regret-66 takaci様
秋。
泉坂高校伝統の文化祭、乱泉祭が近い。
毎年恒例の部活動対抗戦だが、今年は一発逆転の目玉イベントが企画された。
『ミス泉坂』
要はミスコンである。
各部が代表をひとりずつ選出し、グランプリには大量ポイントが与えられる。
それはたとえ来場客数がゼロでも、ミスコンさえ獲ればトータル1位になれる。
それにより各部の美女集めが今年は熱い。
昼休み。
秀一郎は沙織と真緒の3人で中庭の隅で弁当を広げていた。
「しっかし委員会も面倒な企画を立ち上げたよなあ。ミスコンなんて、出されるほうの迷惑とか考えろよな」
少し呆れ顔の秀一郎。
「そうだね。水着撮影はちょっと恥ずかしかったな」
その迷惑を被っているひとりが沙織。
少し地味だが美女レベルは相当なものなので、文芸部代表に選ばれていた。
「あたしも文芸部に所属したいです」
もうひとり、真緒はもっと困り顔。
去年は映研だったが、今年は現在フリー。
そして小柄だが、こちらもかなりの美少女。
各部の真緒争奪戦が日に日に激しさを増している。
それから逃れるため、こうして目立たないところでひっそり弁当を広げる羽目になっていた。
「けどいくら一発逆転の可能性があるとは言え、冷静に考えれば軽音が圧倒的有利だろ。なんせ槙田がいるからな」
「佐伯くんは槙田さんがお気に入り?」
「いや、あんなのは御免被る。けどミスコンって要は見た目とインパクトだろ。あいつ美人だし背も高くスタイルいい。それに何より目立つ。最大の問題は性格だが、そんなの猫かぶりされればわからん」
「そうだよね。あたしも槙田さん有利だと思うんだけど、みんなプレッシャーかけて来るんだよね。あたしなら勝てるかもって。自信ないなあ」
少し憂鬱そうな沙織。
「あと水着はまあしかたないとしても、本戦出場者のコスプレが嫌です。なんか変な服を着せられそうで・・・」
真緒も嫌な顔を見せる。
「まあ真緒ちゃんなら、いわゆるゴスロリ系ってのが確率高いだろうな。槙田とは真逆のパターンで勝負だな」
「それってお人形さんが着てるようなヒラヒラがいっぱいの服ですよね。あたしそーゆーの生理的にダメです」
さらに嫌な顔になる。
「そもそも真緒ちゃん、出る気あるの?」
「正直、あまり気乗りしません。けどあの子がまた絡んで来たんです」
「まさか、槙田?」
「はい。ミスコンであたしと勝負しろって。そう言われるとなんか出ないと逃げたと思われて、それはちょっと悔しいかなとは思うんです」
「それで勝負とは、槙田も結構ズルい性格だな。自分が圧倒的有利なのわかって言ってるだろ」
「あと、センパイまであたしがあの子に勝てないと思われてるのもちょっと・・・」
かなり悔しそうな顔を見せる真緒。
「ちょっと真緒ちゃん落ち着けよ。そりゃトータルじゃ真緒ちゃんのほうが圧倒的に勝ちだと思うよ。かわいいし性格いいし強いしで無敵じゃん。でもミスコンって舞台では分が悪いよ。背の高さとスタイルのよさが武器になるからな」
「やっぱり背が低くて貧相だと勝てないですか?」
「真緒ちゃんは貧相じゃなくてスレンダー。まあ好みは別れるけど、俺は好きだよ」
「なんかセンパイにそう言ってもらえたら、少しやる気が出てきました」
「えっ、出るの?」
少し驚く。
「はい。あの子の挑発に乗るのはちょっと抵抗ありますけど、でも負けたくないんで」
「でもどこから出るの?映研は1年生のかわいい子を代表にしたみたいだし、どこも争奪戦激しいから選ぶだけでも大変じゃない?」
沙織も気になる様子。
「仲のいい子が茶道部にいて誘われてるんで、そこにしようかと。それに茶道部なら本戦の衣装はほぼ決まりですから」
「あっ、そうか和服か。ちょい地味だけどインパクト高いかもな」
「真緒ちゃん、和服似合いそうだもんね」
「あたしなりに頑張ってみます。それに裏コンも気になりますし、もし勝てればうれしいことになりそうですから」
「そうだよね。裏コン気になるよね」
「裏コン?」
真緒と沙織の口から出たこの言葉の意味がわからない秀一郎。
「男子には内緒です。ちょっと楽しそうなサプライズイベントですね」
「いまの生徒会長って女子だから、男子には内緒で女子限定の集計イベントがあるの。だから悪いけど男子には内緒だよ」
真緒も沙織も楽しそうな笑みを浮かべていた。
乱泉祭1週間前。
校内に各部代表の女子の水着写真が貼り出された。
必然的に男が群がる。
「やっぱ槙田涼だよなあ。いい身体してるし美人だもんなあ」
「赤のビキニってのもエロいな」
「いや、桐山もなかなかいいぞ。ちょっと水着が残念だけどな」
「そうだなあ。もう少し胸があればこの水着でもいいけどなあ」
ビキニが主流の中で、沙織は少し胸元が大胆に開いたパステルカラーのワンピース。
(確かに桐山ならビキニのほうが映えるだろう。けど着れないんだよな)
秀一郎の胸が痛む。
「う〜ん・・・」
どこかで聞いたことのある唸り声が耳に届く。
「なんだ若狭か。なに見てんだ?」
正弘は真緒の写真を凝視していた。
「なあ佐伯、これって真緒ちゃんだよな?」
「当たり前だ。けど茶道部はセンスいいな。かわいい水着で好印象だな」
花柄のパレフ付きビキニは他の写真とかなり趣が異なり、真緒のかわいらしさを引き立てている。
「でもこの身体のラインは奈緒ちゃんだよなあ・・・」
「は?お前どこ見てんだ?」
「いや去年の夏休みに行った海だよ。奈緒ちゃんと真緒ちゃんって顔はそっくりだけど身体つきは結構違った。奈緒ちゃんはふっくらしてて真緒ちゃんはスレンダーで健康的。けどこの写真の身体のラインは奈緒ちゃんだ。少し痩せた奈緒ちゃんって感じだ」
「まあ、あれから1年以上経ってるからな。真緒ちゃんも成長したんだろ」
「まあ、そうだよなあ」
(ふう、なんとかごまかせたな)
正弘の眼力の鋭さに少し冷や汗をかいていた。
真緒を抱くようになってから、身体つきが奈緒に似てきたことに気付かれるとは思わなかった。
(あの外村って社長の言ってた通りだな。男を知ると身体つきが変わるって本当だったんだな)
真緒の体型の変化を目の当たりにして、そう実感していた。
そして乱泉祭当日。
よく晴れた朝だった。
予報では天気が崩れる心配はない。
朝1番、校庭に人だかりが出来ていた。
実行委員会長であり、生徒会長の開会宣言が始まる。
「けどなんでこんなに集まってんだ?しかも女子の比率が高いな」
「なにか特別企画でもあるんじゃないの?」
隣の奈緒は特に気にしていない様子。
今日は一日デートのつもりで来ている。
秀一郎はクラスの女子からここにいるように言われたが、これだけ女子が多いと落ち着かない。
仮設ステージに生徒会長が上がった。
その脇には大きなボード。
『おはようございます。これより今年の乱泉祭を開会します!』
観客が沸き返る。
『では早速、裏コンの発表をしたいと思います!』
女子が沸き上がる。
『裏コンとは女子限定で委員会が秘密理に進めたミスコンと並ぶイベント、ズバリ!』
ボード上部の紙がめくられた。
『ミスター泉祭だあ!』
さらに沸き上がる女子。
「ミスター泉祭だって?つまりミスコンの男版か」
『この学校のほぼ全ての女性が選んだ泉坂1番人気の男を発表します。ひとり一票ずつ集計した人気ランキング!実は集計にかなり手間がかかった。なんせ上位陣は大接戦。何度も再集計を繰り返した。じゃあまず6位から10位を発表!』
下部の紙がめくられ、クラスと名前が表示される。
「へえ、こんな順位なんだな。それに先生まで対象なんだ」
生徒に混じって教師の名前も記載されている。
「秀、入ってないね」
少し残念そうな奈緒。
「そりゃ無理だって。要はミスコンの男版だ。背が高いイケメン連中が中心だよ。まあ上位陣も大体想像つくな」
そして5位からひとりずつ発表される。
そのたびに女子たちのボルテージが上がる。
4位、3位、2位と発表されていく。
「あれ、おかしいな?」
1位を獲ってもおかしくないイケメン勢が全員名前を連ねた。
ひとり足らない。
『さあ、混戦を征した第1位は・・・』
最後の紙がめくられた。
『3年6組、佐伯秀一郎!』
ドッと歓声が沸き起こる。
「お、俺?」
さすがに驚く。
さらにあっという真に周囲を女子に囲まれた。
「佐伯くんおめでとう!」
「やっぱり佐伯くんがふさわしいよね!」
知らない女子から次々と祝福の声。
『さあ、栄えある1位を獲った佐伯にはいろいろ魅惑的な特別待遇を用意してある。さらにミスコンのプレゼンターになってもらいミス泉祭と一緒に並んでもらう。男女のトップが並ぶのは必見だぞ!』
(ってことは、今日の俺は一日縛られることになるのか・・・)
少し気が重い。
「ちょっと待ちなさいよ!」
(なっ、あいついつの間に?)
奈緒がステージに上がり会長を怒鳴り付ける。
『おっとお、これは面白いゲストの登場だ。佐伯秀一郎の彼女、芯愛の小崎奈緒ちゃんだあ!さあなんの用だい?』
悪ノリした会長は奈緒の相手を始める。
「秀は今日一日あたしとデートするんだから!勝手に仕事押し付けないでよ!」
『まあ普通の男子なら彼女とのデート優先だろうねえ。けど佐伯は泉坂1番の男だ。その魅力を校内外問わず多くの女子に知ってもらうくらいやってもらわんとなあ』
「そうよそうよ!」
「普段わがままばっかり言って独占してるんでしょ!今日くらい開放してあげなさいよ!」
奈緒に野次が飛ぶ。
それを受けた奈緒はさらにヒートアップ。
「なに勝手なこと言ってんのよ!秀はあたしのものなの!誰も近付いちゃダメなんだから!」
駄々をこね始めた。
そこに真緒と里津子が表れた。
「奈緒、いいかげんにしなさい!」
「奈緒ちゃん、今日は諦めなよ。これ以上わがまま言ってると余計にみんなから反感買うよ」
ふたりで奈緒を背後から捕まえ、強引に引きずっていく。
「やだっ!秀はあたしとデートするの!お姉ちゃんもりっちゃんも放して!ちょっとお!」
奈緒は叫びながら引きずられて行った。
『まあ、とんだゲストだったが、佐伯なら上手く収めるだろう。というわけで佐伯、今日一日よろしく頼むぞ』
生徒会長がステージ上から秀一郎にそう呼び掛けると、周りを取り囲んでいる女子が拍手を始めた。
(やれやれ、今年はいろいろ面倒な文化祭だと思ったが、俺が1番の面倒をしょい込むことになるとはな)
予想だにしなかった事態に呆れるしかなかった。
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