regret-47 takaci様
12月。
期末テストも終わり、短縮授業になっている。
「おっす佐伯くん、ダメもとで聞くけどクリスマスイヴって予定空いてる?」
里津子が明るい顔で尋ねてきた。
「スマンが予定入ってる」
「やっぱりね。奈緒ちゃんとふたりきり?」
「ああ、今年はな」
「去年は違ったの?」
「あいつ受験生だったからな。向こうの家族に俺が混ざってホームパーティーやった」
「へえ、じゃあ真緒ちゃんも一緒?」
「ああ。俺としてはそーゆークリスマスの過ごしかたもいいと思うんだが、あいつはふたりきりがいいらしい。気持ちはわからんでもないがクリスマス価格は痛い。いろんなとこが割高だからな」
「そーゆーデート費用って佐伯くんが全部出してるの?それって甘やかし過ぎじゃない?」
「もし機会があればぜひお前から言ってやってくれ。あいつは自分の財布は滅多に出さん」
「じゃあ自分のお金はどこで使うの?」
「あまり使わんな。こつこつと貯金してるらしい。本人は将来のためと言っとるがどこまで本気かわからん」
呆れ顔の秀一郎。
「でもイヴ一日ふたりっきりであることもないでしょ?夏の旅行メンバーで集まって楽しく騒ごうって思ってるんだけどどうかなあ?みんなで出し合えばそんなにお金かかんないし、たぶん楽しいよ。その後はふたりラブラブの夜を過ごせばいいんだからさ」
「うーん、俺的にはありがたいけど、あいつはなあ・・・」
秀一郎は難しい顔で携帯を取り出し、メールを打つ。
送信して、ほどなくして返信がきた。
「やっぱりな」
秀一郎は画面を里津子に見せる。
「ありゃ、ダメか」
画面には、
『却下。イヴはふたりっきり!』
と簡略な文面が表示されていた。
放課後。
弁当箱を真緒に届け、そのまま帰る。
そこになぜか里津子もついてきた。
「ねえ真緒ちゃん、奈緒ちゃんをウチらのパーティーに誘えないかな?どうせなら夏と同じ面子でやりたいんだよ」
里津子はまだ諦めていない様子だった。
「うーん、でも奈緒は今年のイヴはセンパイとふたりっきりで過ごすのを前から楽しみにしてましたから。あとあの子は駄々っ子なので一度決めたことを変えさせるのは難しいと思います」
真緒も難しい顔を見せた。
「そっかあ。奈緒ちゃん気が強いしわがままだもんなあ。あ、でも佐伯くんはそんなとこが好きなんだよね」
「それは誤解だ。俺からすれば直して欲しい一面だ」
「でも大人しい奈緒ってのも嫌じゃないですか?」
姉が突っ込む。
「まあなあ。でもあいつの場合だと大人しい=元気がないになるからな。それは心配なんだよ」
そんな会話をしながら廊下を歩く。
「おい、佐伯秀一郎」
そこに後ろから声をかけられる。
振り向くと、
「げっ、お前か」
秀一郎は嫌な顔を見せる。
この前、いきなりケンカを売ってきた槙田涼が鋭い目つきで睨んでいた。
「いい気なもんだな。恋人以外の女を複数連れて堂々と歩くとはね」
「勝手に誤解すんな。友達と一緒に歩いて何が悪い?」
「友達ね。じゃあそっちのふたりに聞くが、この男を本当に友達だと割り切ってるの?」
涼は里津子と真緒に鋭い視線を向ける。
「いや〜いい友達でありたいとは思ってるけど、佐伯くんならそれ以上でも全然OKだよあたしは」
「お、おい御崎!?」
里津子の発言に慌てる秀一郎。
「あたしはセンパイの恋人の姉。それ以上でもそれ以外でもない」
「じゃあ妹がいなかったらどうする気?」
「それをあなたに答える義務はない。けどセンパイは素敵な人だと思う。あたしが言えるのはそれだけ」
(真緒ちゃんも微妙な言い方だなあ)
さらに困る秀一郎。
「どうだ佐伯、お前がフラフラしてるから多くの女の心を惑わせてるんだ」
我が意を得たとばかりの勝ち誇った顔で指摘する涼。
「とんだ言い草だな。俺は複数の子とは付き合ってない。ただ好感を受けるだけでそこまで言われる筋合いはない」
「周りが納得するような付き合い方をしてれば文句なんて言わないよ。けどお前はそうじゃない」
「なに?」
カチンと来た。
「ま、まあまあふたりとも落ち着こうよ。こんなとこで立ち話もなんだし、移動しよ!」
緊迫した空気を感じ取った里津子が笑顔を繕い、とりあえずこの場を収める。
そして4人は購買の食堂に赴いた。
里津子が自販機で人数分のコーヒーを買い、それぞれの前に置く。
「とにかく落ち着いて話そうよ。頭がカッカしてたらまともな話にならないし、また乱闘騒ぎになっちゃうよ。これ以上先生に睨まれるのはマズいでしょ」
秀一郎と涼に目を向け、場を和ませようと気を配る里津子。
「俺はそもそもこいつとやり合う理由はない。ただ一方的に襲われただけだ」
「まあ、あれは謝る。けどあんたという男がどんな奴か見るにはああするのが手っ取り早いから。大概の男は逃げるけどお前は逃げなかった。そこは褒めてやるよ」
「そりゃどーも。けどお前から褒められても嬉しくないけどな」
秀一郎は不機嫌な表情を崩さない。
「と、ところで槙田さんはなんで佐伯くんにケンカ売ったの?やっぱりあの噂が許せなかったから?でもあれって完全デマだよ」
里津子が涼にそう振ると、
「あたしだってまともに信じたわけじゃない。それ以上にこの男の態度が許せなかっただけ」
と口にした。
「何がどう不満なんだ?はっきり言えよ」
秀一郎が詰め寄ると、
「じゃあはっきり言うよ。なんで桐山先輩と付き合わないの?」
「な、なんだよそれ?」
「とぼけんじゃないよ。桐山先輩の気持ち気付いてないほど鈍くないだろ。9月のあの通り魔事件、あんたをかばって刺されたあの人の気持ちになんで応えないの?」
「応えられん。俺には奈緒が、ちゃんと彼女がいる。そもそも桐山からコクられてもいないんだぞ。それでどうしろってんだ?」
「今の彼女を振ればいいじゃない。あんたがフリーになって桐山先輩にコクれば万事解決よ」
「お前、ふざけたことを言うな。なんで俺が奈緒を振らにゃならんのだ?理由がない」
「そんなのどうだっていいでしょ。別に好きな子が出来たなら立派な別れる理由じゃない?」
「お前なあ・・・」
秀一郎は怒りを通り越して呆れていた。
「いくらなんでも勝手言い過ぎよ。それにあの子は、奈緒は簡単には別れない。本当に真剣にセンパイを心から想ってるの。センパイだって奈緒を大切にしてくれてる。そんな関係のふ
たりを引き裂こうなんて根本的に間違ってる」
真緒の熱い口調には涼に対する非難がはっきりと感じられる。
「でもねえ、沙織からすれば佐伯くんがもしフリーになれば、いい展開だよね。そうなれば佐伯くんとくっつけるし」
里津子は涼寄りの言葉を口にした。
「御崎までそんなこと言うなよ。しかも真緒ちゃんの前だぞ」
「あ、ゴメン。でも真緒ちゃんも・・・」
「はい、わかってます。桐山先輩の気持ちは。でも、奈緒も真剣なんです。だからセンパイはものすごく難しい立場だと思ってます」
「別に難しくない。俺は奈緒と別れる気はない」
「センパイ、そうやって自分に言い聞かせてませんか?」
「なんだよそれ?」
真緒が思わぬ問いをぶつけてきた。
「姉として、奈緒を大切にしてくれてるのは嬉しいです。でもそれは本当にセンパイの本心なんですか?桐山先輩のことを本心から友達と割り切ってるんですか?」
真っすぐな瞳をぶつけてくる。
こうされると秀一郎は嘘をつけなかった。
「そりゃあ桐山はいい子だ。一緒にいると落ち着くっつーか、和むよ。ぶっちゃけ言うなら桐山はアリだよ。けど、だからって奈緒を失ってまで桐山を選ぼうとは思わない。奈緒は大切だ」
「じゃあ脈はありってことだね?」
涼が嬉しそうな顔で突っ込んできた。
「だからって桐山は選べんぞ」
そんな涼にあらためて釘を刺す秀一郎。
「もうさあ、いっそのことふたりと付き合うのもアリだと思うなあ。あたしはそれで沙織が幸せならそれでもいいと思う」
爆弾発言を口にする里津子。
「お前はまた・・・それって俺のこと完全に無視してるだろ。ひとりで充分手を焼いてんだ。んなこと無理だっつの」
呆れる秀一郎。
「手を焼くってことは、負担になってるんじゃないの?」
「そうそう。それに沙織ならそんなに手を焼かないよたぶん。あの子奈緒ちゃんと違ってわがままなんて言わないし」
涼と里津子が揃って沙織を推してきた。
「お、お前ら・・・」
秀一郎は言葉が出ない。
「センパイ、姉のあたしがこんなこと言っちゃダメなんでしょうが、結果的に奈緒を振ることになっても構わないと思います。それで奈緒が悲しんでも、それが現実なら受け入れるしかないんです。だからセンパイは自分の気持ちに正直になって選んでください」
真緒まで沙織を推すような言葉を口にする。
「ちょ、ちょっと、だから俺は奈緒を選ぶってんの!いろいろダメなところある子だけど、俺はそんな奈緒が好きなんだよ」
「そこまで奈緒ちゃんがいいんだあ。それって・・・奈緒ちゃんの身体ってそんなに魅力的?」
今度は際どい言葉を口にする里津子。
「お、お前、身体って・・・」
それを受けた秀一郎は少し赤くなる。
「いまさら隠さなくてもいいじゃん。夏休みの旅行でもヤッてたんだし。奈緒ちゃんとのエッチってそんなに楽しい?」
「そんなこと聞くな!言えるわけないだろ!」
「で、でも奈緒は・・・楽しいって言うか・・・センパイと一夜過ごした翌日はいつも上機嫌ですね。ホント幸せそうに見えます」
真緒が顔を赤くして暴露すると、秀一郎の顔もさらに赤くなった。
「そっかあお互い満足してんだあ。そうなると沙織はちょっと難しいかなあ。いくらなんでも付き合う前にエッチしちゃうのはさすがにどうかと思うし。槙田さんはどう思う?」
「どうって・・・その・・・あの・・・」
(ん?)
秀一郎も真緒も顔が赤かったが、涼はそれ以上に真っ赤で完全に固まっていた。
「なんだお前、威勢いいわりにはこーゆー話ダメか」
秀一郎は意外に感じた。
「いや・・・その・・・あの・・・ダメって言うか・・・よくわかんないし・・・」
さらに赤くなる涼。
そんな様子に里津子は、
「でもねえ槙田さん、付き合うってことはそーゆーことも考えなきゃならないの。そりゃ恥ずかしいけど、これくらいで固まってたら恋話なんて出来ないよ!あなたも好きな男とそんな状況を想像したりしないの?」
すっかり弱気になった涼を煽る。
「ええっ!?そ、そんな・・・あたしは・・・」
もはや木刀で襲い掛かって来た時のような気迫はない。
(こんな奴でも女の子なんだな)
真っ赤になっている涼を見て、秀一郎はあらためてそう感じていた。
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