regret-11 takaci様

秀一郎にケンカの経験はほとんどない。





(でもこれじゃケンカにもならない。一方的にやられるだけだ)





5対1。絶望的な状況。





ただ幸いにも、出口は空いている。





「始まったらお前は逃げろ」





小声で背中の奈緒に囁く。





「え?でもそれじゃ秀が・・・」





「俺には構うな。お前が無事ならそれでいいんだ。そのために来たんだ」





にじり寄る男たち。





秀一郎は奈緒を庇いながら、少しずつ後ずさりする。





ガチャ・・・





出口の扉が開いた。





(しまった!外に仲間がいたのか?)





絶望感に包まれる秀一郎。





逆光ではっきりしない姿が次第にわかるようになる。





秀一郎の絶望が、希望に変わった。





「センパイ!」





そう呼び、素早く側に並んだ小柄な影。





「真緒ちゃん、どうしてここに?」





「芯愛で奈緒の回りに嫌な動きがあるって聞いてたんです。それで気になって」





「とにかく助かったよ」





秀一郎の表情に余裕が生まれた。





それを察知した男たちは、





「オイオイ、随分か弱い加勢だなあ!」





「お嬢ちゃん、痛い目見たくなかったらすっこんでな!」





低い声で凄みを効かせる。





だが真緒は一切動じない。





「言いたいことはそれだけですか?ならかかって来なさい。こちらから手を出したくないですから」





逆に煽った。





「んだとお!このアマ・・・」





激昂する男たち。





「センパイ、コンビネーション覚えてますか?あれで行きましょう」





「あれかあ。練習だけで実際使ったことないけどな」





「練習通りでいいです。あとはあたしがフォローします。奈緒は離れてて」





「うん・・・」





硬い表情で頷く奈緒。





「なにグチャグチャ勝手に喋ってんだあ!」





男の一人が飛び掛かってきた。





「センパイ!」





「おお!」





恐怖を勇気で補い、秀一郎は前に出た。





ガッ!!





男のキックを両腕で受け止める。





それで十分だった。





「ぐあっ!?」





キックを出した男が倒れた。





秀一郎の背後から見事な跳躍を見せた真緒が男の横っ面にハイキックを入れていた。





「このアマ!」





次の男が着地を決めた真緒に襲い掛かる。





「させるか!」





間に割って入る秀一郎が男の動きを一瞬止めた。





「ぐほっ・・・ゲハッ!」





その一瞬の隙を付いた真緒のコンビネーションキックが決まった。





(これでふたり!)





緊張の中の秀一郎だが、少しずつ自信が出てきた。





「てめえらあ!」





三人目の男が来た。





(俺の役目は、真緒ちゃんを護ること)





素早く秀一郎が割って入り、男のキックをガード。





その直後、





「ぐえっ!」





男が嫌な唸り声を上げる。





真緒のキックが鮮やかに決まった。





4人目も同じように、真緒によって倒された。













「ぐっ・・・テメエら・・・」





ずっと様子を伺ってたリーダー格の男が狼狽する。





あっという真に仲間が4人も倒された。





しかも、実質はたったひとりの小柄でか弱そうな少女に。





「さあ、あなたはどうします?ここで引き下がったほうがいいと思いますよ」





真顔の真緒がリーダー格にそう告げる。





小柄な少女から発せられるその言葉は迫力に満ちていた。





それを受け、





「・・・だからってはいそうですかって引けるわけねえ!この芯愛をシメる菅野和正がテメエみたいな女に負けたとなったら示しがつかねえんだよ!」





立ち上がり、真緒ににじり寄る。





真緒はふうと息をつき、





「なんでこういう人たちって体面ばかり気にするんだろ・・・」





菅野の対応を予測しつつも呆れていた。





そして、





「わかりました。サシで勝負しましょう。じゃなきゃ納得出来ないでしょう。あなたたちは」





一歩踏み出た。





「真緒ちゃん!」





「大丈夫です。センパイは奈緒を頼みます」





制止に入った秀一郎に優しい笑みを見せる真緒。












菅野は気を引き締めていた。





(この女、たたもんじゃねえ。あの身のこなし、相当ケンカ慣れしてる)





見た目は本当に小柄な真緒にただならぬ脅威を感じる。





だか菅野にも自信があった。





(俺だって伊達に芯愛を、このあたりのシマを占めてるわけじゃねえ。ケンカで引くわけにはいかねえんだ!)





ギラリと睨みつけ、真緒に狙いを定める。





「行くぜ!うおおおお!」





唸りをあげて真緒に襲い掛かる。





真緒も飛び出してきた。





「うりゃあ!」





菅野が右ストレートを放った。





その刹那、





(消えた?)





真緒の姿が視界から消え失せる。





ガッ!





左膝に衝撃が走る。





真緒が死角からローキックを放っていた。





「このやろう!」





再び真緒に狙いを定め、今度は右足を出した。





だが、





(また消えた!?)





姿がない。





そして再び左膝に衝撃。





真緒の攻撃だった。





「そんな蚊みたいな蹴りなんざいくら喰らっても効かねえんだよ!」





事実、真緒の攻撃の威力は弱かった。





(クリーンヒットを喰らわなきゃ対したことねえ!俺の拳が一発でも当たれば終わりだ!)





自信を持ち、三度真緒を視界に捕らえた。





だが、





「くそ・・・くそ・・・くそったれ!」





視界に捕らえて攻撃を繰り出す度に、真緒は消える。





そしてその都度、左膝の衝撃が続く。





(ちくしょう!ネズミみたいにちょこまかと・・・ん?)





焦りが生まれだす菅野は、とある噂を思い出した。






(この制服は泉坂。確か泉坂に行ったと言われてた・・・小さくてとても速く、半端なく強い女・・・)










ガクッ!





(なにぃ?)





菅野の左膝が崩れた。





真緒の休みない連続攻撃によるものだった。





「ちくしょう!」





倒れる。





立て直せない。





(なっ・・・)





倒れ行く視界の中、ずっと捕らえられなかった真緒の姿が大きく浮かび上がる。





凛々しく、そして美しい。





(間違いない・・・こいつは・・・)





ガッ!!





真緒のキックが菅野の顎に鮮やかに入った。












「奈緒、彼らに謝りなさい」





「えっなんで?だってこいつらが・・・」





反抗する奈緒だったが、





「彼らには彼らの、芯愛には芯愛のルールがあるの。今回それを乱したのは奈緒、あなたよ。その非は素直に認めなさい」





真緒にピシャリと言われ、





「えっと、その・・・ゴメンなさい」





壁に寄り掛かり、顎を押さえて腰を下ろす菅野に頭を下げた。





「今更別に構いやしねえ。俺たちのしてることをわかってくれればいいんだ。そもそもシメられた俺たちがとやかく言う資格はねえよ」





「シメたとかシメられたとか、あたしはそんなつもりはありませんから」





真緒がそう言うと、菅野は寂しげにフッと笑った。





「全く、発端は奈緒だったとはな・・・」





呆れる秀一郎。





話を聞くと、菅野の仲間がカンパの協力を募っていた光景を見た奈緒がカツアゲだと騒いだことが発端だった。





だが実際は奈緒の言い掛かりで、その話がもつれにもつれて今日の呼び出しに繋がってしまった。





「ゴメン。でも、怖かったよお・・・」





秀一郎の胸の中で泣き出す奈緒だった。





「とにかくこの件はこれで終わりだ。俺たちはもう二度とあんたの妹には手をださねえ。もし他の学校の奴らから面倒なことがあったら手を貸してやる」





菅野がそう言うと、





「すみません」





真緒は丁寧に頭を下げた。





「なあ、あんたの名前を教えてくれないか?」





「小崎真緒です」





「小崎真緒・・・か。そうかやっぱりな。あんたがあの伝説の[瞬動の魔女]とはな・・・俺が勝てる相手じゃねえ」





「ええっ!?あの伝説の最強女、瞬動が・・・こいつ?」





菅野の仲間たちは声をあげて驚いた。





それを受けた真緒は、





「その名前は好きじゃないの。出来ればそう呼んで欲しくない」





悲しそうな顔でそう呟いた。













「瞬動の魔女・・・俺も聞いたことある・・・あの伝説の最強の女が・・・真緒ちゃん・・・」





店の外からこっそりと様子を窺っていた正弘も驚いていた。






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