regret-45 takaci様

「うーっ、さぶっ・・・」





修学旅行が終わると、一気に寒さを感じるようになった。





2年生の2学期ももう終盤。





そろそろ進路について真剣に考えなくてはならない。





秀一郎は弁護士志望なので文系の法学部への進学を考えているが、それに否定的な考えを持つ教師もいる。





秀一郎の成績は学年内でもさほど悪くはないが、中でも技術は学年トップ。





理系の成績も良いほうである。





理系の担当教師からは理系学部の進学への切り替えを奨められていた。





「佐伯はいいよな。選べる進路がたくさんあってよお」





皮肉る正弘。





「けどいまさら理系に切り替えろって言われてもなあ。絶対不利だし3年に苦労するのは目に見えている」





「んで、黒川との面談は終わったんだろ?」





「ああ。志望は変えんと言った。理系に行ったらそのまま親父の会社を継がされるような気がしてな。まあ物造りは嫌いじゃないけど仕事でやりたいとは思わん。両親共々散々苦労してるの見てるからな」





「そっか。ところで別の話だが、修学旅行の時に桐山となんかあったのか?」





「な、なんだよ急に?」





少し焦る。





「お前、少し噂になってるぞ。どうやら初日に別行動してたのを見てた奴らがいるらしい。お前は奈緒ちゃんと桐山で二股かけてるって言われてるぞ」





「んな訳あるか。桐山とはなんにもねえよ」





そう否定しても、正弘は疑惑の目を向ける。





「なんだよその目は?」





「お前と桐山、修学旅行から、正確には修学旅行の初日に別行動してからおかしいぞ。あまりしゃべってないし、なんかよそよそしい感じだ。絶対なんかあっただろ?」





「だから、なにもねえよ。ただそう見えるだけだっつの。お前までへんな噂広めるなよ」





秀一郎は正弘に釘を刺し、教室を出た。





「はあ・・・まずいなあ」





その後、屋上でひとりため息をつく。





(以前のように、ってわけにはいかないよな)





心にのしかかった重いものはずっと消えない。





沙織の身体に残った大きな傷跡。





(桐山は俺をかばって刺された)





(桐山は俺の代わりに死にかけた)





(桐山には俺のせいで、あの傷跡が残った)





否応なしに自責の念が強まる。





そう感じるようになってから、沙織とうまく話せなくなっていた。





沙織も気まずく感じているようで、どこかよそよそしい。





「おっ、佐伯くんじゃん」





「ん?」





屋上に里津子が表れた。





「どうしたんだよ、こんなとこに来ると風邪ひくぞ」





「ちょっと冷たい風に当たりたくてね。面談ボロボロだったんだよ。このままじゃ志望校には絶対行けないって言われてさ」





苦笑いを浮かべる里津子。





「御崎は進路どうすんだ?」





「実はあまり考えてないんだよね。特に目標とかやりたい事もないし。近場で適当な大学行こうかなって思ってるくらい。けどあたしだと偏差値が全然足らないの。ほんとどうしよう」





「まあ地道にやってくしかないだろ。偏差値なんて急にどうにかなるもんじゃない。今から勉強始めるか、それか志望校のランク落とすかだな」





「あ〜あ。進路のことで悩みたくなんかないよ。もっと女の子らしい悩みがしたいよ」





「なんだよ、女の子らしい悩みって?」





「そりゃ男絡みの悩みかな。例えば、今の沙織の悩みとか」





「桐山の悩み?」





ギクッとした。





それが顔に表れる。





「沙織から聞いたよ。ふたりで行った関で何があったかね」





「そうか・・・」





「沙織はずっと隠しておくつもりだったみたいね。実際、女子でもあの傷跡を知ってるのはほとんどいないよ。あの子いつも下にタンクトップ着てるから体育の着替えでもわかんないもん」





「・・・」





「やっぱり責任感じる?」





「・・・ああ。男なら多少の傷跡くらいどうでもいいけど、女の子であれは目立ち過ぎる」





「そうだね。夏に着たあのビキニはもう着れないと思う」





この一言で、さらに心が重くなる。





「ねえ佐伯くん、沙織のこと、どう思ってる?」





「どうって、桐山は・・・大切な友達だ」





「友達以上になりたいって少しも思わない?」





里津子は真剣な眼差しをぶつけてきた。





「それは・・・無理だ」





「そっか、無理か。じゃあ質問変える。もし奈緒ちゃんがいなかったら、どう?」





「御崎、お前は俺になんて言わせたいんだ?」





「そんなの決まってる。沙織をちゃんと女の子として見て欲しい。友達とかじゃなくて、ちゃんと恋愛対象として見てあげて欲しい」





「それが・・・出来れば俺だって悩まない。けどそれは無理なんだ」





「そんなに奈緒ちゃんが大事?」





「お前、怒るぞ!」





さすがにカチンと来た。





「わかってる!佐伯くんが怒るのもわかる。けどだからって、沙織が普通の恋愛が出来なくなるのは嫌。大きな傷があっても本人が幸せで、周りも幸せに見えれば関係ないと思う。けど今の沙織は、そんなの程遠いんだよ」





里津子はとても悲しそうな顔を見せた。





「でも、どうすりゃいいんだ?俺たちに・・・俺になにが出来るってんだ?」





「付き合う付き合わないは本人の気持ち次第だからあたしは何も言わないし言えない。けど沙織をちゃんと女の子として見てあげて。奈緒ちゃんと比べてあげて。今の佐伯くんにとって奈緒ちゃんの居場所はまるで聖域。誰も立ち入れない。それじゃ沙織があまりにもかわいそうだよ」





「・・・なんで俺なんだ?他にもいい男はいるだろ・・・」





「・・・わかってるでしょ?だって沙織が好きなのは、佐伯くんなんだもん・・・」





言われるたびに心が重くなる。





他の人からも言われていた。





沙織の秀一郎に対する秘めたる想い。





だが秀一郎はそのたびに悩む。





「なんで桐山は言ってくれないんだ?他人から聞かされてもどうにもならん・・・」





「言ったところでどうにかなるの?」





「それは・・・」





里津子に返された直球に詰まる。





「今の佐伯くんにコクっても、奈緒ちゃんがいるから断るでしょ?沙織は余計に傷つく。今の友達の関係もなくなるかもしれない。それがわかっててコクれるわけないでしょ」





「でもだからってそれじゃどうにもならん。俺からは動けん。確かに桐山はいい子だ。でも、今の俺には奈緒がいるんだ」





「それでもいいよ。まずは試しでいいから、沙織をちゃんと女の子として見て、扱って、それで真剣に考えてよ」





「けどそれじゃ完全に二股じゃないか。そんなことは俺には出来ん。そんなハンパなことしたら桐山はもちろん奈緒も傷つける。確かに俺も桐山に後ろめたいような気持ちだ。でもだからって奈緒の気持ちを踏みにじることは出来ん」





「そんなに堅く考えなくていいってば!そもそも奈緒ちゃんは佐伯くんにベタ惚れじゃない。それくらいのことで壊れる関係じゃないでしょ?」





「お前なあ・・・奈緒はすぐグズるし落ち込むと大変な奴なんだよ。真緒ちゃんと遊びに行くだけでも不機嫌になるんだ。ましてや桐山をあんまりよく思ってない。桐山とデートなんて地雷があるとわかってて踏むようなもんだ」





里津子には怒りを通り越して呆れていた。





「だから、地雷踏んでよ。あたしも一緒に踏むから」





「は?」





「佐伯くんがひとりで全てしょい込むことはない。あたしを悪者にすればいい。あたしが黒幕になって、奈緒ちゃんの怒りをあたしに向けさせればいい。それなら多少は気が楽になるよね?」





里津子は笑えない冗談のようなことを真顔で言い切った。





「なんでお前がそこまでするんだ?いくら友達でも、やり過ぎだろ?」





「かもしれない。でも沙織の想いは叶えてあげたい。それがどんな困難でも、なんとかしたいの。あたし、あの子に会うまでは自分より不幸な女の子なんてそうはいないと思ってた。けど沙織は・・・あんなに辛い現実の子なんていないよ。親もいない。頼れる身寄りもいない。寂しい部屋で過ごすたったひとりの毎日なんだよ。だからせめて・・・あたしなんかで何か出来るならしてあげたいよ!」





「・・・わかった、もういいよ。お前の気持ちはわかった。少し考えさせてくれ」





秀一郎は低い声でそう告げ、屋上をあとにした。











(御崎の言うこともわかる。確かに桐山は不幸だと思うし、俺だってなんとかしてやりたい)





(けど、もし桐山が俺を好きだとして、俺が思わせぶりなそぶりを見せたら桐山はきっと期待する)





(それからどうするんだ?奈緒にはどうやって説明するんだ?あいつが納得するのか?)





沙織に対する気持ち。





奈緒に対する気持ち。





片方を立てれば、もう片方は立たない。





(桐山にはなんとかしてやりたい。でも奈緒を傷つけるような真似はしたくない)





なかなか答は出ない。











「佐伯秀一郎!」





突然、後ろから呼ばれた。





振り向く。





「・・・うわっ!?」





上から木刀が振り落とされる。





際どいタイミングでよけた。





「ちっ、よけやがったか」





(こいつ、女子・・・だな。なにもんだ?)





木刀を手にしたポニーテールの女の子が鋭い目つきで睨みつけていた。






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