ichigoWAR-11  - takaci 様






学生は今、夏休みの時期にあたる。


少年少女たちは多くの貴重な経験を重ね、心に思い出を残しながら成長を重ねていく大切な時間だ。


そしてここにも、そんな貴重な時間を満喫すべく集まった8人の少年少女の姿があった。





「なんか地方の旅館っていいよね〜。旅行に来たって感じがする〜」


「あ、海が見える〜!なんか東京より綺麗に見える〜!」


「さあさあ男女部屋に分かれて、速く準備して浜に行こうぜ!今日は絶好の海水浴日和だぞ!」


若く明るい声が、晴れた空に澄み渡った。









この旅行の発端は、平一の友人の男子生徒だった。


「夏休みにみんなで海水浴?」


平一、美奈の友人たち7人で、泊まりの旅行に行くというプランが持ち上がった。


「ああ。俺のおじさんが田舎で旅館やってて安く泊まれるんだ。そばに砂浜もあって海水浴三昧。さらに夏祭りもあるから夜は屋台巡りに花火も見れる。最高だろ!」


「うん、最高!あたし絶対に行きたい!」


美奈の友人の女子生徒が歓喜の声をあげる。


他の面々の表情も乗り気だ。


ただその中で、平一だけは表情が冴えない。


「なあそれって話が旨すぎないか?セットで漏れなく旅館や海の家の手伝い付ってオチがあるんじゃないか?」


「んなわけ無いだろ!中山は出来の悪いマンガの見すぎだ!」


「でもなんでお前がそんな計画立てるんだ?確か前に海が嫌いとか言ってなかったか?」


「ああ、去年までは好きじゃなかったな」


「じゃあ今年はなんでだよ?」


「まあ俺たちも高校生だし、男女揃って海水浴ってのも悪くないっつー考えに変わったんだよ」


「ふーん・・・」


「ま、その中には女子勢の鮮やかな水着や浴衣姿を見たいという希望もあるんだけどな」


ここで意味深な目線を女子に向ける。





「ったく、男子はスケベだねえ」


「でも条件は悪くないよね。ま、あたしたちもそれに乗ってやるとするか!美奈ちゃんもいいでしょ?」


「う、うん・・・」


女子勢の顔は悪くない。





「分かったよ」


平一は納得しながらも、


(こいつ、夏はキャラホビ行くって言ってたのに、すごい変わり様だな)


友人の変貌振りに、やや呆れていた。





「じゃあ今年の夏休みは、男女8人海水浴決定な!」


「え、8人?ひとり多くないか?」


平一は改めて周りを見回すが、自分を頭数に入れても7人しか居ない。


「オイオイ肝心の中山がそんなこと言っててどうすんだ?あとひとり居るだろ?」


「は、誰だよ?」


「・・・ったくこいつは・・・まあ明日になれば分かるさ」


「何だよそれ・・・」


あとひとりが誰なのか、そのときの平一には全く見当が付かなかった。





ちなみにこのとき、8人目の人物に気付いてなかったのは平一のみである。


あと6人はみな気付いており、その中で美奈だけはやや悲しげな表情を浮かべていた。





そしてその翌日。


「コラッ!平一!」


昼休みの廊下で、後から自分を叱る可愛らしい声が聞こえる。


(ん?)


振り向くと、不機嫌そうなひとみの顔が飛び込んできた。


「夏休みに友達と泊まりの旅行に行くんだって?」


「あ、ああ。俺も昨日聞いたけど、もう知ってんの?」


「あたしも今朝、平一くんの友達から聞いたんだよっ!」


(あいつ、いつもと違って早いなあ)


平一は、友人の普段の言動らしからぬ行動の素早さに呆れていた。





「なんで平一くんが真っ先に誘ってくれないのよ?」


「え、ちょ・・・泊まりだよ。それに他の面子はあまり知らないだろうし・・・」


「だったらこの旅行をきっかけにみんなと仲良くなればいいじゃない!平一くんはあたしに友達を増やす機会をくれないの?」


「ご、ごめん。そこまでは考えが回らなかった」


「それに・・・あたしと平一くんの仲なら普通に誘ってくれていいじゃない・・・なのに友達から聞くなんて・・・なんか寂しいよ・・・」


ひとみの口調は落ち込み、今にも泣き出しそうだ。





「ご、ゴメン俺が悪かった。だからひとみちゃんも一緒に行こうよ!ね!?」


(ここで泣かれたらマジで洒落にならん!)


そう思った平一は必死になってひとみをなだめ、励ます言葉をかける。





すると、


「うんっ!!あたしすっごく楽しみにしてるからねっ!!」


突然笑顔に変わり、明るい声を残して平一の前から去っていった。






平一はしばらく呆然となり、


(俺、うまく遊ばれたのかな・・・)


(それと8人目って、ひとみちゃんだったのね。確かに俺が気付かなきゃあかんなあ・・・)


昨日の友人の言葉を思い出しながら、ひとみに圧倒された平一であった。





そして現在・・・


「きゃあきゃあ!!」


「あはははは!!!」


「いいよいいよ〜〜!!」


「こら〜スケベ〜!!」


寂れた砂浜が若い男女の声で賑やかな雰囲気に変わり、その空気を平一も楽しんでいた。





そして一息つき、


(ふう、夏の海ってこんなに楽しかったんだあ。みんなが行きたがる理由が分かった気がする)


遊び疲れて、浜に建てたキャンプ用テントの下で寛いでいた。


そこに今かにの旅行をプランした友人がカメラを持ってやってくる。


「中山、お前マジでGJだ」


満面の笑みでそう声をかけた。


「は、俺なんかしたっけ?」


「これ見てみろ!」


「こ、これは!」


カメラの画面に映し出されたひとみの映像に釘付けになる。


「中山は気付いてたか?ひとみちゃんて着やせするんだなあ。かわいいだけじゃなくってスタイルもここまでいいとは予想外だったぜ」


「俺も知らなかった。なんか・・・いいな!」


「中山が来たからひとみちゃんも来てくれた。それでこの写真が撮れた。マジ最高の仕事だ!」


「なるほど。そういう意味のGJか」


「さっきチラッと聞いたけど、ひとみちゃんDカップだってさ。高一でDだぞ!すっげえな!!」


「ああ・・・」


平一の目は、鮮やかな花柄のビキニを身に付けて海辺で友人たちとはしゃぐひとみの姿を追っていた。





すると、


「男の子って、やっぱ大きい胸が好きなのかな?」


黄色のワンピースの水着の上から白いTシャツを身に付けた美奈が冷ややかな目でふたりの男子を見下ろしていた。


「あっ・・・いやっ俺は決してそんなわけじゃ・・・」


平一は反射的に否定したが、カメラを持った友人は・・・


「そりゃもちろん!男の本能は大きな胸を求めるものだよ!うん!!」


開き直って笑顔で大きく頷いた。


(こいつ・・・)


呆れる平一。


さらに友人は美奈の胸に目線を向けた。


「んでもよく見ると東山だってそんなに小さくないだろ。Cくらいか?」


「う、うん。Bに近いけど一応・・・ってそんなこと聞かないでよ〜っ!」


思わず答えてしまったことを恥ずかしく思い、怒る美奈。


「ちょ、ちょっとおまえなあ!!」


平一も思わず慌てる。


だが友人は一向に気にせずに、


「ははははっ!!じゃあ俺はみんなの写真とって来るから、おふたりさんは仲良く休んでな!!」


そう言い残し、カメラを持って走っていった。






テントの下はやや気まずい空気が流れる。


(あんな話の後、どう振ればいいんだろうか・・・)


やや悩む平一。


そしてふと美奈に視線を向けると、あることに気付いた。


「あれ?東山って海に入ってないの?」


美奈の髪や身体は濡れた様子が見られない。


「うん。あたし肌が弱いから、すぐに赤くなって痛くなっちゃうの。今も日焼け止めをたっぷり塗ってあるんだ」


そう話しながら、平一の横に腰を下ろした。


「そっかあ。海に入ると日焼け止め落ちちゃうもんなあ」


「それにあたし、大西さんみたいにスタイル良くないからちょっと引けるって言うか・・・」


やや暗い表情を見せる美奈。





「そ、そんなこと気にすんなよ」


「えっ?」


「東山だってそんなにスタイル悪くないし、肌も白くってメッチャ綺麗だと思うし、東山は東山でいい所たくさんあるんだからさ!」


平一は思わず力のこもった口調で美奈にフォローを入れた。


「あ、ありがと。中山くんにそう言われるとなんか照れるな・・・」


美奈はやや顔を赤くしてうつむく。


「ご、ごめん・・・あ、ついでにメガネも取ったら?日焼したらかっこ悪くない?」


「ううん。いつもメガネだから少しくらい日焼しても分かんないよ。コンタクトに変えるつもりも無いしね」


「そっかあ・・・」


美奈がメガネを外した姿に少なからず興味があった平一は、やや残念そうな表情を浮かべた。


だが美奈は平一の表情の変化には気付かず、別の方角に視線を向ける。


「あ、ねえ中山くん、あの防波堤の所にいる人たち・・・」


「うん?」


平一は美奈と同じ方角を見た。


浜のやや先にある防波堤に数人の人影が見え、何とか表情も確認出来る。


「あれ?あの人たちって、2時間ドラマによく出てる俳優と女優さんじゃない?」


「そうだよね!それにあと、真中さんと東城さんも居るんじゃない?なんかの撮影かな?」


「そう言われればそう見えるような・・・」


美奈に言われて目を凝らすが、淳平と綾の表情までは確認できなかった。





そこに・・・


「ちょっとお〜そこのふたり、なにまったりしてんのよお〜〜!!」


ひとみの元気な声がふたりを呼ぶ。


さらに何人かが駆けて来て、ふたりの身体をテントの下から引っ張り出した。


「きゃっ!ちょっと・・・」


「おいおいいきなりなんだよ!」


慌てるふたり。


そして友人たちは、


「「「「そお〜〜〜っれ!!」」」」


ふたりを勢いよく波うち際の海の中へ放り込む。


「「「「あははははははははは!!!!!」」」」


その場が弾けるような笑い声に包まれた。


「ぷっ・・・あはははははは!!!」


「ふふっ・・・あははははは!!!」


突っ込まれたふたりはわけも分からず呆然としてたが、次第に笑顔の流れに引き込まれる。


そのとき、防波堤の人影のことはすっかり忘れていた。





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