」


ショー会場の一角でプロモデラーによる組み立てガイダンスが始まろうとしていた。


平一と美奈の目的もこれだった。


『著名人の話はいろんな意味で貴重で参考になることが多い』


これがふたり共通の考えでもあった。


平一と美奈は手を取り合い、隣同士席に着いた。


その後に友人カップルが座る。





(なあ中山、ちょっと聞いていいか?)


友人が小声で訪ねてきた。


(東山がここまで変身すること、告る前に知ってたのか?)


(知るわけねえだろ。告った後に見てびっくりって感じだったよ)


(けど、儲けもんだな。かわいさはひとみちゃんに匹敵するかもな)


(そんなのどうだっていいさ。おれは東山とラクに過ごせる時間を選んだんだ。見た目は関係ないさ)


平一は余裕の表情でそう答えた。





ガイダンスが始まり、ここで会話が終わる。


(でも中山・・・うらやましい・・・)


心の底からそう思う友人であった。




















同時刻。


「ふえ〜ん西野さ〜ん・・・」


ひとみはバイト先の花屋で、つかさに飛びついて涙を流していた。






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