regret-50 takaci様

バイト中に奈緒から、





『ダブルデートの打ち合わせしたいからバイト終わったら顔出して』





とメールが来た。





そして指定のファミレスに出向くと、





「秀、こっち」





奈緒が呼ぶと、そこに菅野の姿もあった。





「秀、お疲れ」





「ああ。ところでどんな話になってんだ?説明してくれ」





「秀、和くんは頑張ってたんだよ」





「小崎、頼むからその呼び方は止めてくれ」





「なによお、りっちゃんはよくてあたしはダメなわけ?」





「御崎にも止めてほしいんだが、あいつなりに俺の壁を少しでも引くしたいって表れだからな。けどそう呼ばれるのはマジで照れるしガラじゃねえ」





「そう言えばお前って和正って名前だったな」





菅野の下の名を思い出した秀一郎は、すっかりいつもの威厳が消えて照れている芯愛の番格の一面に驚いていた。










学園祭で知り合った菅野と里津子はその後も何度か会って親睦を深めていた。





互いのメアドを交換し、毎日やり取りを交わしている。





「俺もいろんな女と遊んできたが御崎みたいなその・・・普通の子は初めてなんだ。だから俺なりに一歩一歩ずつ確実に距離を詰めていってたんだが、この前御崎が過去の苦い出来事を話してくれたんだ。まだその傷は癒えていない。なんとかしてやりたいがどうすりゃいいのかわかんねえ。情けない話だがな」





「それって御崎が中3の頃の話か?」





「知ってるのか?」





意外そうな顔を秀一郎に向ける菅野。





「夏休みにみんなで旅行に行ったんだが、その時に話してくれた。ただそのことを知ってるのはほとんどいないはずだ。親友の桐山も知らない。重い話だからな」





「けどお前には話したのか」





「成り行きでな。だからって俺と御崎はただの友達だ」





「ねえ、それってどんな内容なのよ?」





この事実を知らない奈緒が秀一郎に噛み付いてきた。





「絶対にオフレコだぞ。守れるな?」





秀一郎が釘を刺すと、奈緒は神妙な表情で頷いた。





秀一郎は夏休みにケンカになった3人組と、御崎本人が過去に被った心の傷になった事件について話した。





「りっちゃん、そんなことがあったんだ・・・」





暗くなる奈緒。





「まだ睡眠薬に頼っているって聞いたから、心の傷は癒えてないだろう」





「佐伯、お前は御崎を襲ったふたりの男は見たんだな?」





「ああ、いかにもガラの悪そうな奴らだったが、後で聞かされてさすがに驚いた。分かってたら何発かぶん殴ってるところだ」





「俺も許せねえ。御崎にそんな深い傷を負わせてのうのうと生きてるなんて・・・ぶん殴るだけじゃ気がすまねえ」





菅野の拳が怒りで震えている。





「変な気は起こすなよ。確かにクズな野郎共だが、今はバックにヤクザの影がある。下手に手を出したら面倒なことになるぞ」





秀一郎がたしなめる。





「そうか。俺もその気になればその筋のパイプはあるが、使いたくねえしな。あんなクソ親父の世話になんかなりたくねえ」





「そういえばお前の親父さん、本職なんだって?」





「ああ。ただお袋と籍は入れてねえ。ああいう仕事に家族ってのはいろいろ面倒なことになるみたいだ。だから正式な親父じゃねえ。そもそも数年に一度会うか会わないかってくらいの接点しかねえからな」





「そっか。お前もいろいろ大変そうだな」





「俺は俺でいるつもりだが、どうしても親父の影がちらつく。だからそれだけでビビって避けられてんだよ。まあ慣れたけどな。でもそんな俺でも小崎は普通に接してくれてる。それに御崎もそうなんだ。御崎はマジでいい子だ。俺にはもったいないくらいのな。だから今でも考える。俺の気持ちは伝えないほうがいいんじゃないかって・・・」





弱気な一面を見せる菅野。





「なに言ってんのよ!惚れたなら伝えなきゃダメに決まってんでしょ!」





そんな菅野に怒る奈緒。





「けど、やっぱ自信ねえんだよ。特に男に襲われてそれがトラウマになってる子に、俺がなにが出来るか全くわかんねえ」





「なんでそんなに弱気なのよ?あんたもそれなりに女の子と付き合って来てるんでしょ?」





「だから今まで付き合って来たのは、こんな言い方しちゃいかんかもしれんが、俺みたいなはみ出し者みたいな軽い女ばかりなんだ。だから特に大切にしてたわけじゃないし、遊び半分で付き合ってたみたいなもんだ。けど御崎は普通に、大切にしたいんだ」





「まあ、あんたも軽い気持ちで女遊びしてたわけね」





少し呆れ顔を見せる奈緒。





「菅野、お前が真剣に御崎を想ってるのはわかった。だったら自信をもってその気持ちを伝えればいいと思うぞ」





「けど、やっぱ自信がねえんだ。振られるのが恐いってわけでもねえが、俺の気持ちを伝えることで御崎が負担に感じるかもしれねえ」





「それは心配ないと思うけどな。御崎ははっきりした子だから、嫌いな奴とメアド交換するようなことはしない。さらにお前を下の名前で呼んでいる。かなり好感度は高い気がするな」





「そうだよ!だから自信持って、今度のデートでコクるんだよ!」





「こ、今度のデートでか?」





自信なさ気な顔を見せる菅野。





「なに今更弱気になってんのよ!そのためのダブルデートじゃないの!あたしと秀でフォローするから、あんたはちゃんとりっちゃんのハートをゲットするんだよ!」





菅野に対し強気の奈緒。





「けど具体的に俺たちはなにするんだ?てかどこに行くんだ?」





秀一郎はまだなにも聞いていない。





そこで奈緒はダブルデートの作戦を説明した。





「そんなんでいいのか?俺たちはただ普通にデートするだけじゃねえか?」





秀一郎は奈緒の作戦に疑問を持つ。





だが奈緒は自信の笑みを見せ、





「だからあたしと秀の普通のデートを見せ付けるのよ。それだけで充分煽る効果あるから。あとは菅野がいつもより積極的にりっちゃんをエスコートするの。いい?」





菅野に鋭い視線をぶつける奈緒。





「け、けど・・・」





「ここまで来たなら腹くくりなさい!男でしょ!」





さらにハッパをかける。





「わ、わかった。じゃあ当日はよろしく頼む」





菅野はふたりに深々と頭を下げた。





そして当日。





4人は駅前に集まった。





電車に乗って目的地の遊園地に向かう。





里津子はいつもと変わらず、相変わらず明るい。





ただ菅野の顔色から緊張が伺えた。





「コラッ!なにシケた顔してんのよ!もっと楽しそうにしなさいよ!」





奈緒が早速激を入れた。





「和くん、どったの?」





里津子も心配そうな顔を向ける。





「ははーん、あんたひょっとして絶叫マシン苦手なんでしょ。芯愛の番長がそんなんだと示しがつかないもんね」





奈緒がからかうと、





「なに言ってんだよ。あんなの屁でもねえ」





「じゃあもっと楽しそうにしなさいよ。せっかくの遊園地なんだからさ。ねっりっちゃん」





「そうそう。とにかく今日一日楽しもうね!」





「お、おうよ!」





里津子が笑顔を見せると、菅野も笑顔になった。





(まあ菅野はそれどころじゃないだろうな。どうせコクることで頭がいっぱいだろ)





どうやってフォローするか秀一郎は策を巡らせていた。





そして遊園地に着くと、まずは4人一緒に行動した。





いろんなアトラクションを巡る。





ただ遊園地の乗り物はふたり一組で設定されているものが多い。





秀一郎と奈緒はペアになるので、菅野と里津子がペアになる。





菅野も次第に緊張が溶けてきたようで、里津子と楽しそうに話していた。





そして今日の奈緒はいつも以上に秀一郎に甘えていた。





昼食後、





「ねえ秀、これからふたりで廻ろうよ!」





奈緒がわがままを言い出した。





「は?せっかく4人で来てんだ。みんなで廻ったほうが楽しくないか?」





「え〜。秀とふたりっきりがいい〜。そうしようよ〜」





駄々をこね始めた。





「佐伯くん、廻ってきなよ。奈緒ちゃんがそうなったらどんなに言っても無駄でしょ」





苦笑いを浮かべる里津子。





「スマン。じゃあ菅野、御崎を頼む」





「あ、ああ」





この時、菅野は少しばかり緊張の色を見せていた。





奈緒は立ち上がると菅野の肩をポンと叩き、





「秀、行こ!」





秀一郎の腕を取って歩き出した。





「お前なあ、こんな時までわがまま言うなよ」





呆れる秀一郎。





だが奈緒は真顔で、





「違うよ。作戦。菅野とりっちゃんをふたりっきりにさせるためのね」





と打ち明けた。





「こんなに早くか?もうちょっと団体行動してからのほうがよくないか?」





「かもしれないけど、タイミングがないかもしれないじゃない。まあこれからは菅野の頑張り次第ね」





「俺的には結構いい感じのふたりに見えたがな」





「そうだね。でも今はそのことは忘れて遊ぼ!」





「お前、ただ甘えたいだけだろ」





「いいじゃん、デートなんだからさ」





「まあな」





秀一郎も奈緒に甘えられるのは嫌いではなく、むしろ心温まる一時だった。





そしてふたりで遊び倒した。





夕闇が迫る頃になると、この時期限定のイルミネーションが園内全体を彩る。





ロマンチックな光に包まれながら寄り添うカップルが目立つ。





秀一郎と奈緒もそのひとつになっていた。





「そろそろ帰るか」





「そだね。んじゃりっちゃんにメール打つよ」





出入口でしばらく待っていると、菅野と里津子の里津子の姿が見えた。





「秀、あのふたり!」





はしゃぐ奈緒。





「菅野、やったか」





秀一郎も笑みがこぼれる。





ふたりは恥ずかしそうな表情で、しっかりと手を繋いでいた。





「佐伯、小崎、いろいろありがとう」





幸せそうな笑みで菅野が礼を述べた。





「とりあいずふたりとも、おめでとさん」





「ありがと。けどちょっと照れるね」





頬を朱に染める里津子。





「そんなのすぐに慣れるよ。とにかく菅野はりっちゃん泣かせるようなことしちゃダメだからね!」





「ああ、分かってるよ。これからもいろいろよろしくな」





4人揃って幸せいっぱいの笑みを見せていた。





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