regret-31 takaci様

「由香お姉ちゃん、その指輪外して!」





「なんで?だってこれは隆二センパイがあたしにくれたものよ」





「隆二はあたしの恋人なの!だからあたしの前でそれは見せないで!」





「なんでよ?あたしはセンパイからのプレゼントは嬉しい。それを肌身離さず身につけていたい。ごく自然なことじゃない。そこまで否定する権利、利香にはないよ」





「それってお姉ちゃんも隆二が好きってことでしょ?」





「だったらどうなの?」





「ダメったらダメ!隆二はあたしのもの!いくらお姉ちゃんでもダメ!」





「なんでそんなに怒るの?あたしは別に利香からセンパイを盗ろうとは思ってないわよ」





「好きなだけで満足するはずがない!想いが募れば絶対に隆二が欲しくなるに決まってる!だからお姉ちゃんは隆二を好きになっちゃダメなの!」





「恋愛は自由よ!利香にそこまで言う資格はない!」





「なくても言う!ダメなものはダメ!だから・・・」





パアン!












「うっひゃ・・・」





画面に吸い込まれていた秀一郎から思わず声が出た。





9月。





泉坂高校は2学期が始まった。





夏休み後半、奈緒と真緒は映研の撮影漬けだった。





やはり演技は素人のふたり。





リテイクが多くなり、撮影スケジュールも押しに押して全て撮り終えたのが夏休み終了2日前だった。





奈緒たちは一応これで解放されるが、映研メンバーはこれから地獄の編集作業が待っている。





正弘もそれを担当するが、今回の撮影で最もよかったシーンを先程秀一郎に見せていた。





「すごいだろここ。気迫のこもった名演技だ」





「あのふたりがこんな演技するとはね」





意外としか言いようがない秀一郎。





「しかもそのシーンはほとんどアドリブだったからさらに驚きだ」





「じゃ、あの真緒ちゃんが奈緒を殴ったのも?」





「そんなシナリオを桐山が書くわけないだろ。真緒ちゃんのアドリブ」





「そっか。なんか本気のケンカに見えるな」





「撮ってたときも、スタッフ全員驚いてたな。けど桐山だけは少し笑ってたな、あれ何だったんだろ?」





「桐山は目茶苦茶大変だったろうな。俺からも礼を言っとかないと」





この撮影で沙織は最も忙しいひとりだった。





演技に慣れないふたりのために常に脚本を修正、そこで生じたストーリー全体のズレの帳尻を合わせるための微調整の繰り返し、





さらには奈緒の宿題を片付けるために頭を働かせたのも沙織だった。





現在は放課後。





(桐山、いるかな?)





秀一郎が向かったのは図書室。





中に入り、辺りを見回す。





(あ、いた)





机に座り、いくつかの本を積み、さらにはノートパソコンを広げている。





そして、ここでは眼鏡姿。





「よっ、桐山」





「あ、佐伯くん」





にっこりと微笑む沙織。





「いろいろありがとな。奈緒の宿題とか世話になりっぱなしで」





「ううん、あれくらいならいつでも言ってくれればいいよ。そんな大変じゃなかったから」





「でもなあ、結局あいつは今年も宿題を自力でやらなかったんだよなあ。それが問題だ」





悩み顔を見せる秀一郎。





「奈緒ちゃんって要領がいいんだろうね。本来はやらないほうがいいことが出来ちゃう。それに対してまわりは何も言えない。そんな感じだったな」





「それって、決していいことじゃないよな?」





「う〜ん・・・まあよくも悪くもかな」





苦笑いを見せる沙織。





「ところで桐山はなにしてんの?なんかやたら広げてるけど?」





「映研でのあたしの仕事はひと段落ついたから、今度は本業の文芸部のほう。資料探してプロット作ってるの」





「一体どんなのを書くつもりなんだ?」





歴史書、科学書、占い、その他もろもろ。





資料で探し出した本なのだろうが、ここからどんな話が生まれるのか想像がつかない。





「一応、普通の恋愛ストーリーの予定。けど設定をどうするか悩んでるの」





「・・・恋愛もので、資料がこれ?」





恋愛ものに科学書が必要になる理由がわからない秀一郎。





「主人公の友人に理系の人がいるの。これはそのための資料だよ」





「そんな細かいことまで資料探して設定してるの?」





「あたし、曖昧な設定ってダメなんだ。ある程度下地になる情報に基づいてからでないと書けないの。だからプロット作るだけでも時間かかっちゃって」





「そっか、大変だな」





「でも今年は楽になったよ。図書室にノートパソコン持ち込みOKになったから。去年は資料を借りれるだけ借りて、それを家のパソコンに入力して、返してからまた借りての繰り返しだったから」





「ストーリーを書くってのも大変なんだな。俺には出来そうにないな」





あらためて沙織の凄さを実感する秀一郎だった。












とある週末。





淳平は軽井沢で過ごしていた。





誘ったのはもちろん綾。





綾は文芸誌の連載に人気シリーズものの小説の執筆を抱えている。





大体は東京の自宅マンションで書いているが、夏は避暑を兼ねて軽井沢のマンションで書くことが多い。





「淳平、こんな感じでどうかな?」





「この辺の表現、ちょっと迷ってない?」





「うん。あまり強い言葉にすると全体のバランスが崩れそうな気がするんだ。でも敢えてそうするのもありかなって気もしてる」





「そうだな、ここは攻めの気持ちで書いたほうがいいと思うよ」





「そっか。じゃあそうしてみる」





綾は書き上げた原稿のほとんどをすぐに淳平に見せている。





そして淳平の意見を聞いて、少し手直ししてから提出している。





「昔ね、天地くんに言われたことがあるんだ」





淳平と夕食の食卓を囲みながら、綾は学生時代の出来事を口にした。





「天地かあ、あいつ今どうしてんだろ?」





淳平はすっかり忘れていた。





「彼ね、あたしが淳平の意見を聞いて小説を書くのを反対したの。あたしの才能の幅を縮める。プロにあるまじき行為だって」





「あいつならそれくらい言いそうだな」





「でも、現実は淳平に目を通してもらってるからいいものが書けてると思う。淳平の意見があたしの作品を良くしている。彼はどう思ってるかな?」





「今更何も言わないだろ。いくらあいつでも言えないんじゃないか。理想と現実は違う」





「淳平はよくそう言うけど、あたしは理想の生活してるんだよね」





「そうか?」





「うん。あたしはただ思いついた話を書いてるだけ。それを淳平に見てもらって、それが本になって売れて、こうして今の生活が出来てる。ほとんど理想通りだよ」





「そっか・・・」





「・・・西野さんから、連絡来る?」





「なんだよいきなり?」





「あたし、勝手に淳平の連絡先を教えちゃった。迷惑だったらどうしようって・・・」





綾は今にも泣き出しそうな顔をしている。





「俺のことより、綾のほうが心配だ。俺とつかさが影で連絡取り合ってるなんて嫌だろ?」





「うん。でもそこまで縛りたくない。淳平には、あたしと西野さん、対等に選んで欲しい。それで淳平に悔いを残して欲しくないの」





「でも、それでもし俺がつかさを選んだら、綾はどうする?」





「それは、その・・・そんなの・・・嫌・・・」





綾の身体が小刻みに震え出す。





「綾、ちょっと?」





淳平は慌てて席を立ち、向かいの綾をぎゅっと抱きしめる。





「淳平がいなくなるなんて嫌・・・淳平はあたしの全て・・・何も書けなくなる・・・何も出来なくなる・・・」





「だったら俺に気遣うな。俺は綾が望めばずっと側にいる」





「でもそれは淳平の望みなの?西野さんとの未練はないの?」





「そんなの気にするな。俺も綾が大事だ。これくらいのことで取り乱す綾を放っておけない。綾に辛い思いさせてまでつかさを選ぶ気なんてない」





「でもそれだと、あたし凄く嫌な女。あたしの気持ちだけで淳平を縛っちゃう。そんなのいつか嫌われる気がして・・・」





「それでいい。完璧な人間なんていやしない。嫌なところなんてあって当たり前だ。もっと自分に自信持てよ」





「淳平は・・・こんなあたしでも・・・好きでいてくれる?」





ついに泣き出してしまった綾。





淳平は腕に力をこめた。





「綾は綾のままでいてくれればいい。俺はそんな綾が好きなんだ」












その頃、つかさは、





「わあ、さつきちゃん久しぶり〜」





「久しぶり西野さん。ホント美人になったね!」





「それはさつきちゃんだよっ!もう何年ぶりなんだろ?確か高3の夏以来だから・・・」





「西野さん、歳の話はやめよっ!」





「そっか、そうだね」





かつて淳平を巡って恋の火花を散らせたライバル、さつきと数年ぶりの再会を果たしていた。





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