regret-69 takaci様
学園祭が終わると、3年生は一気に受験モードになる。
休み時間や昼休みでも勉強している姿が目立つ。
秀一郎はそんな空気が嫌だったので、中庭で弁当箱を広げていた。
もうそろそろ肌寒い季節になるが、今日は暖かい。
そして沙織と真緒も一緒だった。
最近はこの3人で昼食を囲むことが多い。
「3年生は受験で大変そうですね」
真緒が心配そうな顔を向ける。
「まあ仕方ないよな。けど俺はそうでもないよ。バイトも続けてるし、そんなに追い込まれてない。桐山のおかげだけどな」
秀一郎より学力の高い沙織の存在は大きな助けになっている。
「あたしも佐伯くんに助けられてるよ。やっぱり志望大学と学課が同じなのがポイントかな。勉強もひとりよりふたりのほうが効率いいもん」
沙織は明らかに余裕の表情。
そこに、
「おっ、これはいい光景だね。ミスター泉坂とミス泉坂の1位2位が揃ってるじゃん」
里津子が笑顔でやってきた。
「よっ、御崎、昼メシは?」
「もうさっさと食べた。教室の空気ピリピリしてて嫌なんだよね」
「俺たちもだよ。だからこうしてこんなところで食ってんだ。昼休みくらいゆっくりしたいしな」
「ところで話変わるけど、2年の槙田さん、ミスコン負けてかなり落ち込んでるんだって」
「はあ?あいつがそれくらいで落ち込むようなタマか?」
信じられない秀一郎。
「軽音って学園祭で1位が指定席だったじゃん。それが今年は3位でしょ。それで責任感じてるみたい。下馬評では1位だろうって言われてたから余計だろうね」
乱泉祭の翌日、総合成績が発表された。
今年はミスコンの順位が大きく作用して例年とは異なる結果になった。
優勝はミスコンを征した文芸部。
そして2位が茶道部。
3位が軽音楽部となった。
つまり涼はミスコンで沙織だけでなく真緒にも負けていた。
「軽音はミスコンを軽視しすぎたんだろうな。いくら素材が良くてもあんなラフな恰好じゃ票は伸びん。もう少し着飾ってたら結果は違っただろう」
「あたしは自分が優勝なんてまだ信じられない。それにそれはあたしの力じゃないと思う。綾先輩のドレスがなかったら真緒ちゃんにも槙田さんにも負けてたよ」
「それでも桐山先輩はあのドレスを着こなしてました。それは先輩の力ですよ」
フォローを入れる真緒。
「真緒ちゃんも和服よく似合ってたよ。奈緒の双子とは思えんかった」
「まあ、褒められてるのはわかるんですが内心複雑です。和服似合うって貧相で脚が短いって意味にも取れますから」
「だから真緒ちゃんは貧相じゃなくてスレンダーなんだって。それにそれでも槙田には勝ったんだから自信持ちなよ」
フォローを入れる秀一郎。
「けどやっぱり奈緒と比べると貧相です。ブラのカップ1サイズ違いますから」
「それは隣の芝が青く見えるって奴だよ。奈緒だって真緒ちゃんのウエストの細さに憧れてたからな」
「あ、そうそう、その奈緒ちゃんも絡んでる話だけど」
里津子が割って入って来た。
「奈緒絡みってなんだ?」
「みんな芯愛の学園祭に来て欲しいの。向こうでもウチのミスコンがそこそこ話題になっててさ、佐伯くんと沙織と真緒ちゃんが来てくれれば盛り上がるだろうって話になってるのよ」
「それは菅野の頼みか?」
「ううん、和くんは関係ない。実はあたし、泉坂と芯愛の生徒会のパイプ役やってんのよ」
「は?」
事の発端はミスター泉坂の集計を始めた頃だった。
どうやら秀一郎が1位になりそうだとわかったとき、生徒会長は奈緒への対策を考えた。
他校の生徒とはいえ、人気の高い秀一郎の恋人であり、姉の真緒の双子の妹ということで奈緒の存在や性格などは泉坂でも知れ渡っていた。
そして菅野のグループの男たちに厚い信頼を受けていることもわかっていた。
秀一郎がミスター泉坂になり文化祭行事に携わることになれば奈緒が黙っていないことは容易に想像がついた。
そこで会長は菅野の恋人である里津子にコンタクトを取り、菅野を通じて奈緒を慕っている芯愛の生徒たちに、たとえ奈緒の指示でも泉坂の文化祭の妨害行為をしないように根回しした。
里津子はその旨を菅野に伝え、菅野から仲間たちにその通達が行き渡った。
そしてその際に芯愛の生徒会から互いの協力要請が出たので、それを泉坂側で引き受けた形になった。
「結局原因は奈緒かよ。あいつはあちこちに迷惑かけるなあ」
呆れる秀一郎。
「でもそんな事情があるなら行かなきゃダメだよね。ウチの文化祭はスムーズに問題なく終了して、それが芯愛の協力があったならあたしたちも協力しないと。りっちゃんの顔を潰しちゃう」
「そうですね。あたしも構いません」
沙織と真緒が同意した。
「佐伯くんはどうかな?」
「元凶は奈緒だろ。なら俺も行かなきゃならん。行くよ」
「みんなありがとね!」
里津子はとびっきりの笑顔を見せた。
そして芯愛の文化祭当日。
秀一郎、沙織、真緒、里津子は泉坂の制服姿で訪れた。
「芯愛高校の文化祭へようこそ。来て頂いてありがとうございます」
芯愛の生徒会メンバーが校門で出迎えてくれた。
「こちらこそありがとうこざいます。奈緒の件でなんか手間取らせたみたいで・・・」
恐縮する秀一郎。
「なに言ってんのよ秀、あたしやましいことなにもやってないからね!」
そこに奈緒も現れていきなり怒る。
「やる恐れがあったから御崎や菅野がいろいろ駆け回ったんだろうが。それは事実だ」
秀一郎がそう反論すると、
「みんななによ、まるであたしが危ない女みたいじゃない・・・」
ふて腐れた。
「これくらいでいじけるな。あとで付き合ってやるからいつもの元気で仕事しろ」
秀一郎が頭を小突くと、
「うん。あとで絶対だからね!」
コロッと笑顔に変わった。
芯愛高校の文化祭は泉坂のような競争はない。
ただ来場者に楽しんでもらうためのお祭りである。
そして秀一郎たちはこの祭を盛り上げるために呼ばれたゲストでいろいろ協力することになっている。
真緒は奈緒のクラスの出店に一緒に参加した。
奈緒は2年連続でメイド喫茶。
双子の美少女メイドは多くの客を引き寄せた。
そして秀一郎と沙織は芯愛高校生徒会主催のトークショーにゲストで招かれた。
泉坂高校1番人気の男女ということでかなりの客が集まった。
そしてこのトークショーに、
「お前も参加なのか?」
驚く秀一郎。
「まあこんなのは正直ガラじゃねえが、里津子の頼みだからな。俺には断れん」
照れ笑いを見せる菅野も参加した。
トークショーのテーマは『ここだけでしか言えないぶっちゃけトーク』
台本は当然なしで、司会者が際どい質問をぶつけることになっている。
「ではまず最初にお尋ねします。佐伯さんと菅野さんの最初の出会いはケンカだったとのことですが?」
「そういやそうだったな。奈緒が菅野の仲間のカンパにいちゃもんつけて、それが揉めに揉めて、そこに俺が押しかけたんだよなあ」
当時を思い出す秀一郎。
「近くのサテンで俺たちと小崎が揉めてて、そこに現れたのが佐伯だった。最初は女の前でカッコつけてるただの男なんかぶちのめすつもりだったが、さらに小崎の姉が現れて返り討ちされちまったよ。いやここまで強いとは思わなかった」
菅野が笑顔でそう暴露すると、会場は爆笑に包まれた。
「誤解しないように言っとくけど、俺が菅野と直接やり合ったわけじゃないから。やったのは真緒ちゃんだからな」
秀一郎がそう付け加えると、
「いや、佐伯の動きも見事だった。謙遜してるけどこいつだけでも相当強いぞ」
菅野は秀一郎を持ち上げる。
「でもそんな出会いがあって、それ以来深い交流が芽生えたんですね?」
司会者が話を進める。
「そうだな。いろいろあったなあ。菅野にはホント助けてもらってるなあ」
今度は秀一郎が菅野をフォローする。
「俺も佐伯や小崎姉妹には世話になってる。それに佐伯と小崎からいい子を紹介してくれたしな」
「それが菅野さんの今の恋人ですね?」
司会者が突っ込んできた。
「確か去年のここの文化祭だよなあ。俺たちが奈緒に誘われて、そこで菅野がいろいろ案内してくれたんだよなあ」
ここで沙織が、
「あたし、芯愛の菅野さんって恐い人ってイメージあったんですけど、違いましたね。責任感の強い、男気のある人でした」
菅野にフォローを入れた。
「ここで当時の裏話とか期待したいんですが?」
「菅野も結構情けなくてさ、御崎にメアド聞けないから俺に聞いてきたんだよ。俺は後のことを考えて自分で聞けって突き放したけどな」
秀一郎がそう暴露すると、会場が再び爆笑に包まれ、菅野は苦笑いを浮かべた。
午後から自由行動になり、奈緒と合流した。
「トークショー盛り上がったみたいね」
「司会の奴が結構突っ込んだ質問してきたから思わず答えちまったけど、ちょっとまずかったかな。菅野の立場上な」
「そんなことないよ。もう菅野ってすっかり円くなったもん。昔は細かいこといちいち気にしてたけど、あたしがもっと大らかになれって口酸っぱく言ってきたからね」
「それもお前の力か?」
「ううん、あたしはただ言ってただけ。ホントに円くなったのはりっちゃんと付き合うようになってからかな」
「確かに御崎の存在は大きいよな。あの菅野が真面目な男に見えるようになったもんなあ」
当初の出会いの頃と比べるとまるで別人のような変貌ぶりである。
「秀も変わったよ」
「そうかあ?あまり自覚ないけどな」
「よくも悪くもいい男になった。それで女の子にモテるようになった。あたしの気苦労が増えたもん」
「そう言われりゃそうかもな。バレンタインのチョコの数も一気に増えたし、ミスターランキングで1位になったもんなあ。自分でも驚きだ」
「泉坂の文化祭は時間なくてデート出来なかったけど、今日は一緒に楽しもうね!」
奈緒は秀一郎の腕を取る。
「ああ。でも桐山が心配だな。御崎も菅野とデートだろうし、ひとりで寂しがってなきゃいいが・・・」
「大丈夫だって。あれだけの美少女を周りが放っておくわけないじゃん。桐山さんにとっては出会いのチャンスなんだから、逆にひとりにしてあげないとかわいそうだよ。それにウチの学校は菅野が仕切ってるからへんな男にひっかかることもまずないでしょ」
奈緒にそう言われると、返す言葉がなくなった。
「そうだな。じゃあどこから行く?」
「うん!任せてね!」
久しぶりねデートで奈緒ははじける笑顔を見せた。
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