regret-27 takaci様

旅行最後の夜。





旅館の近くで夏祭り&花火大会が催され、当然のごとく全員で訪れた。





さらに女子全員、旅館が用事してくれた色とりどりの浴衣を纏っていた。





「浴衣いいな〜」





「ホントに参加してよかった〜」





ほとんどの男子が浮かれていた。





ただ秀一郎は、心の底から楽しめていなかった。





沙織と奈緒の確執。





里津子の衝撃の告白とこの旅行の真意。





(何事もいろいろ知らないほうが楽しめるってよく言うけど、本当にそうだな)





気がつくと、里津子や沙織の表情をうかがっていた。





「さてと、じゃあ組み合わせ決めますか!」





里津子が笑顔で8本のくじを用意した。





この夏祭りは、男女ペアで行動することになっていた。





秀一郎と奈緒のペアは確定で、それ以外はくじ引き。





当初はこのふたりもくじに参加することになっていたが、奈緒が駄々をこねた上に男子勢が奈緒とのペアにあまり乗り気ではなかったので、恋人同士は確定ということになった。





秀一郎は少し複雑な表情でくじ引きの様子を見ていた。





「なによその顔。秀は他の女の子と回りたかったの?」





「まあ、この祭の間だけならそれもアリかなとは思ったよ。お前とはこれからいろんなところに行けるけど、他の女子とはそんな機会ないだろ?お前も別の男と一緒に遊ぶのだって新鮮な気分じゃないのか?」





「まあ、否定はしないよ。それも楽しいと思うけど、でも今日は秀と一緒がよかったの!」





「まあいいさ、俺も他の奴にお前のお守りをさせるのは気が引けたからな」





「・・・やっぱあたしって相当わがまま言ってるよね」





「自覚がないとまずいくらい言ってるぞ」





「ゴメンね。でも帰ったら埋め合わせするから。だから今日まではわがまま言わせて」





「別にいいよ、いつものことだ」





そして組み合わせが決まり、それぞれ別れた。





が、正弘が真緒と一緒になり、姉妹揃って回ると奈緒が言い出したので、4人で回ることになった。





正弘が落胆したのは言うまでもない。





「若狭、すまないな」





「いいってことよ。これもくじ運さ。それに今回の旅行で女子と親しくなれたし、メアドもゲットした。これ以上高望みはしないよ」





「へえ、正ちゃん誰を狙ってるの?」





興味深々の目を光らせる奈緒。





「まあ、それは内緒だ。下手に口を滑らせて漏れるとまずいからな」





「なんだあ、もし桐山さん狙いだったら応援してあげようと思ったのに」





「桐山かあ、桐山はなあ・・・」





「なんだよお前、新学期早々は桐山のこと相当気にしてたんじゃなかったっけ?」





口を濁す正弘の態度が気になる秀一郎。





「いや、確かに桐山はレベル高い。綺麗だしスタイルもいい、性格だって悪くない。けどちょっとノリが悪いんだよ。一緒にいると疲れる感じだな。それに桐山はひとりの男しか見えてない気がする。だから桐山はノーマークなんだ。これ男子全員の意見さ」





「なんだよそれ?俺は何も知らないぞ?」





「最初の夜、お前は奈緒ちゃんと熱い夜を過ごしてたときに独り身の男4人でいろいろ話したんだよ。全くお前はひとりでオイシイ思いしやがって」





「何よ、正ちゃんも恋人と一夜過ごしたいの?」





奈緒が割って入ってきた。





「そりゃそうさ、俺だけじゃなく、男全員そう思うさ」





「でも正ちゃんて自分が満足したらさっさと寝ちゃうイメージあるなあ。女の子満足させられるの?」





奈緒は平然と際どい言葉を口にする。





「し、失敬な!そりゃいきなりは無理かもしれんが、俺は精一杯やるぞ!」





「いくら精一杯でも、それで相手が満足しなきゃダメなのよ。わかってないよ」





「じゃ、じゃあ奈緒ちゃんは佐伯に満足してんのかよ?」





「うん。秀と寝るのは楽しいし、気持ちいいもん」





(こいつは・・・)





奈緒には女の子らしい恥じらいが欠けていると秀一郎は改めて感じた。





話を聞いているだけの秀一郎も顔が熱くなっており、真緒も顔が真っ赤だった。





さすがの正弘も言葉を失い、何か怨みが込められた視線を秀一郎に飛ばした。





その視線が痛い秀一郎。











「よう、お前ら!」





突然、出店から声がかけられた。





「あんた・・・!」





緊張が走る。





先日の夜にケンカをした桜田がタコ焼きを焼いていた。





当事者の真緒も緊迫した視線をぶつける。





だが桜田は至って笑顔で、





「おいおいそんな顔するな。見ての通り俺は稼ぎ時だ。ケンカなんかする気はねえよ。それにそもそもお前らに怨みはねえし報復なんて考えてねえ。安心しろ」





「そうですか・・・」





真緒が緊張を解き、笑顔を見せる。





「この前は久々にいいケンカが出来た。負けたのは悔しいが、あんたの蹴りは本物だった。認めるよ。強いぜあんたは」





「ありがとうございます。でも、強くてもあまり嬉しくないですね」





「強いに越したことはないと思うぜ、それに今日のあんた、かわいいよ。浴衣よく似合ってるぜ」





「そう言われると、嬉しいです」





ニッコリ笑顔を見せた。





「ほらよ、持ってきな!」





桜田はタコ焼きを二皿差し出した。





「い、いえそんな、ちゃんと払います」





恐縮する真緒。





「いいってことよ。いいケンカが出来たことだし、迷惑かけた詫びだ。あとこっちに来ることがあったり、イザコザに巻き込まれたら力になるぜ。周藤会の桜田って言えば通じるからよ。祭楽しんでくれよ!」





「は、はい。ありがとうございます。では」





桜田の熱意に押されてタコ焼きを受け取り、4人揃って屋台を後にした。





「な、なあ、あの桜田ってひと、ひょっとしてそっちの筋の人か?」





正弘はすっかりヒビッている。





「たぶんそうですね。そんな感じがしました」





真緒は至って平静で、タコ焼きを一皿奈緒に渡した。





「別に驚くほどでもないじゃん。菅野だってお父さんはヤクザの幹部だよ。あ、このタコ焼き美味しい」





奈緒は美味しそうにタコ焼きを頬張る。





「ま、マジっすか?こえ〜」





さらにビビる正弘。





「別にそうだからってそんなに怖がることはない。確かにあまり関わりたくはないが、ちゃんと向き合って付き合えば問題ないよ」





秀一郎も平静としてタコ焼きを口にした。





「そんなもんなのかあ。あ、そうだ付き合うって言えば、真緒ちゃん」





「え、はい?」





突然正弘から話を振られて驚く真緒。





「真緒ちゃんてさ、自分の彼氏ってやっぱり自分より強くないとダメ?」





「あ、いえ、そんなことないです。あまりに弱々しいのはちょっと嫌ですけど、そこまでは求めません」





「そっか、ありがと!」





(あいつ、真緒ちゃん狙ってるのか?)





正弘の質問の意図がイマイチ読めない秀一郎だった。











ドドーン!!





色とりどりの花火が上がる。





「わあ、きれい・・・」





夜空に咲く一瞬の煌めきに心奪われる奈緒。





多くの観客が花火に見入っている。





「あたし、どうしても秀と一緒に花火観たかったの」





「そっか」





「あとね、どうしてもあの人とは観てほしくなかった」





「あの人?」





「・・・桐山さん・・・」





ドキッとした。





奈緒は空を見上げているが、その横顔はどこか寂しそうだった。





「・・・なんで桐山をそんなに嫌うんだ?いい子だろ?性格だって悪くない」





「・・・そうだね。でもこれ理屈じゃないの。あの人と秀が同じ時間を共有するのは嫌なの」





「はっきり言っておくが、俺は桐山を恋愛対象として見ていない。あくまで同じクラスの女友達だ。御崎も一緒だ。それだけだ」





「うん、秀はそう言ってくれると思ってた。秀は信じてるよ。でもね、嫌なものは嫌なの。だから理屈じゃないの」





「参ったな・・・」





秀一郎としては沙織と奈緒が仲良くして欲しかった。





だが奈緒にはその気は全くない。





「ゴメンね。学校で秀が桐山さんと話したりするのは止めない。クラスメイトだもん。仕方ないよね。でもあたしが側にいれる時は、あたしを見て。お願い・・・」





まるですがるような目で秀一郎を見つめる奈緒。





この目に秀一郎は弱かった。





ふうと息をつき、奈緒の肩を抱き寄せる。





「わかったよ」





「ありがとう、秀・・・」





ホッとした笑みを見せる奈緒だった。




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