regret-62 takaci様

26時15分。





湾岸線大黒パーキングに綾のポルシェが駐まっていた。





「よし、これで満足な状態になったかな」





笑顔の綾。





隣の淳平はやや疲れ気味の呆れ顔。





「いったい何馬力まで上げたんだ?」





「そんなに上がってないよ。ピークで600弱だから。それにスクランブル外したしね」





「あれで600以下なのか?とんでもない加速だったぞ。スクランブルモード以上だ」





「確かにスクランブルで800オーバー出てたけど、あれはオーバー200キロからの加速だから体感ではそんなに大きなGはかからないの。けどいまは常時600。低速からのフル加速は凄いよ。それに馬力以上に実用域のトルクを徹底的に増やしてるから、それが大きいかもね」





「多少の雨なんかお構いなしだな。見た目ほとんど変わってないけど、なんかまた迫力出たよな」





「前後とも限界ギリギリの太いタイヤに履き換えて少しトレッド増えたからだろうね。あと軽量化。50キロ落としたから」





「もう、どこでも敵無しじゃないか?」





「そんなことない、あたしより速い車はたくさんいるよ。それにやっぱり湾岸線では遅くなった。前はスクランブルで200マイル超えれたけど、今だと310キロってとこかな」





「それでも充分過ぎるほど速いけどな。で、こんな化け物どうすんだ?なんか目的あってこの仕様に仕上げたんだろ?」





「そうだね。あとは走り込んで向こうの出方待ちかな。あっちはまだ仕上がってないみたいだし」





「向こう?誰かと勝負するのか?」





「あたしはそんな気ないんだけど、向こうはやる気だから」





「いまさらこんなこと言っても無駄だろうけど、無茶だけはするなよ」





「大丈夫、無茶せずに速く走れる車にしたんだから」





心配顔の淳平に綾は笑顔を見せた。












2学期が始まった。





始業式とホームルームが終わり、あとは帰るのみ。





「センパイ」





真緒が秀一郎のクラスに顔を出した。





そこに沙織が駆け寄る。





「真緒ちゃん、身体は大丈夫?」





「はい。夏休みにセンパイからいっぱい元気をもらいましたから」





笑顔の真緒。





そこに秀一郎も歩み寄る。





「ホントに大丈夫?周りに変な動きとかない?」





心配顔の秀一郎。





「いまのところ大丈夫です。でも平気です。あたし奈緒ほど弱くないですから」





そう語る笑顔に不安は見られなかった。





「でも真緒ちゃんが元気になったなら、あたしの役目は終わりかな」





「あっそのことなんですが、奈緒がセンパイと御崎先輩に話があるそうです」





「えっ、俺と御崎?桐山は?」





「桐山先輩はいいそうです。ですから保留ってことでいいですか?今日中にはご連絡しますので」





「え、あ、うんわかった」





とは言いながらも戸惑い顔を見せる沙織だった。











そしていつものファーストフード店に集まった。





秀一郎の隣に奈緒、対面に真緒と里津子。





「結局、奈緒ちゃんはそのポジションを取り戻したのね」





「あたしはセンパイのおかげで元気になりましたけど、その代わりに奈緒が弱ってましたから。今の奈緒にはセンパイが必須なんです」





「ふーん、でも真緒ちゃん悔しくないの?」





「もちろん悔しいです。だから今度は正々堂々とアタックします」





と、澄んだ声で宣戦布告した。





「えっ?」





驚く里津子。





「とりあえず奈緒の精神を鍛えます。いまのこの子はセンパイに依存し過ぎです。ちゃんとひとり立ち出来るようにしてからですね。姉のあたしが妹を潰すわけにはいかないんで」





真緒も秀一郎の隣という位置はとても居心地がよく手放したくなかったが、その影で奈緒がボロボロになっていたことを知ると、すんなり身を引いた。





「それで奈緒ちゃんは佐伯くんの隣を取り戻したわけだ。お姉ちゃんに頭上がらないね」





「あたし頑張るもん!秀の隣は譲らないから!」





ぎゅっと秀一郎の腕を握る。





「でもあたしももう奈緒のフォローはしません。だからお弁当は届けません」





「そうそう、今日の本題はそれ。秀とりっちゃんにクレーム」





奈緒が目を吊り上げた。





「なんだよ?」





「なんで桐山さんのお弁当食べてたのよ?」





「え、だって弁当なかったし、桐山が作ってくれるって言ってくれたから」





「どさくさ紛れにそんなことしないでよ!桐山さんだって秀を狙ってるんだよ!」





半ベソの奈緒。





「でも俺としては昼飯代が浮くのはデカいんだよ。毎日学食だと結構な額になるんだぞ」





「そうかもしれないけど・・・りっちゃんもなんで桐山さんにそんなことさせるように言ったのよ?」





今度は里津子に矛先を向ける奈緒。





「え、だってあたし沙織の味方だもん」





「「え〜っ!?」」





奈緒と真緒が揃って不満を口にする。





「そりゃ奈緒ちゃんも真緒ちゃんもかわいいしいい子だと思うけど、やっぱあたしは佐伯くんと沙織がくっついて欲しいのよ。だからふたりの距離を縮めるために沙織にお弁当のこと話したの。こうやって背中押さないとあの子動かないからね」





「でももう桐山先輩にお弁当作ってもらうことはないです。代わりにあたしが・・・」





「それはもっとダメー!」





真緒の申し出を奈緒が遮った。





「なんで?」





「だってお姉ちゃんが本気でお弁当作ったら、今までのあたしの努力が水の泡になりそうだもん」





「えっ、真緒ちゃんも料理上手なの?」





意外な顔を見せる里津子。





「奈緒に料理教えたのはあたしです。あたしのほうがレパートリー多いから、センパイを満足させる自信はあります」





少し誇らしげな真緒。





「お姉ちゃんってホントにチートキャラだよね」





ボソッとつぶやく奈緒。





「ねえ、チートってどういう意味?最近ちょくちょく聴くんだけどさ」





里津子が尋ねてきた。





「ああ、ゲーム用語でインチキって意味。RPGでいきなりレベルマックスとか、格ゲーでパラメータが異常に高いキャラとか。要は常識はずれのポテンシャルを持ってるって捕えでいいと思う」





秀一郎がそう解説すると、





「なるほどねえ。頭よくてスポーツ万能でケンカ最強、家事に料理も出来ておまけにかわいくて性格もいいか。確かにインチキだね」





「そんなことないですよ。あたしは普通なだけです。奈緒がちょっと出来ない子なんで」





「出来ない子でいいもん!秀に愛されてればそれでいいんだもん!それにベッドの上ならお姉ちゃんに負けないもん!」





「なっ、お前・・・」





赤くなる秀一郎。





「そんなのたいしたアドバンテージにならないよ。あたしもセンパイにいろいろ教わったから」





真緒も引かない。





「じゃあ秀の○★×※・・・」





「あたしだってセンパイに×¢∧∽・・・それに奈緒は※☆〇だから・・・」





姉妹で危ない会話が始まった。





ゴツン!





パシン!





「きゃん!?」





「きゃっ!?」





秀一郎が奈緒にゲンコツを落とし、里津子は真緒のおでこをはたいた。





「ふたりともやめろ。そーゆー話は自分の部屋でしろ」





頬を赤くしつつも一喝する秀一郎。





「でも佐伯くんもある意味インチキキャラだよね。双子の姉妹両方に手を出しておいて、そのふたりからこんなに愛されてるなんてさ。普通なら泥沼だよ」





軽蔑の眼差しを向ける里津子。





「まあ、否定はしないよ。俺は幸せ者だと思ってる」





「センパイが望むなら、あたしはいつでもOKですからね」





「ちょっ、真緒ちゃん、冗談はやめてよ」





驚く秀一郎。





「えっ、もう抱いてくれないんですか?」





悲しい顔を見せる真緒。





「奈緒とヨリ戻したから無理だよ。それやったら完全に浮気だ」





「でも、センパイに抱いてもらえると元気が出るんです。自信が持てるんです。だから・・・ダメですか?」





「別にあたしはいいよ」





奈緒があっさりと認めた。





「コラお前、簡単に言うな!そんなの認めるな!」





「秀はあたしが他の男に抱かれたら嫌?」





「当たり前だ!」





「ふふっありがと。そう言ってもらえると嬉しいな」





「話を逸らすな。とにかく付き合ってる男に他の子を、ましてや実の姉を抱かせるなんて間違ってるぞ」





「そうかもね。でもお姉ちゃんならしかたないよ。お姉ちゃんも秀に頼らないとダメなんだもん。だから特認。けど他の子はダメだからね」





「しかたないで済ますな。お前だって嫌だろ?」





「でも秀はあたしだけで満足なの?」





「は?」





奈緒の言っている意味がわからない。





「おっとお、これは聞き捨てならない意味深な発言だね」





里津子が突っ込んできた。





「あのね、秀ね・・・」





女3人顔を寄せ合いひそひそ話。





だが会話の内容が秀一郎の耳にも届く。





「え〜っ、佐伯くんそれはないよ。そりゃ奈緒ちゃん不安がるよ」





非難の目を向ける里津子。





「そうか?でも俺は女の子が喜べば嬉しいからなあ。へとへとにさせるのが好きだから」





「で、佐伯くんは余裕なんだ。でもそんな風にされれば奈緒ちゃん夢中になるよ。真緒ちゃんもそうだった?」





「その・・・あたしは・・・なんか知ってはいけない快楽に溺れさせられたみたいで・・・」





顔を真っ赤にして暴露する真緒。





「そうなんだよねえ。秀ってホントに気持ちよくしてくれるんだよねえ。全身が快感に包まれて、我を忘れるって言うか、記憶が飛んじゃうくらい凄いもんねえ」





奈緒が危ない顔を見せる。





「あたしは奈緒ほどの快感を味わったことはないと思いますけど、でも感じてみたいなあ・・・」





姉妹揃って危ない顔。





「佐伯くん、完全にこのふたりを支配下に置いちゃってるね。ある意味凄いよ」





冷やかす里津子。





「俺は普通にやってるだけだよ。けどふたりの相手なんて・・・はあ・・・」





思わずため息が出た。





「なんでそんな重い顔してんの?男が夢見るハーレム状態じゃない」





「それで済むわけないだろ。常識はずれのことをやるんだから無理が出るに決まってる。奈緒だけで手一杯ってのに真緒ちゃんまで加わると、そりゃ大変だぞ。それに後ろめたい気持ちはどうやっても隠せない」





「それだけじゃなくて沙織も加わるんだよ」





「お前本気で言ってるのか?理由はどうあれ二股かけてる男だぞ。そんな奴に親友を推すのか?」





「それだけ佐伯くんが女の子にとって人気者ってことだよ。ま、頑張って。あたしに出来ることならフォローするから」











結局、本題の弁当については真緒が作るという案を奈緒が却下し、秀一郎も弁当が必要だと押し切ったので、沙織に作ってもらうことで折り合いがついた。





翌日、沙織は笑顔で弁当を渡し、ふたりで昼食を囲む。





「佐伯くん、奈緒ちゃんとなにかあったの?」





「あると言えばあるし、ないと言えばない」





答えようがない現実。





「ふうん。あ、佐伯くんの好みとかあったら教えてね。いろいろ工夫してみるから」





「ああ、ありがとう」





沙織の笑顔が秀一郎の心にチクリと痛みを与えた。





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