regret-39 takaci様

(おっ、レス来てる・・・)





いつもの日常。





いつもの夜。





秀一郎は自室のパソコンでネットに繋いでいた。





毎日閲覧しているサイトのBBSに目を通す。





(ん?)





部屋の外が騒がしく感じた。





玄関の扉が開く音。





突然の来訪者のようで、母親が応対しているのがわかる。





だが特別慌てていない。





それは来訪者がよく来る者だからのようだ。





(相変わらず騒がしいな)





機嫌の良さそうな母親の声。





賑やかな来訪者は少し慌てているように聞こえる。





バタバタと階段を昇る足音。





ディスプレイ脇の時計を見る。





(9時過ぎかあ。これから送っていかなきゃならんのか)





面倒に感じる。





部屋の扉が開いた。





「秀!」





「ノックくらいしろ」





一言苦言を呈してから振り向く。





奈緒が慌てていた。





「なんだよいったいこんな時間に?」





だいたいのやり取りはメールで済ませるが、たまに奈緒はなんの前触れもなくこうしてやって来ることがある。





そんな場合に限って、秀一郎にとってはどうでもいい中身だったりする。





奈緒は生き生きとした表情をしている。





(ろくなことじゃない)





秀一郎はそう感じていた。





「秀、あたし、有名になっちゃうかもしれない」





「・・・は?」





何を言おうとしたいのかわからない。





「あたし・・・スカウトされた!」





そう言い放った奈緒は目が爛々と輝いていた。











翌日の放課後。





場所は泉坂高校映像研究部。





「いやあ、まさかこんなことになるとは思わなかったよ!これで学園祭も安泰だな!」





正弘はとにかく機嫌がよかった。





今年撮った映画が芸能関係者の目にとまり、奈緒と真緒のスカウトの話に繋がった。





その関係者とは泉坂のOBで、黒川が連れて来た外村という芸能プロダクションの社長だった。





もちろん当事者のふたり、奈緒と真緒もいた。





奈緒は芯愛のブレザー姿という事もあって、やけに目立っていた。





しかも常に外村に愛嬌を振り撒き、余計な一言を口にした正弘をどついたりと忙しい。





対する真緒は言葉少なめで大人しい。





(ほんとこいつはこーゆーときは大胆だな。ちっとは真緒ちゃんの慎ましさを見習えっての)





秀一郎は奈緒の様子を呆れながら眺めていた。





「う〜ん・・・」





外村は指で作ったファインダーに奈緒と真緒を入れては、唸り声をあげていた。





「どうした外村、なにか不満か?」





黒川が尋ねてきた。





「いやあ、ぶっちゃけひとりずつならそんな魅力ないんです。一卵性の双子でこのレベルだから惹かれたんですけど、ちょっとキャラが違うなあと・・・」





「撮影のときは同じ髪型にしてましたから。なんなら今からやってみます?」





正弘が外村にそう進言したが、





「いや、いい。そーゆー上っ面の話じゃないんだ」





と言って、さらにふたりに目を向ける。





「そんなに違うか?顔も背格好も同じようなものにしか見えんが。これで髪型まで一緒になると区別がつかないと思うがな」





黒川には外村がどうして悩んでいるのかわからない。





「えっと、セミロングのほうが奈緒ちゃん、妹だよね」





外村が尋ねると、





「はい!奈緒です!」





元気よく答える奈緒。





「で、ショートのほうが姉の真緒ちゃん」





「は、はい」





こちらは緊張気味の真緒。





「うーん、姉は少女だけど妹は女なんだなあ・・・」





「どういう意味だ?」





「いや、言葉の通りっすよ。妹のほうが大人びてんです。かなり雰囲気違うんすよ」





「ほお・・・男の目からだとそう見えるのか」





黒川が双子の姉妹に意味深な目を向ける。





「あー・・・」





それで正弘も何かに気付いたような声を出し、





ドカッ!





バキィッ!





奈緒の見事な拳と蹴りのコンビネーションを喰らう羽目になった。





「なに勝手にいやらしい想像してんのよ!このエロガッパ!」





相変わらずの奈緒節。





「奈緒、若狭先輩なにか気に障ること言った?いきなり殴っちゃダメだよ」





「お姉ちゃんは気付いてないの?」





「なにが?」





真緒は全くわからない顔をしている。





「・・・わからないならそれでいいよ」





奈緒はため息ひとつつき、あたりを見回す。






「あれ、秀は?」





秀一郎がいなかった。





「ああ、佐伯なら外村が連れていったぞ」





外村も部屋から姿を消していた。











そして秀一郎は外村に廊下の隅まで引っ張られた。





「いったいなんです?」





「男の話だ」





外村は携帯を触り、





「まあ、こんなもんかな。見てみろ」





外村が見せた画面には、美少女の水着姿が写し出されていた。





「誰ですこれ?」





秀一郎は初めて見る顔なのでわからない。





「ウチのタレントの子だ。まあ顔はどうでもいい。奈緒ちゃんってこんな身体だろ?」





「えっ?」





あらためて画面を見る。





「うーん、こんなにスタイルよくないっすよ。そもそも小さいですから」





「あんなに背が低い子は抱えてねえんだよ。でもそうなると・・・じゃ、こんな感じか?」





別の美少女が写し出された。





「ん!?」





思わず声が変わった。





(似てる・・・)





奈緒とよく似た身体のラインだった。





「そっかこんな感じか。思ったよりエロいな」





「な、なんでわかるんです?」





秀一郎は顔を赤くして尋ねる。





「この業界、服の上からスタイル見抜けんようじゃやってけねえよ」





外村は自信満々の笑みを見せた。





「まあ俺としては男を知ってる子を使うのは主義に反するが、まあ姉とセットってことで目をつむるよ」





「お、男を知ってるって・・・なんで・・・」





さすがに驚く。





「仕事で女の子扱ってんだからわかって当然だっつの。女は男を知ると体つきや雰囲気がガラッと変わる。特にお前の彼女、妹は姉という比較材料があるから一目瞭然。個人的にはいい女だな。だろ?」





「そ、そんなのよくわかんないっすよ。俺、女の子ってあいつしか知らないから・・・」





「なるほどな。でも身体的には不満ないだろ?」





「ま、まあ・・・って、なに言わせるんすか!」





奈緒の踏み込んで欲しくない所に入られたように感じ怒る秀一郎。





だが外村は楽しそうな笑みで、





「これくらい余裕で話せるようになれよ。男の話だっつったろ。あの子には言わねえから安心しろ。でもあの子がセフレだと楽しいだろうな」





さらに突っ込んだ話を始めた。





「な、なに言い出すんすか!言っとくけど俺は奈緒をそんな風には見てないっすからね!」





「わかってるわかってる。けどズバリ言わせてもらうが、あの子ベッドの上だとドMだろ?」





ドキッとした。





「あ、えーっと、その・・・」





なんとしても否定したいが、言葉が出て来ない。





外村はニヤリと笑みを浮かべ、





「やっぱそうか。小柄でロリで可愛くてエロい身体でドMか。脱いだら需要高そうだな。





「ちょ、ちょっと、まさか奈緒にそんな仕事・・・」





「させねえよ。てかやらないしやってもいないしやりたくもねえ。脱がせるのは俺の主義じゃねえんだ。そもそも未成年にそれさせたら一発で捕まって終わりだ。俺はそこまでバカじゃねえ」





真顔でこう答えた外村の言葉に嘘は感じられなかった。





堅かった秀一郎の表情が普通に戻ると、





「じゃ、戻るか。俺の頭でイメージは固まった。あとは姉の説得だな。まあなんとかするから邪魔するなよ」





自信に満ちた背中を見せる外村。





黙ってついていく秀一郎。





そこではっと気付いた。





(あ、しまった。さっきの否定してねえ。けど俺がこの人になに言っても無駄な気がするし・・・)





少し考え込む。





(俺は女の子はあんなんだと思ってたけど、違うのか。確かに言われてみればそんな気がする。けどドが付くほどのもんかなあ?)





外村に指摘されあらためて気付いた。
.




普段は気が強い奈緒が、ベッドの上では秀一郎にかなりのMっ気を見せていることに。











その後の外村は手際がよく、見事だった。





消極的な真緒を言葉巧みに説得して乗り気にさせ、その日の夜にスーツ姿で自宅に赴き両親の承諾を得ると正式に契約書を取り交わした。





奈緒と真緒の初仕事はたまにコンビニで見かける程度の部数を持つ青年マンガ誌の水着グラビアだった。





契約を済ませてから3日でもう都内のスタジオを丸1日借り切って撮影を済ませた。





そしてその本の発売日の昼休み、





真緒が弁当を持って秀一郎のところへ逃げてきた。





屋上でふたり揃って弁当箱を突く。





「もう、朝から凄い騒ぎです。知らない男子生徒が雑誌持ってあたしのところに来て、サイン下さいとか写真撮らせてとか・・・」





ふうと大きなため息をつく真緒。





秀一郎は携帯を取り出し、





「奈緒のほうも結構な騒ぎらしい。メール来てるけど、同じように知らない男子が押し寄せたってよ。けど向こうは菅野たちが間に入ってくれてるみたいだからさほど迷惑そうな感じじゃないな」





「奈緒はいろんな人たちに護られてますからね。でもあたしは自衛するしかないんですね」





「まあ、あまりにも度が過ぎた輩は一発かませばいいと思うよ。そうすれば静かになるよ」





「やっぱりそうするしかないんですね」





暗くなる真緒。





「でも騒ぎになるのも仕方ない気がするよ。ホント綺麗に撮れてるもんな。プロは凄いよ」





秀一郎はそのマンガ誌を出してページを広げた。





それで真緒の顔が真っ赤になる。





「せ、センパイも持ってるんですか?」





声が上擦る。





「そりゃ当然だろ。買わにゃ奈緒になに言われるかわからん。けどこうして見ると真緒ちゃんホントスレンダーだな。でも貧相じゃない。男が騒ぐ気持ちもわかる気がする。





「あ、あまり見ないで下さい!ビキニなんてホント恥ずかしくて・・・いろいろ恥ずかしい写真もあって・・・あ〜〜っ!?」





真緒の恥ずかしがる様子がとても可愛く感じる秀一郎だった。





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