regret-72 takaci様
元旦。
去年はひとりで神社に行き、そこでちょっとした事故に遭い、それがきっかけで沙織と過ごすことになった。
そして今年は菅野、里津子ペアに誘われて初詣に行くことになった。
小崎家の年末年始は海外で過ごすのが通例になっており、今年は台湾に行っている。
待ち合わせ場所にはすでにふたり揃っていた。
「よっ、おふたりさん、あけおめ」
「あけましておめでとう、佐伯くん」
「よっ、今年もよろしくな」
笑顔のふたり。
3人で神社に向かう。
「佐伯は受験勉強順調か?」
菅野が尋ねてきた。
「まあまあかな。まあ何とかなりそうだ」
「余裕ありそうだな。俺は結構きつい」
菅野は辛そうな顔を見せる。
「お前はどこ行くんだ?」
「あたしと同じ大学だよ」
と里津子が教えた。
「御崎ってもう推薦で決まってたよな?」
「うん。指定校推薦だから面接と小論文でクリア」
「よく指定校受けられたな」
指定校推薦は各高校ひとりずつしか枠がない。
学校から推薦を受けるには成績、内申点ともに良くないと選ばれない。
「まああたしが受かった大学は泉坂のレベルから見ればランク低めだし、成績は難ありだったけど内申点で黒川先生が高い評価をつけてくれたの。真緒ちゃんの件でね」
「そっか。それに加えて生徒会のパイプ役とかやってたもんなあ」
この説明で納得した。
「けど里津子が受かった大学は泉坂からすればランク低いかもしれんが、芯愛じゃそうでもない。だから俺はきついんだよ」
「でも菅野ってそんなに頭悪そうには見えんけどな」
「そうかな?学校シメてる番格ってケンカは強いけど頭悪そうなイメージあるけどなあ」
「御崎、それは昔の話だ。ただ強いだけのケンカバカでシメるなんて無理だ。強い求心力とそれなりに切れる頭持ってないと務まらん。そうだろ?」
と秀一郎が菅野に振ると、
「まあな。いろいろ先公と揉めたが、成績で文句つけられたことはねえ」
少し自慢げに微笑む菅野。
「御崎も菅野支えてやれよ。もう進路決まってるんだから時間あるだろ?」
「うーん、でもあたしも結構バカだからなあ。和くんより頭悪いかも。だから勉強の役には立てそうにないね」
「ただやる気がないようにしか見えんけどな」
呆れる秀一郎だった。
3人でお参りを済ませ、近くのファミレスに入った。
「しかし佐伯のクリスマスはいろいろ大変だったみたいだな」
菅野がその話を振ると、秀一郎はドキッとした。
「どこまで知ってんだ?」
真面目な顔で聞く。
すると里津子が、
「佐伯くんゴメン。実はあたしら、沙織のフォローでいろいろ動いてたんだよ」
秘密を暴露した。
「なんだって?」
驚く秀一郎。
「それに奈緒ちゃんが感づいてね。まああたしらふたり揃ってこってり絞られたよ」
「お前ら・・・」
言葉を失う。
「でも佐伯はかなりおいしい体験したんじゃないか?クリスマスに3人の女と寝るなんてなかなか出来んぞ」
菅野はそう冷やかすが、
「傍目にはそう思うかもしれんが、正直やりたくないぞ。身体的にも精神的にもきついからな」
クリスマスの夜、帰ってそのまま凍えた奈緒を抱いた。
秀一郎には沙織の匂いが染み付いていたが、奈緒は何も言わずに秀一郎に身体を委ね、激しく乱れた。
そして翌朝、疲れて眠っていたら真緒に起こされた。
そのとき、秀一郎も奈緒も何も身に付けていなかった。
さすがに焦ったが、真緒は普段の笑顔を見せ、
一緒に起こされた奈緒は、
「秀、今度はお姉ちゃんの相手だよ。頑張ってね」
と寝ぼけ眼で伝えた。
「は?」
「クリスマスには好きな人に抱かれたいの。お姉ちゃんも秀が好きなんだから、その希望を叶えてあげて」
と言われ、今度はホテルに行き、そこで真緒を抱いた。
「奈緒ちゃんも真緒ちゃんもしっかりしてるね。ちゃんと佐伯くんを共有しようとするなんて。あたしは無理だなあ」
「普通の女の子なら無理だと思うぞ。奈緒も真緒ちゃんも本心は嫌なはずだ。俺だっていい気分はしない」
「けど抱いたんでしょ?いつも通りに」
里津子が突っ込むと、
「正直、あまりやる気がなかった。けど奈緒も真緒ちゃんもいつも以上に積極的だったからなんとかなった。でもいろいろきつかったよ。もう二度とやりたくないな」
「ふうん、ハーレムは男の夢って聞くけど、実際は違うんだね」
「図太い神経があれば楽しいかもしれんが、俺は楽しくなかったよ」
それが秀一郎の本心だった。
「いろいろ迷惑かけたみたいだな。でも勘弁してくれ。これも里津子が親友を想ってのことだったんだ」
菅野がそう弁明すると、
「それが俺には理解出来ん。なあ御崎、俺には彼女がいる上に、理由はどうあれ二股かけてる男だぞ。そんな奴になんで親友が抱かれるような孝策したんだ?」
真顔で里津子に尋ねる秀一郎。
「だって女の子にとって、初めては大好きな人に身を委ねたいもん。沙織はそれだけの想いを佐伯くんに抱いてる。それを叶えてあげたかったの」
と理由を口にした。
「それが俺にはわからん。確かに俺は桐山に手を出しちまった。でもだからって奈緒を捨てられん。真緒ちゃんとの関係を絶つのも無理だ。そうしたらふたりとも心が壊れる恐れがある。そんな男に抱かれた桐山は幸せなのか?」
「幸せだよ。少なくともあたしや真緒ちゃんよりはね」
「それは・・・」
返す言葉に詰まる。
「佐伯くんも真緒ちゃんの苦しみを目の当たりにしたでしょ?沙織はきれいな子だから、これからいろんな男が寄ってたかってくる。ろくでもない男が初めての相手になるよりは、ちゃんと想いを寄せてる男が相手のほうがずっといい。それが叶わぬ恋でもね」
「なら俺はどうすればいいんだ?進路が別れるならまだしも、俺と桐山は同じ大学、同じ学課に行く可能性が高い。これからずっと桐山がそばにいるんだ。今でも気まずい感じで会うどころかメールも打てない。気まずい関係を続けろってことか?」
思わず声に力が入る。
「やっぱり佐伯くんは真面目だね。奈緒ちゃんもそれを言ってた。佐伯くんの負担を考えてない軽はずみな行動だってね。でもあたしは佐伯くんを信じてる。沙織の想いも受け止められるってね」
「も?お前、それって・・・」
「そう。奈緒ちゃんと真緒ちゃんと同じように沙織と付き合ってくれればいいと思うよ」
「お前正気か?二股どころか三股かけろって言うつもりか?」
「たぶん沙織はそれで満足だよ」
里津子の顔は自信に満ちている。
「んな訳あるか!女の子がそんな扱い受けてうれしいなんてありえない。それに奈緒も真緒ちゃんも受け入れるわけない」
「あのふたりなら大丈夫だよ。絶対に佐伯くんには逆らわない。確かに嫌な気持ちは当然あるだろうね。でもそれ以上に佐伯くんに捨てられるほうが嫌だから」
「それは・・・確かにそうかもしれん。でもそんな気持ちに付け込んで付き合う女の子を増やすなんて出来ん」
「だから佐伯くんは真面目過ぎるんだよ」
「どこが真面目なんだよ?二股かけてる時点で不真面目でいい加減な男に決まってるだろ?」
「普通の男ならね。でも佐伯くんは女の子からの人気が高いんだよ」
「だからって二股かけていい訳じゃない」
「たぶん佐伯くんは自覚ないんだね。人気の高さは異常なレベルなんだよ。けど真緒ちゃんを恐れてみんな近付けないだけ。二股だろうが三股だろうが関係ない。ただ付き合ってくれるだけで喜ぶ女の子はうじゃうじゃいるんだよ」
「それよく言われるけど、実感ねえよ。確かにバレンタインはたくさんチョコ貰ったし、ミスター泉坂にも選ばれた。けどそれだけだ」
「それで済んでるのは真緒ちゃんの力だね」
「確かに真緒ちゃんは強い。でもその力は滅多なことがない限り奮わない。俺との関係を守るために奮うなんてない」
「そんなことない。真緒ちゃんは奮ったよ」
「いつだよ?」
「軽音の槙田さんが真緒ちゃんにやられて大怪我したじゃない」
「ちょ、ちょっと待て、なんでお前がそれ知ってるんだ?」
また驚く秀一郎。
「表向きはあれは槙田さんが階段から転げ落ちたことになってるけど、真相を知ってる子は結構いると思うよ。槙田さんが真緒ちゃんにケンカ売って、返り討ちにされたってね」
「でもあれは、あいつは俺にケンカ売ってきたんだ。けど俺には女の子は殴れん。それで真緒ちゃんが代わりに相手したんだ。恋愛云々は関係ない話だぞ?」
「やっぱり奈緒ちゃんの言う通りだ。佐伯くん鈍いね」
「鈍いってなにがだよ?」
「槙田さんも佐伯くんが好きなんだよ」
「は?あいつが俺を?事あるごとにケンカ売られてるだけだぞ?」
「それも彼女なりの感情表現なの。で、真緒ちゃんもそれに気付いた。それでわざと過剰な攻撃をして大怪我を負わせた。それは真緒ちゃんの強い意思の現れでもある。佐伯くんに近付く子は容赦しないってね」
「お前、マジで言ってるのか?」
「当然だよ」
里津子の表情は真剣そのものだった。
さすがに秀一郎も寒気を感じた。
(俺は、どうすればいいんだろうか・・・)
冬休み中、それが頭から離れなかった。
(俺は桐山に手を出した。その事実に変わりはない。それで、桐山を捨てるのか?ずっと世話になりっぱなしで、命の恩人で、そのせいで大きな傷跡を負った女の子を・・・)
考えれば考えるほど、捨てられない。
(じゃあ桐山とも付き合う・・・でも真緒ちゃんはともかく、奈緒は間違いなく反発する。下手すりゃ血が流れるぞ)
秀一郎の苦悩はずっと続いた。
そして冬休みが終わり、学校が始まる。
(桐山とどう話せばいいんだろうか?)
秀一郎の答はまだ出ていなかった。
「おはよう佐伯くん」
そんな秀一郎に沙織が笑顔で声をかけてきた。
「ああ、おはよう」
緊張が高まる。
「勉強どうだった?ちゃんと進んだ?」
「ああ。まあまあかな。もうすぐセンター試験だし追い込みかけんとな」
「じゃあ放課後一緒に市の図書館行かない?」
「ああ、いいよ」
「よかったあ。ひょっとしたら断られるかもって思ってたからドキドキしちゃった」
ホッとした笑みを見せる沙織。
「えっ、なんで?」
「だってあたしのわがままで佐伯くんの心に負担になることしちゃったから。メールも全然来ないし、だからってあたしも送る勇気なかったから少し心配だったんだ」
「じゃあ俺と同じだな。なんか俺も気まずくてさ」
自然と笑みがこぼれる。
「でも今は受験に集中しようね。これからが正念場だから」
「桐山、俺なりにどうすればいいかずっと考えてたけど、簡単に割り切れる状況じゃない。俺だけならまだしも、他の子も絡んでる。だからもう少し待ってくれないかな?」
「うん、あたしはいつまでも待つから」
沙織は普段通りの笑みを見せる。
これで秀一郎の心もかなり軽くなった。
放課後、ふたりで学校を出る。
そこで校門に小柄な人影があった。
「なにやってんだ奈緒?連絡もよこさずにどうした?」
「秀には用はないよ。桐山さん」
奈緒は沙織の前に立ち、笑顔を見せる。
「なに、奈緒ちゃん」
「秀をいろいろ支えてくれてありがとう。これから一緒に勉強?」
(なんか・・・)
奈緒の笑顔に繕っている感じがして、不気味に思う秀一郎。
「うん。一緒に図書館行くの」
「そっか。秀も桐山さんをホントに頼りにしてるから、これからもよろしくね」
「うん。あたしに出来る範囲で頑張るよ」
「でも・・・」
奈緒は一歩踏み込み、
パアン!
沙織の頬を平手で叩いた。
(やっぱり、やっちまったか)
予想はしていたが、やって欲しくない行動を取った奈緒。
周りに他の生徒も群がって来る。
「とりあえずこれでチャラにしてあげる。でも次は許さないから。いくらなんでも他人の力を借りてまで誘惑するなんてアンフェアだよ」
「そうだね。もう手の込んだ裏工作はしないよ。でもあたしも諦めないから」
沙織は叩かれた頬を押さえて強い決意を見せる。
「やるなら正々堂々としてちょうだい。じゃあね」
奈緒は言いたいことだけ言うと、秀一郎には目を向けずに立ち去った。
「桐山ゴメン、大丈夫か?」
「ううん、これだけで済むなら全然平気だよ。でも奈緒ちゃん甘いね」
そう言った沙織の笑顔には自信が満ちていた。
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